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マリーゴールド
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『なぁ、本当にこんなに荷物がいるか?』
『いるよ!だって、せっかくのさっくんとの旅行だよ⁉︎』
彼女はカバンをゴソゴソと漁る手を止めパッと俺を見上げた。
窓から入る光が彼女を照らす。
『お弁当に水筒、水着に着替え』
あと、と彼女が再び手を動かす。
暑い日差しに視線をやると、ミンミンと鳴く蝉が視界に映る。
『旅のしおり‼︎』
彼女の明るい声に視線を戻せば体感温度が二度上がる。
目を奪われてしまい視線が外せない。
綺麗としか言いようの無い光景だ、と言うとこまで考えて恥ずかしくなる。
馬鹿か。好きすぎるだろう。
俺との旅行をこんなにも楽しみにしている結衣が可愛くて堪らない。
馬鹿でいい。好きすぎていい。むしろ愛している。
キョトンとした表情を浮かべ顔を覗き込む姿に心臓が跳ねた。
ニヤケ顔を悟られまいと、腰に腕を回し体を抱き寄せる。
甘いアイスクリームのような香りが鼻腔を刺激した。
余の甘さに頭痛さえした。
それにさえ高鳴る心臓に恥ずかしくなりぎゅうっと更に力を込める。
『ど、どうしたの?』
『何もない、何もないから。しばらくこうしていよう?』
俺の問いかけに小さく彼女の黒い髪が揺れた。
細くて白い首筋に顔を埋める。
びくりと跳ねる体にクスリ、と笑い悪戯に舌を這わせる。
『ひぃ、やっ。』
真っ赤になった耳、あまく唇から漏れ出る声。
口元が思わず弧を描く。
もっと虐めたい、もっと自分しか知らない結衣を見たい。
そう思えばもう止まらずに彼女の柔らかい首筋に甘く吸い付く。
白い肌に赤く散った花に更ににやけてしまう。
『そ……い……な……き……ら……』
『え?』
『それ以上、続けるなら嫌いになるから!!』
ボソボソとした声に聞き返せば、薄っすらと雫を浮かべた瞳をこちらに向け睨まれる。
嫌いの声に、俺は気付けば離れて膝を曲げて座り手を着いて頭を下げていた。
所謂、土下座と言うスタイルだ。
恥もプライドもない。
結衣に嫌われてしまうぐらいならそんなもの糞食らえだ。
ふと、結衣が笑ったような気がして顔を上げるとニヤニヤと笑う口元が視界に映った。
『さっくん私のこと好き過ぎ!!』
明るい彼女の声を境に俺の視界は暗くなりぐるりと回った。
——。
————。
——————。
次に目を開けた時に映ったのは真っ青な視界だった。
身体からゆっくりと体温が失われていく感覚にその青は水の青だと悟った。
どうしてこんな所にいるんだ?さっきまで結衣と笑っていた筈なのに。
そんなことを考えている内に時間切れは酷一刻と迫っている事に気付かずに俺は思考を続けた。
状況の整理をしようと周りを見渡す。
見上げれば朱色が視界を満たした。
風が冷たいのは時間のせいだと知った時にふ、と、結衣の顔が浮かんだ。
「ゆ、い」
声を出した時にようやく、自身が少し衰弱している事に気が付き更にクルクルと周りを見渡す。
男の俺でこれだけ寒くて、体力も足りなくて、もう諦めてしまおうかとさえ思っているのに、女の子である結衣だったらどうなってしまうんだろう。
‘ドポン’と言う音が聞こえる。
まるで心臓が耳元にあるかのような、錯覚に陥る。
息が上がる。体から血の気がひいていく。
目を閉じ息を深く吸い込む。
うごけない。動かない。
なんて言ってられない。
目を開け音のした方に体を向け冷たく暗い水の中に身を沈めた。
少し口内に入ってくる味にこの水が海水だと悟った。
目が少し痛い。
でもそんな事言ってられない。と、目を見開き視線だけで愛しい彼女を探す。
視界の端に白い布が映った気がして足を更にバシャバシャと動かす
こう言う時の勘は嫌と言うほど当たる。
それは紛れもなく沈んでゆく彼女の姿だった。
慌てて抱き抱え水面から顔を出す。
呼吸を整える事さえ忘れ彼女の体を揺らす
「結衣……!!」
大きな声で呼びかけ首筋に手を当てる。
冷たくなったそこに嫌と言うほど赤い花が白い肌によく映える。
ポロリと冷たいモノが伝う。
声に反応したかのように彼女の手が頬に触れる。
まるで氷のようなその手に自分の手を添えれば彼女は少し目を開け、柔らかく笑った。
その表情に何かが決壊してしまった俺は強く抱きしめる。
ただひたすら強く強く。
彼女が苦しくないかとか、痛くないかとか考えずに、ただただひたすら腕に力を込める。
力の抜けた抜け殻にもう何も気にしなくて良いのだと悟る。
「ゆ、い。なぁ。結衣。う、そ、だっ、ろう?」
プツプツと途切れて漏れる声に嗚咽が混ざる。
辛い。嫌だ。どうして。一緒に生きていくって決めていたのに。
失うなんて。
嫌だ。嫌だ。
いやだ。いやだ。いやだ。
イヤダ。イヤダ。イヤダ。イヤダ。
感情がぐちゃぐちゃになり胸の内が暗い何かに覆われる。
もういっそこのまま全て捨てて一緒になってしまおうか。
そこまで考えたところで視界は再びフェードアウトした。
もういい。何処へでも連れて行ってくれ。
体に強い風が当たり目を開く。
グラグラと揺れる体に疑問を抱き下を見下ろす。
次に俺がいたのは高層ビルの屋上だった。
迷う事なく僕は一歩足を踏み出す。
ふわりと体が舞う感覚がしすぐに強い重みを体に感じた。
じゃあね、結衣。僕も今から行くよ。
『いるよ!だって、せっかくのさっくんとの旅行だよ⁉︎』
彼女はカバンをゴソゴソと漁る手を止めパッと俺を見上げた。
窓から入る光が彼女を照らす。
『お弁当に水筒、水着に着替え』
あと、と彼女が再び手を動かす。
暑い日差しに視線をやると、ミンミンと鳴く蝉が視界に映る。
『旅のしおり‼︎』
彼女の明るい声に視線を戻せば体感温度が二度上がる。
目を奪われてしまい視線が外せない。
綺麗としか言いようの無い光景だ、と言うとこまで考えて恥ずかしくなる。
馬鹿か。好きすぎるだろう。
俺との旅行をこんなにも楽しみにしている結衣が可愛くて堪らない。
馬鹿でいい。好きすぎていい。むしろ愛している。
キョトンとした表情を浮かべ顔を覗き込む姿に心臓が跳ねた。
ニヤケ顔を悟られまいと、腰に腕を回し体を抱き寄せる。
甘いアイスクリームのような香りが鼻腔を刺激した。
余の甘さに頭痛さえした。
それにさえ高鳴る心臓に恥ずかしくなりぎゅうっと更に力を込める。
『ど、どうしたの?』
『何もない、何もないから。しばらくこうしていよう?』
俺の問いかけに小さく彼女の黒い髪が揺れた。
細くて白い首筋に顔を埋める。
びくりと跳ねる体にクスリ、と笑い悪戯に舌を這わせる。
『ひぃ、やっ。』
真っ赤になった耳、あまく唇から漏れ出る声。
口元が思わず弧を描く。
もっと虐めたい、もっと自分しか知らない結衣を見たい。
そう思えばもう止まらずに彼女の柔らかい首筋に甘く吸い付く。
白い肌に赤く散った花に更ににやけてしまう。
『そ……い……な……き……ら……』
『え?』
『それ以上、続けるなら嫌いになるから!!』
ボソボソとした声に聞き返せば、薄っすらと雫を浮かべた瞳をこちらに向け睨まれる。
嫌いの声に、俺は気付けば離れて膝を曲げて座り手を着いて頭を下げていた。
所謂、土下座と言うスタイルだ。
恥もプライドもない。
結衣に嫌われてしまうぐらいならそんなもの糞食らえだ。
ふと、結衣が笑ったような気がして顔を上げるとニヤニヤと笑う口元が視界に映った。
『さっくん私のこと好き過ぎ!!』
明るい彼女の声を境に俺の視界は暗くなりぐるりと回った。
——。
————。
——————。
次に目を開けた時に映ったのは真っ青な視界だった。
身体からゆっくりと体温が失われていく感覚にその青は水の青だと悟った。
どうしてこんな所にいるんだ?さっきまで結衣と笑っていた筈なのに。
そんなことを考えている内に時間切れは酷一刻と迫っている事に気付かずに俺は思考を続けた。
状況の整理をしようと周りを見渡す。
見上げれば朱色が視界を満たした。
風が冷たいのは時間のせいだと知った時にふ、と、結衣の顔が浮かんだ。
「ゆ、い」
声を出した時にようやく、自身が少し衰弱している事に気が付き更にクルクルと周りを見渡す。
男の俺でこれだけ寒くて、体力も足りなくて、もう諦めてしまおうかとさえ思っているのに、女の子である結衣だったらどうなってしまうんだろう。
‘ドポン’と言う音が聞こえる。
まるで心臓が耳元にあるかのような、錯覚に陥る。
息が上がる。体から血の気がひいていく。
目を閉じ息を深く吸い込む。
うごけない。動かない。
なんて言ってられない。
目を開け音のした方に体を向け冷たく暗い水の中に身を沈めた。
少し口内に入ってくる味にこの水が海水だと悟った。
目が少し痛い。
でもそんな事言ってられない。と、目を見開き視線だけで愛しい彼女を探す。
視界の端に白い布が映った気がして足を更にバシャバシャと動かす
こう言う時の勘は嫌と言うほど当たる。
それは紛れもなく沈んでゆく彼女の姿だった。
慌てて抱き抱え水面から顔を出す。
呼吸を整える事さえ忘れ彼女の体を揺らす
「結衣……!!」
大きな声で呼びかけ首筋に手を当てる。
冷たくなったそこに嫌と言うほど赤い花が白い肌によく映える。
ポロリと冷たいモノが伝う。
声に反応したかのように彼女の手が頬に触れる。
まるで氷のようなその手に自分の手を添えれば彼女は少し目を開け、柔らかく笑った。
その表情に何かが決壊してしまった俺は強く抱きしめる。
ただひたすら強く強く。
彼女が苦しくないかとか、痛くないかとか考えずに、ただただひたすら腕に力を込める。
力の抜けた抜け殻にもう何も気にしなくて良いのだと悟る。
「ゆ、い。なぁ。結衣。う、そ、だっ、ろう?」
プツプツと途切れて漏れる声に嗚咽が混ざる。
辛い。嫌だ。どうして。一緒に生きていくって決めていたのに。
失うなんて。
嫌だ。嫌だ。
いやだ。いやだ。いやだ。
イヤダ。イヤダ。イヤダ。イヤダ。
感情がぐちゃぐちゃになり胸の内が暗い何かに覆われる。
もういっそこのまま全て捨てて一緒になってしまおうか。
そこまで考えたところで視界は再びフェードアウトした。
もういい。何処へでも連れて行ってくれ。
体に強い風が当たり目を開く。
グラグラと揺れる体に疑問を抱き下を見下ろす。
次に俺がいたのは高層ビルの屋上だった。
迷う事なく僕は一歩足を踏み出す。
ふわりと体が舞う感覚がしすぐに強い重みを体に感じた。
じゃあね、結衣。僕も今から行くよ。
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