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終章 勇者侵攻

第九十六話 サティvs工藤伴

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「時間をかけすぎましたか? 二往復目と言ったところですか?」

 私は翼をはためかせ疾風竜の方へと向かった。

「相手は疾風竜クドゥ・ヴァン……二段階で倒せれば良いのですが」

 疾風竜が私の方へと向かってきます、マウナ様が第三段階解除の許可が出ないのが悔やまれます。
 相手は死んでいるとはいえ、あの古代龍の一匹一切の油断はできません。
 最悪の場合マウナ様には申し訳ないですが限定三段階解除を行うとしましょう。なぁに、私が力に耐えられず肉体が散るだけです、そこまで問題は無いでしょう。

 どうやら疾風竜もこちらに気づいたようですね。
 うなり声を上げつつ私の前にやってきました。

「ここで止まってください、これ以上この地を荒らすことは御遠慮願います」

 私がそう言うや否や、突風のブレスを放ち攻撃を仕掛けてきました。
 予想通りなので私はこれをなんなく躱しますと、疾風竜の横っ面にお返しとばかりの回し蹴りを加えます、しかし効果はほぼ無くダメージを受けてる様子はありませんね。

「そうですよねぇ、しかもドラゴンゾンビですから、耐久力はとんでもないと見るべきですね」

 疾風竜は巨体とパワーにモノを言わせてこちらに突進を仕掛けてきますが、当たってあげるわけにはいきませんね。あんなもん食らったら大ダメージです。
 やはりこの巨体を倒すなら頭を潰すか術者を潰すしかないですね、一応私は簡単に術者がいないかを探しますが、簡単に見つかれば苦労ないですね。

「術者は……姿を見せませんね。それはそうでしょうね」

 私が術者を探していると、疾風竜の尻尾による一撃が目の前に迫ってきました。

「よそ見している場合ではないですか!」

 完全に避けるのは無理なので両腕でガードしつつ、後ろに飛び勢いを殺しますが、流石は腐っても疾風竜! その一撃で私は勢いを殺し切れず数メートル吹き飛びました。

「あー、今のは効きました。よそ見していた自分が悪いのですがキツイですね」

 私が体勢を立て直しているところ、私の頭に直接語りかけてくる声が聞こえます。

(そこのアークデーモン、ぐ、聞こえるか?)
「ん? 聞こえています。疾風竜クドゥ・ヴァン貴方ですか?」
(ぐお、そ、そうだ。お前は、蒼き焔あおきほのおか)
「私のことをご存じでしたか」

 意識を持ったままゾンビにするとは、勇者とは想像以上のクズなようですね。

「それで、どういったご用件でしょうか?」
(わ、我を殺してくれ……い言い方がおかしいか、か、完全に殺してくれ。お前なら適任だ)
「ご安心を元よりその予定です」
(感謝する……が、身体が言うことを聞かんのでな、ぐ! く、苦労を掛けるぞ)
「苦労は勘弁してほしいですね」

 疾風竜は凄まじい速度で突進してきます、ゾンビになってもこの速度……生前の疾風竜とは戦いたくないですね。
 私は突進を躱しながら疾風竜に火の魔法による攻撃を仕掛けておりますが……効果が薄くて困ります。

「全く、これでは上位魔法を使う暇もないじゃないですか、少しの間でいいので止まっていてください」
(無茶を言うな、と言いたいところだが、や、やってみよう)

 やってみるといいながらのブレス攻撃、これは期待できませんね。
 しかし、術者から距離が離れれば術が弱まるかもしれません、流石にゾンビがここまで機敏に様々な攻撃を仕掛けてくるとかやってられませんからね。

「術者がどこにいるかわかりますか?」
(ヤツは王城のある街にむかっている……ぐ、く……まったくこの皮膚と肉の間でミミズが這いずり回ってるような不快な感覚はどうにかならぬか……)
「!!」

 く、一瞬想像してしまいました……確かにそんな感覚がずっと続くなら死にたい気持ちもわかりますね……あ、死んでるのでしたね。
 そして術者は街に向かってるそうですか、そっちはマウナ様達に任せるしかありませんね。さて、そうなると街から離れれば術が弱まるやもしれませんね。

「私は街から離れるように戦います、気付かれないように追いかけてきてください、術者から離れればコントロールを取り戻せるかもしれませんよ!」
(な、なるほど。試してみる価値はあるな)
「さあ、ついて来てください」

 私は疾風竜の攻撃をかわしつつ、第二段階を開放し軽く反撃しつつ街の反対に向かい距離を取ります。
 疾風竜の速度はすさまじく簡単に追いつかれてしまいます。

「くー、これは中々骨が折れる作業です」

 ですがかなり距離は稼げました、この距離ならどうでしょうか?

「疾風竜、ここならどうです?」
(ああ、絡みつくような魔力は薄くなっている、こ、これなら数秒は止めれそうだ)

 疾風竜が魔力を絶つ作業を開始しました、その間私はこの疾風竜の相手をしないといけないのですが、流石に二段階を展開し続けるのもキツくなってきましたね。
 そして数分経った頃、疾風竜の動きが鈍くなってきました。

(蒼き焔よ今だ!)

 疾風竜の声を聴くや否や私は詠唱を開始します。

「――我は汝に命ずる、蒼き怨嗟の焔よ、冷酷なる熱き地獄の焔よ、燃やせ燃やせ全てを燃やせ、我が目の前の物を灰塵と化せ!! 『蒼き焔』!」

 魔法が成立するとシューという音がした後、疾風竜が蒼い火に包まれました。

「どうですか? 私のオリジナル魔法のお味は?」
(死んでて何も感じぬのが幸いしたな、このような魔法生きてるうちには食らいたくない)

 疾風竜がそういった瞬間に疾風竜がもの凄い勢いで街に向かって飛び出しました。

(いかん! 時間切れだ身体が言うことをきかん!)
「しまった!」

 燃えながら飛んでいく疾風竜、炎で徐々に動きを止めていますが間に合うかどうか何とも言えない状況になっています。
 私は全速力で追いかけますが速度が違います!

「仕方ない、――フレイム・ウィップ!」

 この魔法でどれだけ速度を落とせるか? 炎の鞭を疾風竜に絡めて引っ張りますが少し動きを止めただけでまた動き出します。
 ですが、この一瞬で勝負は決まりましたね、疾風竜の翼が燃え尽きバランスを失い堕ちていきます。

「なんとか、なったようですね……」

 私は安堵すると第二段階を解除し元の姿に戻り、マウナ様の元に戻ることにします。

(蒼き焔サラスティーアよ……礼を言うぞ)
「また古い名が出てきましたね。今の私はサティと言います」
(……そうか、サティよ助かった……)

 こうして疾風竜は燃え尽き姿を消しました。

「では、戻るとしましょう」

 私は城へ向かって飛び出しました、メイドとしての仕事はこれにて一時終了です。
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