夏と竜

sweet☆肉便器

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93 アオちゃんの新兵器

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 僕の訓練に触発されたのかアオちゃんもまたナニヤラ訓練をしている。

 僕がモーニングスターを振り回している傍らでシャノンと一緒になってなにごとかを話し合った後にその場に蹲って唸り始めた。

 「キュ~~~~ッ、バァッ!」

 胸元で握り込んでいた腕を天に向かって大きく掲げる。

 「キュ~~~~ッ、バァッ!」

 「キュ~~~~ッ、バァッ!」

 あ、この動き知っている。じいちゃん家で金曜日の夜にやってたアニメの動きだ。

 そのアニメは田舎に引っ越してきたふたりの女の子とおっきなオバケとの出会いを描いたジブリ作品でアオちゃんのお気に入りの映画のひとつだ。

 その映画のなかで雨のなかお父さんの帰りをバス停で待つ女の子の前にオバケが現れて傘をもらったお礼に木の種を女の子にあげるんだ。
 女の子は貰った種を自分ちの庭に植えるんだけど、その種を植えた場所に夜オバケが現れて種を生やそうとするんだ。

 今アオちゃんがやっている動きはそのシーンのオバケと女の子たちがやっていたのとそっくり。

 「キュ~~~~ッ、バァッ!」

 「……………………ッ、…………ッ!」

 アオちゃんと一緒にシャノンまで一緒に気合いを込めている。
 
 うーん、シャノンもあのアニメ観たんだな。動きに迷いがなくなかなかに堂のいった「バァッ!」だ。

 堂にいった動きなのはいいんだけれど、それで何をしようとしているのかがまったくわからない。
 
 僕は必死の形相で屈伸運動を繰り返すふたりの前まで行きその動きの真意について尋ねた。

 「アオちゃんとシャノンは何をやってるの? それは成功するとどうなるの?」

 「キュ~、クルル~♪」

 「ッ! …………ッ! ………ッ?」

 「これはねー」って教えようと口を開きかけたアオちゃんをシャノンが身体をバタつかせて慌てて止める。「アオちゃんっはなしちゃったらダメじゃないっ! 秘密でできるようになってナッちゃんをビックリさせるってはりきっていたのアオちゃんでしょう?」だって。

 シャノンの素振りを見て慌てて自分の口を抑えて黙り混むアオちゃん。
 アオちゃんが僕に対して秘密を作ったのは驚いたけれどもそれも仲のいいシャノンとの秘密だ。きっと悪い内容じゃないだろうと僕は苦笑を洩らしつつもまた鉄球を振り回す訓練にもどった。

 アオちゃんがどんな秘密兵器を繰り出して僕をビックリさせようとしているのかも楽しみだしね。


 「ク~、キュウ」

 「……、……」

 何度繰り返しただろう、アオちゃんもシャノンも汗だくになってその場にぐったりとへたりこんでしまった。

 僕は鉄球を振り回すのをやめて傍らに置いてあった水筒を手にするとアオちゃんたちのへたりこんでいる場所まで歩いていった。

 「アオちゃん、根を詰めるのもほどほどにね。アオちゃんはがんばり屋さんだから体調をくずさないか見てて心配になってくるよ」

 アオちゃんは何て言うのかな、考えたことを一発で成功させるような天才肌の気質ではない。
 けれど努力して努力してどうやったら成功するのかを一生懸命に考えてたとえ失敗してもめげたりしないで必ず成し遂げる努力家だ。

 かつて空を飛んだ時も練習と無茶の末にそうやって成功させた。必ずアオちゃんの思い描いたことは叶うだろう。

 「シャノンも汗だくじゃないか。アオちゃんのガンバりに付き合ってくれるのは嬉しいけれども君も無理はしないでアオちゃんを応援してくれるだけでもいいんだからね」

 妖精のシャノンはアオちゃんよりもずっと身体がちいさい。アオちゃんとおんなじ動きを続けていればアオちゃんよりも疲れは溜まるだろう。

 シャノンにも水を分けられたらいいんだけれども、あいにくとシャノンは穴の向こう側に居るから触ることも叶わない。
 
 シャノンとアオちゃんがこれ以上無理をしないように僕は立ち上がってパンッと大きく手を叩いた。

 「さ、もう今日は暗くなってきたから訓練もおしまいにしよう。シャノン、僕たちはもう帰るからシャノンも暗くなる前にエミおばさんの家に戻るんだよ?」

 シャノンの身体を気遣って僕は解散を告げる。

 アオちゃんとシャノンはもう少しだけ訓練をしていたいってゴネたけれども僕は聞き入れず頑として今日の終わりを宣言した。

 穴から遠ざかって行く僕とアオちゃんにシャノンはずっと手を振っていた。

 いつも帰りしな、シャノンはさみしそうな表情を見せるけれども今日はことさらにさみしげだった。

 たぶんアオちゃんと一緒に目標を持ってなにかを始めたのが楽しくってたまらなかったんだろう。

 穴が完全に見えなくなる直前で僕とアオちゃんは振り替えってまだ手を振り続けている僕らのちいさな親友に「また明日ね」って手を振って答えた。
 
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