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4 帰路
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「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァァァーーーーーーッ」
「ゼェッ、ゼェッ、ゼェッ、ゼェッ」
僕とじいちゃんは鳥居にもたれ掛かりながら荒い息を吐く。
社の裏からだから距離にして三〇〇メートル位のもんだったけど全力疾走はさすがに堪えた。
特にじいちゃんはもう七〇に近い。
幾ら元気が有り余ってるって言ったってさすがに苦しそうだ。
僕は疲労と恐怖、両方で震える膝に活をいれて立ち上がる。
鳥居のすぐそばの手水鉢で柄杓を手に取ると清水を汲んでごくごくと飲み干した。
ウマイッ
三回それを繰り返しようやく落ち着いたところでもう一回柄杓を鉢に突っ込む。
汲んだ清水を溢さない様に慎重にじいちゃんのところまで向かう。
「じ、じいちゃん、飲んで」
「ゼェッ、ゼェッ、あ、ありがたいぜ夏坊」
じいちゃんは水の入った柄杓を受け取ると浴びるみたいにそれを飲んだ。
半分くらい柄杓から水は零れてじいちゃんの着ていたシャツを濡らしてしまったからたいして口には入らなかったかもしれない。
そう思って柄杓を受け取りもう一度手水鉢に向かおうとした僕を押し留めじいちゃんは立ち上がり自分で手水鉢まで向かった。
「んごっ、んごっ、んごっ」
「うっわ~……」
鉢の水が湧き出している場所に直接口をつけて水を飲むじいちゃん。
「ンンッぶるわぁぁっっ~~ッ!」
じいちゃん、さすがに鉢に頭を沈めて顔まで洗うのはどうかと思うんだよ。
「いやぁ、危なかったなぁ夏坊、キマイラのヤツこっちに気が付いてたぞありゃぁ、普段ああいった大物はめったに見られないんじゃがなぁ。
さすがのワシも度肝を抜かれたぞい」
「……そうだね、じいちゃん逃げるとき僕よりも前走ってたもん」
冷たいジト目でそう僕が返すとじいちゃんは気まずそうに胸ポケットの敷島に手を伸ばした。
けどタバコはさっき柄杓から零れた水で湿気ってたみたいでくわえたのに火を点けないでそのまま捨てちゃった。
箱に残ってたのもくしゃって握り潰してポケットにしまった。
「帰ろうや、婆さんが竜の子にメシくれてるじゃろうし夏坊の腹もいい加減限界だろう。ワシも風呂入ってサッパリしたいわい」
「うん」
僕は柄杓を手水鉢に返すとじいちゃんと一緒に家までの坂を降り始めた。
「……」
「どうした夏坊、さっき追い越したのまだ怒ってるんか?」
「ううん、ちがうよ」
そうじゃない、そうじゃなくってさ。
「あんなおっかない幻獣、結界があるにしたってこっち側に来たりしないのかなって。
だってさ、ドラゴンは神社の手水鉢の裏に居たんだよ? 」
ドラゴンがあそこに居たってことはキマイラだってこっちへ来れる可能性があるって事だ。
あれは猛獣だ。言ってみりゃ動物園からトラとかライオンとかが逃げ出してじいちゃんちの周りを彷徨いている様なもんだろう。
「それなら心配せんでもええ。力のある幻獣ほどあの結界は越え難い。力の弱い、害のない幻獣ならば社の裏の穴位は通り抜けられるがあんな大物はまず持って無理じゃろうよ。
もし万が一穴を抜けたとしたって鳥居の結界がある。結界ってヤツはそういったモノを防ぐために作られたもんじゃからな、夏坊が心配せんでも大丈夫じゃよ」
「え? そりゃおかしいよじいちゃん。ドラゴンは? ドラゴンってファンタジーでもボスクラスに強かったりするよ!? 確かにアイツは弱っちそうだけどあれでもドラゴンなんでしょ? だったらなんでアイツは穴を通り抜けられたのさ」
「お前さんの拾った竜の子なぁ、アイツは幼生体ってヤツなんじゃ。言ってみりゃ産まれたばっかりの赤ん坊なんじゃよ。
なぁ夏坊、アイツお前さんが拾ったとき卵だったんじゃなかったか!?」
僕はドラゴンを見つけたときのことを思い出してみる。
「卵……っていうか最初見たとき真ん丸のボールみたいだった。それがさ、目の前でぐにゃって歪んで尻尾が飛び出して来たんだ。それから頭が出て手足が出てきた」
「身体、濡れてたろう」
うんそうだった。少し粘り気のある水で濡れてたんだ。
僕と目が合うとドラゴンはスッゴく嬉しそうな声で鳴いたんだっけ。
「あの粘液が卵の殻じゃったんじゃよ。あの竜はお前さんの目の前で卵から孵ったんじゃ。卵の状態だったならば幾ら最強の幻獣とまで呼ばれる竜だとて穴くらいは通れるじゃろうて。
尤も鳥居はさすがに抜けられんかったようじゃがな。
鳥居の外まで出られたのは夏坊、お前さんが抱えてたからじゃろうな。抱えてるって事はあちらの生き物をこちらに招くって意味合いを持つんじゃ。
おそらくはあの竜の子、卵のまま嵐か何かで飛ばされでもしたのかも知れん」
「…それで飛ばされた方向にたまたま穴が開いててこっち側に来ちゃったって?」
じいちゃんの予測に僕が継ぎ足しをするとじいちゃんはこくりと頷いた。
「実際幾度かそう言った事は起こっておる。ワシが子供の時分にもな、こっちへ来ちまった幻獣がおったんじゃ」
えっ! そうなのっ!?
「じゃぁじいちゃんもドラゴン育てたことあるのっ!?」
驚いてそう聞き返した。
「いんにゃ、竜じゃなかった。カイチって幻獣じゃ」
「カイチ?」
聞いたことがない、どんな幻獣なんだろ?
「真っ黒い羊の姿をしとる、額から大きな角が一本生えとった」
「へぇ」
なんかカッコいいかも。
「クソ真面目なヤツでの、ワシなんか村一番の悪たれじゃったからしょっちゅうアイツに怒られとったわい」
つまり昔っからじいちゃんは変わってなかったんだね。
「じいちゃんが見つけたの? その……カイチだっけ?」
「そうじゃ、ワシが学校サボってな、神社で昼寝しとったらひとのわき腹角で突っついてきおった。ドラゴンと違ってそう力のある幻獣じゃ無かったからな、幼生体でも穴を抜けられたんじゃろう」
「ふぅん、それでじいちゃんが家まで連れて帰ったんだ」
「いんにゃ、連れては帰らなんだ。森の奥の方、鳥居の結界の範囲内にバラックみたいな小屋を作ってな、そこに住まわせた。村の他の連中にもカイチの事は知らせなんだ」
「え、なんで!?」
カイチのことを話すじいちゃんは本当に楽しそうでスッゴく仲のよかった幻獣だったんだってのが口調からも伝わってくる。
それなのになんでわざわざ神社の中に住まわせたんだろう?
僕がドラゴンを連れて帰った時だってじいちゃんもばあちゃんも追い出したりなんかしなかった。
僕が思ってたよりもずっとすんなりと受け入れてくれたのに、どうして他の人に幻獣のこと秘密にしたんだろう?
じいちゃんは僕がそんな疑問を持ったことを悟ったんだろう。
チラリと僕の顔を見てすぐにまた前を向いた。
「幻獣ってなぁ神の御使いだってここいらじゃ敬われてた、時おりこっちまで流れてくる幻獣はあの神社で丁重に祀られるのがここいらの古来からの慣わしじゃった。
じゃがな、戦争が何もかも変えちまった。
ワシがお前さんくらいだった時分はな夏坊、貧しい時代じゃった。戦争に敗けて喰うや喰わず、いつだって腹を空かせてたんじゃ。
本来ならば神社を護りそこに現れる幻獣を護り崇めるワシら日守の一族もその職分を務める余裕がなかった。
神さんよりも食いもん。誰もがそう考えて生きるだけで精一杯だったんじゃ」
まさか、そんな。
「幻獣とて見つかれば喰われる。ましてやカイチは羊に似た幻獣じゃ、餓えた大人に見つかれば直ぐ様殺されてその肉を喰われたじゃろう」
幻獣を食べるの!? 僕にあんなになついてくれたドラゴンやキレイな歌を歌うハーピィを殺して食べるだなんて……
想像すると気分が悪くなる。
足元もおぼつかなくなってよろけた僕をじいちゃんの太い腕が支えてくれた。
「なんもかんもが狂っとったんじゃ。道徳よりも良識よりも本能が勝っていた」
「そ、それじゃぁカイチは…」
最悪の予想が頭をよぎる。
「いんにゃ、大人どもに見つかりはしたが間一髪のとこでワシが逃がした。穴の向こう側に逃がしたんじゃ」
「そ、そう、よかった」
ホッ自然に息が漏れた。
「アイツは最後までワシと離れたがらんかったが、ケツをひっぱたいてやってな、無理矢理に押し込んでやったわ」
結局じいちゃんがカイチと一緒に過ごしたのはひと夏もなかったらしい。
「短い間じゃった。だがな、アイツは得難い親友じゃった、ひとよりも聡明で何処までも純真じゃった。ワシはアイツに出会ったからひねくれもせず悪党にもならずここまで生きてこれた。
夏坊、あの竜の子を大切にしてやれ。
ワシも婆さんも協力は惜しまん。だがアヤツを育てるのはお前さんの仕事じゃ。
ワシが幻獣に与えてもらった恩を返してやってくれ。
さすればヨウタロウも喜んでくれるじゃろうな」
「……ヨウタロウ」
「カイチにワシが付けてやった名じゃ。そうさな、まずは名前を付けてやれ、何時までも『ドラゴン』だの『竜』だのじゃかわいそうじゃしな。
さ、先に行け、ワシはゆっくりと帰る。竜の子も夏坊を待ってるじゃろう」
「うん!」
僕はじいちゃんに促され家までの残り短い距離を駆け出した。
「ゼェッ、ゼェッ、ゼェッ、ゼェッ」
僕とじいちゃんは鳥居にもたれ掛かりながら荒い息を吐く。
社の裏からだから距離にして三〇〇メートル位のもんだったけど全力疾走はさすがに堪えた。
特にじいちゃんはもう七〇に近い。
幾ら元気が有り余ってるって言ったってさすがに苦しそうだ。
僕は疲労と恐怖、両方で震える膝に活をいれて立ち上がる。
鳥居のすぐそばの手水鉢で柄杓を手に取ると清水を汲んでごくごくと飲み干した。
ウマイッ
三回それを繰り返しようやく落ち着いたところでもう一回柄杓を鉢に突っ込む。
汲んだ清水を溢さない様に慎重にじいちゃんのところまで向かう。
「じ、じいちゃん、飲んで」
「ゼェッ、ゼェッ、あ、ありがたいぜ夏坊」
じいちゃんは水の入った柄杓を受け取ると浴びるみたいにそれを飲んだ。
半分くらい柄杓から水は零れてじいちゃんの着ていたシャツを濡らしてしまったからたいして口には入らなかったかもしれない。
そう思って柄杓を受け取りもう一度手水鉢に向かおうとした僕を押し留めじいちゃんは立ち上がり自分で手水鉢まで向かった。
「んごっ、んごっ、んごっ」
「うっわ~……」
鉢の水が湧き出している場所に直接口をつけて水を飲むじいちゃん。
「ンンッぶるわぁぁっっ~~ッ!」
じいちゃん、さすがに鉢に頭を沈めて顔まで洗うのはどうかと思うんだよ。
「いやぁ、危なかったなぁ夏坊、キマイラのヤツこっちに気が付いてたぞありゃぁ、普段ああいった大物はめったに見られないんじゃがなぁ。
さすがのワシも度肝を抜かれたぞい」
「……そうだね、じいちゃん逃げるとき僕よりも前走ってたもん」
冷たいジト目でそう僕が返すとじいちゃんは気まずそうに胸ポケットの敷島に手を伸ばした。
けどタバコはさっき柄杓から零れた水で湿気ってたみたいでくわえたのに火を点けないでそのまま捨てちゃった。
箱に残ってたのもくしゃって握り潰してポケットにしまった。
「帰ろうや、婆さんが竜の子にメシくれてるじゃろうし夏坊の腹もいい加減限界だろう。ワシも風呂入ってサッパリしたいわい」
「うん」
僕は柄杓を手水鉢に返すとじいちゃんと一緒に家までの坂を降り始めた。
「……」
「どうした夏坊、さっき追い越したのまだ怒ってるんか?」
「ううん、ちがうよ」
そうじゃない、そうじゃなくってさ。
「あんなおっかない幻獣、結界があるにしたってこっち側に来たりしないのかなって。
だってさ、ドラゴンは神社の手水鉢の裏に居たんだよ? 」
ドラゴンがあそこに居たってことはキマイラだってこっちへ来れる可能性があるって事だ。
あれは猛獣だ。言ってみりゃ動物園からトラとかライオンとかが逃げ出してじいちゃんちの周りを彷徨いている様なもんだろう。
「それなら心配せんでもええ。力のある幻獣ほどあの結界は越え難い。力の弱い、害のない幻獣ならば社の裏の穴位は通り抜けられるがあんな大物はまず持って無理じゃろうよ。
もし万が一穴を抜けたとしたって鳥居の結界がある。結界ってヤツはそういったモノを防ぐために作られたもんじゃからな、夏坊が心配せんでも大丈夫じゃよ」
「え? そりゃおかしいよじいちゃん。ドラゴンは? ドラゴンってファンタジーでもボスクラスに強かったりするよ!? 確かにアイツは弱っちそうだけどあれでもドラゴンなんでしょ? だったらなんでアイツは穴を通り抜けられたのさ」
「お前さんの拾った竜の子なぁ、アイツは幼生体ってヤツなんじゃ。言ってみりゃ産まれたばっかりの赤ん坊なんじゃよ。
なぁ夏坊、アイツお前さんが拾ったとき卵だったんじゃなかったか!?」
僕はドラゴンを見つけたときのことを思い出してみる。
「卵……っていうか最初見たとき真ん丸のボールみたいだった。それがさ、目の前でぐにゃって歪んで尻尾が飛び出して来たんだ。それから頭が出て手足が出てきた」
「身体、濡れてたろう」
うんそうだった。少し粘り気のある水で濡れてたんだ。
僕と目が合うとドラゴンはスッゴく嬉しそうな声で鳴いたんだっけ。
「あの粘液が卵の殻じゃったんじゃよ。あの竜はお前さんの目の前で卵から孵ったんじゃ。卵の状態だったならば幾ら最強の幻獣とまで呼ばれる竜だとて穴くらいは通れるじゃろうて。
尤も鳥居はさすがに抜けられんかったようじゃがな。
鳥居の外まで出られたのは夏坊、お前さんが抱えてたからじゃろうな。抱えてるって事はあちらの生き物をこちらに招くって意味合いを持つんじゃ。
おそらくはあの竜の子、卵のまま嵐か何かで飛ばされでもしたのかも知れん」
「…それで飛ばされた方向にたまたま穴が開いててこっち側に来ちゃったって?」
じいちゃんの予測に僕が継ぎ足しをするとじいちゃんはこくりと頷いた。
「実際幾度かそう言った事は起こっておる。ワシが子供の時分にもな、こっちへ来ちまった幻獣がおったんじゃ」
えっ! そうなのっ!?
「じゃぁじいちゃんもドラゴン育てたことあるのっ!?」
驚いてそう聞き返した。
「いんにゃ、竜じゃなかった。カイチって幻獣じゃ」
「カイチ?」
聞いたことがない、どんな幻獣なんだろ?
「真っ黒い羊の姿をしとる、額から大きな角が一本生えとった」
「へぇ」
なんかカッコいいかも。
「クソ真面目なヤツでの、ワシなんか村一番の悪たれじゃったからしょっちゅうアイツに怒られとったわい」
つまり昔っからじいちゃんは変わってなかったんだね。
「じいちゃんが見つけたの? その……カイチだっけ?」
「そうじゃ、ワシが学校サボってな、神社で昼寝しとったらひとのわき腹角で突っついてきおった。ドラゴンと違ってそう力のある幻獣じゃ無かったからな、幼生体でも穴を抜けられたんじゃろう」
「ふぅん、それでじいちゃんが家まで連れて帰ったんだ」
「いんにゃ、連れては帰らなんだ。森の奥の方、鳥居の結界の範囲内にバラックみたいな小屋を作ってな、そこに住まわせた。村の他の連中にもカイチの事は知らせなんだ」
「え、なんで!?」
カイチのことを話すじいちゃんは本当に楽しそうでスッゴく仲のよかった幻獣だったんだってのが口調からも伝わってくる。
それなのになんでわざわざ神社の中に住まわせたんだろう?
僕がドラゴンを連れて帰った時だってじいちゃんもばあちゃんも追い出したりなんかしなかった。
僕が思ってたよりもずっとすんなりと受け入れてくれたのに、どうして他の人に幻獣のこと秘密にしたんだろう?
じいちゃんは僕がそんな疑問を持ったことを悟ったんだろう。
チラリと僕の顔を見てすぐにまた前を向いた。
「幻獣ってなぁ神の御使いだってここいらじゃ敬われてた、時おりこっちまで流れてくる幻獣はあの神社で丁重に祀られるのがここいらの古来からの慣わしじゃった。
じゃがな、戦争が何もかも変えちまった。
ワシがお前さんくらいだった時分はな夏坊、貧しい時代じゃった。戦争に敗けて喰うや喰わず、いつだって腹を空かせてたんじゃ。
本来ならば神社を護りそこに現れる幻獣を護り崇めるワシら日守の一族もその職分を務める余裕がなかった。
神さんよりも食いもん。誰もがそう考えて生きるだけで精一杯だったんじゃ」
まさか、そんな。
「幻獣とて見つかれば喰われる。ましてやカイチは羊に似た幻獣じゃ、餓えた大人に見つかれば直ぐ様殺されてその肉を喰われたじゃろう」
幻獣を食べるの!? 僕にあんなになついてくれたドラゴンやキレイな歌を歌うハーピィを殺して食べるだなんて……
想像すると気分が悪くなる。
足元もおぼつかなくなってよろけた僕をじいちゃんの太い腕が支えてくれた。
「なんもかんもが狂っとったんじゃ。道徳よりも良識よりも本能が勝っていた」
「そ、それじゃぁカイチは…」
最悪の予想が頭をよぎる。
「いんにゃ、大人どもに見つかりはしたが間一髪のとこでワシが逃がした。穴の向こう側に逃がしたんじゃ」
「そ、そう、よかった」
ホッ自然に息が漏れた。
「アイツは最後までワシと離れたがらんかったが、ケツをひっぱたいてやってな、無理矢理に押し込んでやったわ」
結局じいちゃんがカイチと一緒に過ごしたのはひと夏もなかったらしい。
「短い間じゃった。だがな、アイツは得難い親友じゃった、ひとよりも聡明で何処までも純真じゃった。ワシはアイツに出会ったからひねくれもせず悪党にもならずここまで生きてこれた。
夏坊、あの竜の子を大切にしてやれ。
ワシも婆さんも協力は惜しまん。だがアヤツを育てるのはお前さんの仕事じゃ。
ワシが幻獣に与えてもらった恩を返してやってくれ。
さすればヨウタロウも喜んでくれるじゃろうな」
「……ヨウタロウ」
「カイチにワシが付けてやった名じゃ。そうさな、まずは名前を付けてやれ、何時までも『ドラゴン』だの『竜』だのじゃかわいそうじゃしな。
さ、先に行け、ワシはゆっくりと帰る。竜の子も夏坊を待ってるじゃろう」
「うん!」
僕はじいちゃんに促され家までの残り短い距離を駆け出した。
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