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6話

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 そういえばアッバス様の成績は酷いもので、相変わらず婚約者もできないようだった。ガレン侯爵家の令息とはいえ、家柄以外に誇れるようなものがない人だから婚約者ができないのも納得できる。

 そのように考えていたのが悪かったのか、学園の廊下でばったりとアッバス様と遭遇してしまったのだ。引き返すような露骨な行動はできないし、相手は私の道を塞ぐように立っている。どう考えても私に用があるとしか思えない。

「……何かご用ですか?」

「いろいろと思うところがあってな。俺が真面目に勉強していなかったことは事実だ。テストの点が悪いのも当然だ。カティに酷いことを言ってしまったことも反省している」

 驚いた。まさかアッバス様が反省し態度を改めるなんて信じられなかった。何かの間違いではないの?

「過去のことは気にしていません」

「そうか、そう言ってもらえると助かる。カティは話せばわかってくれると信じていたからな」

「用件は以上でしょうか?」

「いや、そのような反応はないだろう? せっかく関係が修復されたんだ。もっと、ほら、何か言うことがあるんじゃないのか?」

 気にしていなくたって事実は事実なのだから私がアッバス様を信用することはない。関係が修復されたと勝手に都合良く解釈するあたり、アッバス様は何も変わっていないのかもしれない。謝罪だって何か他の目的があって仕方なくしたのかもしれないし。

「私から言うことはありません。用事が済んだなら失礼したいのですけど」

「そんなに冷たい態度を取るなよ。そんなだから婚約者ができないんだぞ? そこで俺が婚約破棄を取り消してやろうと思うんだ」

 ……やはりアッバス様はこういった人だった。私を都合良く扱おうとし、私の気持ちなんて気にすることもない。自分の思い通りになると考えているようだし、婚約者ができないのも当然だ。だから私と復縁することで婚約者がいない状況から抜け出そうとしているのだろう。

 でも残念。私は復縁なんて考えていない。やり直したところで自分が不幸になるだけだ。

「そのようなことはなさらないでください。私たちはもう終わった関係です。どうか新しい相手を探してください」

「俺の魅力を理解できる人がいないようでな。それにいつまでも婚約者がいないのでは世間体も悪い。俺はガレン侯爵家の一員として婚約者くらいいて当然なんだ」

「それなら私以外を探したほうが早いですよ。私はアッバス様とやり直すつもりはありませんから」

「……相変わらず生意気だな。だがお前の親はどうかな? 適当な利益をちらつかせれば俺との婚約を認めるんじゃないのか? 既に一度認めたんだ。またどうにでもなるだろうな」

 お父様のことはいまいち信用ができない。目先の利益に釣られてしまう可能性は高い。このままだと私はまた不本意な婚約を強制されてしまう……。

 その時だった。

「あまり女性を困らせるものではないよ、アッバス」

 ヘルムート様だった。
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