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旅人3箇条

ヒュジャックジョンソンとハズ・ナントカナル

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「バルさんは、君が待って居ると言うのに、ナセさんと飲んでたのかい?」

「はい、けどバルちゃんなりに考えがあってのことなんです。」
 
 ヒューは、ハズをモデルに絵を描いている。
 昨日着ていた花柄のワンピースも良かったが、イメージが湧かないので白いの無地のワンピースを着て貰った。

「どんな考えだい?」

「それは、バルちゃんにとって命の恩人が
最優先ですから精一杯もてなしたかったんでしょう。
 でも、それだけではありません。」

 ヒューは、筆を止めてハズを見上げた。
 
「ちょっと、休むかい?
 ポーズを取りながら喋るのも大変だろうしさ?」

「大丈夫ですよ。
 立っているだけですし
 それで、その時バルちゃんは、私に怒られるのが怖くて、フォローして貰う為にナセを連れて来たんです。」

「ちゃっかりしてるね。」

「はい、バルちゃんが帰ってくるなり。バカって怒鳴り付けてやりました。
 元々、バルちゃんがトラブルで帰って来ない事とかは、良くある事だったんで
す。」

「なるほど」 

「ホント大変ですよ。
 バルちゃんが居なくなる度に心配して、見えなくなったのかって・・・
 だから今回だって、けろっと私の前に現れるんじゃないかなって思うんです。」

「けど今回のは、見えなくなった。
 そして、ナセさんには見えてる。」

「ええ、けど私は思うんです。
 本当は、ナセにも見えて無いんじゃないかって、
 あの人優しいから私を安心させる為に嘘をついてると思うんです。」

「確信はあるの?」

「わかりません。
 けど、バルちゃんは迷子になってて、ナセが今探してるんじゃないかって」

「エイさんは、何やってんだろ?」

「それで、ナセったら面白いんですよ。
 怒ってる私を見て固まっちゃってね、あの、お二方は、ロマンス的な何か関係でしょうか?って言うんです。
 笑っちゃうでしょ?」

「多分、その状況なら僕でも固まるよ。」

「あはは、ヒューさんは、元々石じゃないですか?」

「あ」

「ご、ごめんなさい。
 私、調子に乗りました。」

「良いよ別に、好きでやってるからさ、それより続けて。」

「はい、私、本当は、凄く人見知りで、だから旅とか買い物とか無理でずっと木の穴の中で本をよんでたんです。
 けど、その時は私なんかより、ずっとナセの方が緊張してて、それが面白くて私的には、直ぐに打ち解けたんです。」

「ところで、バルさんとはロマンス的な?」

「あはは、そんな事ありませんよ。
 あの子は昔、動けなくなってたのを私が拾って育てたんです。
 人間の家族風に言うところの弟です。」

「姉弟ってやつだね?」

「してい?」

「姉と弟なら、していらしいよ。
 まぁ、妖精に性別とか無いしね。
どーでもいいけどさ。」

「日本語ですか?」

「うん、この上は日本らしいよ。
 東にある森の一部が重なってるんだ。
 バルさんが、何とかなったら行って見ると良いよ。」

 ハズは、思い出したかの様に俯いた。
 常習とはいえ、やはり心配なのだ。
 それに今回は、いつもとは状況が違う。

「ナセさんが来てどうなったんだい?」

「ナセは、私とも直ぐに打ち解けました。
 風の妖精なのに移動が苦手な私達に、ナセは凄く良くしてくれて、買い出しとか、妖石の交換とか私達の苦手な事は全て引き受けてくれて、それにナセが話してくれる旅のお話がとても面白くて、いつしかナセは、私達にとってかけがえの無い存在になっていました。」

「それで家族に?」

「はい、言い出したのは私です。
 バルちゃんとナセ、ずっと2人と離れたくなかった。
 私、弱いんです。 弱くてずるいんです。」

「いや、誰かと関わろうとすることは強いことだよ。
 普通の妖精は、別れの悲しみが怖くて深い繋がりが築けないんだ。」

「そうでしょうか?
 私はその時、3人居れば何だって出来る気がしていました。
 同時に3人居なければ何もできないんじゃ無いかって。」

「ハズちゃん、殆どの妖精は気付いて無いけど、誰も1人じゃ生きていけない。
 1人で生きているつもりでも、人(妖精)が集まる所が好きだし、おしゃべりも好きだろ?
 知らず知らずに誰かを当てにして、誰かに助けられてるんだ。
 君は、それに気づいてるから偉い、偉くて強い、強くて弱い。
 弱さに気付いてるから強いんだ。」

「あの」
 
「わけ分からんでしょ?
 エイさんの言葉さ。」

「エイジヒルさんの?」

「あいつ小説家でね、自称だけどさ、
 僕はさぁ、エイさんの書く三流小説が大    好きなんだ。
 誰一人不幸にならないんだぜ、バカみたいだろ? 」
 
「私、読んでみたいです。」

「おすすめは出来ないよ。
 エイさんの小説は、読んでいて恥ずかしくなるくらいの雑でストレートなご都合主義で万事解決する様な三流小説でね。」

「ご都合主義と言うのは?」

「あぁ、奇跡の事さ
 実際の世界で、目に見える様な奇跡なんてそう無いだろ?
 それをやるからリアリティが無いし共感が持てないんだ。」

「散々ですね。」

「あぁ、実際の世界があんななら良いなって思えるから良いのさ。」

「私達家族が、エイジヒルさんの小説の登場人物だったら良いのに。」

「もうなってんじゃないかな?」

「え、私達が」

 ハズが驚いたのと同時に、バタンとドアが開いてハリーが入って来た。

「旦那、サナさん所の若いのが来てますで。」

「勝手に入って来るなよな。」

「すいません。 
 ついでに旦那を運んで行こうかと思いましてね。」

「分かったよ。運んでくれ。」

「あの、私が運びましょうか?」

「あ、良いね。
 ハズちゃん、ロビーまでお願い。」

「旦那、お客さん使うのはどうかと思う。」

「お客さんである前に友人だ。」

「はい、私はヒュジャックジョンソンさんの友達です。」
 
 そう言うと、ハズは、ヒューの頭の取っ手を掴みロビーに向かった。

「えーワタシは、3737号の案内所で受付をしている8703号と申します。
 あ、覚え憎ければ、はなまる で結構ですよ。」

 ヒューとハズがロビーに着くなり、はなまるとか言う案内所の妖精は、いきなり自己紹介してきた。
 かなりの美形ではあるが、どこか落ち着きが無い。

「ナサちゃん、人雇ったんだね?」

「はい、半年前に消えかけてたのを拾っていただいたんです。」

「き、消えかかってたんですか?」

「はい、そうですよ。」

「君、何気に凄いぞ。
 で、何しに来たの?」

「あぁ、コレです。」

 はなまるは、ヒューを抱えているハズにチラシの束を差し出した。
 ハズは、ヒューをテーブルに優しく置きチラシの束を引き取った。

「ハッピーフラフラワー!」

「おや?
 ご存知ですか、ハピフラ人気ですよね?
 今朝、エイジヒルさんとナセさんも道のりを尋ねにきたんですよ。」

「ふ、2人は、」

「ハズちゃん、落ち着いて。
 はなまるちゃん、このチラシは?」

「木の組合観光推進協会による話題の店販売促進計画のチラシです。
 今やハピフラのチラシは、街の至る所で配られています。
 今日の午後3時に店の特製煙突から2日間、黄色い狼煙が上がるんです。
 多分、どんなアホな人でも辿り着けますよ。
 ちなみにコレ、ワタシが今朝、最速で書いて刷りました。」
  
「サナちゃん、こんな仕事も引き受けてんだね?」

「いや、ワタシが暇そうにしてたので所長が押し付けてきたんです。
 それではワタシ、行ってきます。」

 はなまるは、大量のチラシを抱えて幽街画廊を後にした。
 
「私達、街に着いたら、ハッピーフラフラワーに行く約束をしてたんです。
 バルちゃんが何処かで聞いてきたんです。
 大人気の店だって。」

「ほぅ、チラシ見る限りクソダサだけど。」

「私もここまで酷いとは。」

 ハズは、少し考え確かめる様にチラシを見回した。

「ひょっとしてサナさんは?」

「うん、多分君らの為だろうな。
 こんな店持ち上げて採算取れ無いだろうに。」

 ヒューがハズを見上げると、ハズはヒューを優しく抱え上げて、ヒューの自室兼アトリエに戻った。
 

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