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91 相談しようそうしよう
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ヨウタロウさんは帝国が必ずこの森に軍を差し向けてくると言った。そして攻められれば勝ち目が薄いとも。
「無論この命を賭して森は護るがな」なんて言っていたけれどヒドく悲観的な様子だった。
きっと他の場所を縄張りにしている幻獣が帝国に立ち向かって命を落としたり、庇護していた幻獣を殺されたり奴隷にされたり領土を奪われたりしたのを耳にしたからだろう。
カイチって幻獣は特別に強い幻獣って訳じゃないらしい。
ヨウタロウさんはじいちゃんと別れてから一生懸命生きておっきい身体を手に入れたけれども、普通カイチって幻獣は大人でもウシ程度の大きさらしいんだ。
カイチはどっちかって言うとその強さよりも賢さで尊敬されるってじいちゃんも言ってたしね。
僕みたいななんにも知らない若ゾーが意見するにはヨウタロウさんの言葉はあまりにも重すぎた。(もっともアオちゃんは「ていこくなんかぼくのミサイルでおいかえしてやるっ!」って怒っていたけれども)
僕に帝国が攻めてくるよりも早くこの地を立ち去って元居た世界に戻るようにと言うけれども、果たしてそんなに簡単に穴は抜けられる様になるんだろうか?
吹田さんたち異種属調査室の研究者さんたちがガンバっているけれども、吹田さんの報告を聞くと成果はそう芳しいモノではないようだ。
穴を行き来する目処がついたら報告してくれるって話をしてからもう一ヶ月ほど、毎日集落の発展状況を吹田さんに報告しているゆまは姉ちゃんと話をしても穴の研究はまだ掛かりそうだって話だったし。
そもそも僕はここまで仲良くなったトロールたちを置いて逃げることなんてできやしない。
ピッグマンさんや集落の子供たち、長老さんや奥さん方といった集落のみんなを置いて?
ありえない。
だったらトロール族のみんなを僕たちの世界に逃がせばいいんだろうか?
ガンバって作った畑や井戸を放置して行くのは惜しいけれども命には代えられない。いや、それ以前にこっちとあっちを繋いでいる穴が通れるようにならなきゃその案だって実行のしようがもないじゃないか。
「う~ん、どうしたらいいんだろう?」
「どうした? 歩きながら考え事などすると躓いてしまうぞ」
「あ、ピッグマンさん。あれ? いつの間にこんなとこまで来ちゃったんだろう」
悩んでいるうちに集落まで歩いてきてしまったみたいだ、整地もマトモにされていない道で転ばなかったのはひとえにアオちゃんのおかげだ。
僕が悩んでいるのを察して黙って先導してくれたアオちゃんに感謝しなきゃ。
ピッグマンさんに声をかけられて僕ははっと顔をあげた。
「なんだ悩み事か? オレでよければ相談にのるが…」
そっか、他のヒトに相談してみるって手もあるな。別に誰かに話すなって口止めされてもいないしこんな重要なこと僕ひとりの胸に仕舞っていられないし。
なによりピッグマンさんだったら冷静に的確なアドバイスをくれそうな気がする。
え? ゆまは姉ちゃん? ありゃぁダメだよダメ、論外中の論外。僕のことになるとその他のことなんてどうでもよくなって後先考えずに行動しだすもん。
この集落が危険かもだなんて話したらトロールさんたちも畑もほっぽっていきなり僕の襟首ひっ掴んで帝国の手の届かない森の奥の方に走り出しかねない。
後でトロールたちの事を悔やんで涙を流すに決まっているのにね。
ゆまは姉ちゃんのそーゆーやさしくってメンドクサイ性格を知ってるので相談相手としてはナシなのです。
僕はさっきヨウタロウさんが話してくれたことをピッグマンさんに告げた。
帝国の軍がやがてこの集落にも押し寄せて来るだろうこと、そしてその時は逃げるようにいわれたことを。
黙って話を聴いてくれたピッグマンさん。集落はおろか自分達の命にも関わる大事だから深刻に受け止めるだろうと思ったんだけれど、案外普通の表情で「そうか、ヨウタロウ様はそうおっしゃっておられたか」って返事をした。
「ナツ、帝国がやがてこの地にも進攻してくるであろうとのことはヨウタロウ様に言われるまでもなく我々トロール族も予測していた。
なんと言っても我々がこの地に落ち着く前に暮らしていた地も帝国の軍隊によって奪われたのだからな。
何故に土地を奪った帝国がその地だけで満足しさらに広い森を攻略しないなどといった考えが甘いものなのは重々に承知しているさ」
「そっかー、なんにも知らない訳じゃなかったんだね、それじゃあ帝国が攻めて来たって対策をしてるから安心だね」
「対策? いや、特段対策は講じてはいないな、無論歯向かう為の斧や弓などの手入れに余念はないが」
んん? 戦争が始まるかも知れないのに何にもしてないの? なんでしてないのさ? 斧や弓ってアナタ、そりゃぁ狩りや木こり仕事とかで使うから余念がないだけでしょう? 悪い事が起こるって判っているのならばその悪い事を避けたり抗ったりしようってもっと積極的に動くモノじゃないの? あれ? これって僕が変なの? いやいや、変なんかじゃないよね。備えあれば憂いなしってことわざもあるじゃん、どうしてピッグマンさんたちトロール族はこんなに普通にしているの?
僕が混乱しているのに気が付いたピッグマンさんは言葉を続ける。
「軍隊の進攻は言わば我らにとって嵐や地揺れ同様に抗い難い天災みたいなものなのだよ。災いは多くの者が犠牲になるが誰も彼もが命を落とすなどといった事はそうはない、必ず幾人かは生き残る。その幾人かが命を繋ぎ過去より連面と伝えられてきた我らトロール族の歴史や技術を次なる世代に教授してくれればいいんだ。なぁナツ、そうだろう?」
え? そうだろってピッグマンさん、もしかして僕がそんな刹那的な考えに賛同するとでも思ってんの? いやいやいやいや、そんなイイ顔をしてポンッって僕の肩を叩いたってダメだからね。「そうだよね」だなんて言ったりしないからね。
「特に今回はナツたちから教わった異世界の技術もあるからな、努力して多くの者を生き残らさねばな」ってさらにイイ顔をしたってダメだってばっ。
う~ん、どうにもトロール族のヒトたちは諦めがよすぎる。
たぶん戦火に巻き込まれたりどうしようもない天災に見舞われた事が多いからなのか、はたまた元より僕らと考えが違うからなのかは判らないけれどもとにかく僕たちと考え方が違いすぎる。
もう一ヶ月近くをトロール族と一緒に過ごしてきて「見た目は違ってても考え方やなんかはトロールもヒトもそんなに変わらないんだな」だなんて思ってたのにここに来て一等スゴいカルチャーショックだよ。「ヤックデカルチャー!」って思わず叫びそうになるくらいのビックリだよ。
とにかくね、相談はしたけれどもあんまり参考にはならなかった。
けど本当に相談するべき人物の見当がついたからピッグマンさんに相談したのもムダじゃなかったかもね。
「ありがとうピッグマンさん、絶対にトロール族は助けてみせるからねっ」
僕はピッグマンさんにお礼を言って走り出した。
「無論この命を賭して森は護るがな」なんて言っていたけれどヒドく悲観的な様子だった。
きっと他の場所を縄張りにしている幻獣が帝国に立ち向かって命を落としたり、庇護していた幻獣を殺されたり奴隷にされたり領土を奪われたりしたのを耳にしたからだろう。
カイチって幻獣は特別に強い幻獣って訳じゃないらしい。
ヨウタロウさんはじいちゃんと別れてから一生懸命生きておっきい身体を手に入れたけれども、普通カイチって幻獣は大人でもウシ程度の大きさらしいんだ。
カイチはどっちかって言うとその強さよりも賢さで尊敬されるってじいちゃんも言ってたしね。
僕みたいななんにも知らない若ゾーが意見するにはヨウタロウさんの言葉はあまりにも重すぎた。(もっともアオちゃんは「ていこくなんかぼくのミサイルでおいかえしてやるっ!」って怒っていたけれども)
僕に帝国が攻めてくるよりも早くこの地を立ち去って元居た世界に戻るようにと言うけれども、果たしてそんなに簡単に穴は抜けられる様になるんだろうか?
吹田さんたち異種属調査室の研究者さんたちがガンバっているけれども、吹田さんの報告を聞くと成果はそう芳しいモノではないようだ。
穴を行き来する目処がついたら報告してくれるって話をしてからもう一ヶ月ほど、毎日集落の発展状況を吹田さんに報告しているゆまは姉ちゃんと話をしても穴の研究はまだ掛かりそうだって話だったし。
そもそも僕はここまで仲良くなったトロールたちを置いて逃げることなんてできやしない。
ピッグマンさんや集落の子供たち、長老さんや奥さん方といった集落のみんなを置いて?
ありえない。
だったらトロール族のみんなを僕たちの世界に逃がせばいいんだろうか?
ガンバって作った畑や井戸を放置して行くのは惜しいけれども命には代えられない。いや、それ以前にこっちとあっちを繋いでいる穴が通れるようにならなきゃその案だって実行のしようがもないじゃないか。
「う~ん、どうしたらいいんだろう?」
「どうした? 歩きながら考え事などすると躓いてしまうぞ」
「あ、ピッグマンさん。あれ? いつの間にこんなとこまで来ちゃったんだろう」
悩んでいるうちに集落まで歩いてきてしまったみたいだ、整地もマトモにされていない道で転ばなかったのはひとえにアオちゃんのおかげだ。
僕が悩んでいるのを察して黙って先導してくれたアオちゃんに感謝しなきゃ。
ピッグマンさんに声をかけられて僕ははっと顔をあげた。
「なんだ悩み事か? オレでよければ相談にのるが…」
そっか、他のヒトに相談してみるって手もあるな。別に誰かに話すなって口止めされてもいないしこんな重要なこと僕ひとりの胸に仕舞っていられないし。
なによりピッグマンさんだったら冷静に的確なアドバイスをくれそうな気がする。
え? ゆまは姉ちゃん? ありゃぁダメだよダメ、論外中の論外。僕のことになるとその他のことなんてどうでもよくなって後先考えずに行動しだすもん。
この集落が危険かもだなんて話したらトロールさんたちも畑もほっぽっていきなり僕の襟首ひっ掴んで帝国の手の届かない森の奥の方に走り出しかねない。
後でトロールたちの事を悔やんで涙を流すに決まっているのにね。
ゆまは姉ちゃんのそーゆーやさしくってメンドクサイ性格を知ってるので相談相手としてはナシなのです。
僕はさっきヨウタロウさんが話してくれたことをピッグマンさんに告げた。
帝国の軍がやがてこの集落にも押し寄せて来るだろうこと、そしてその時は逃げるようにいわれたことを。
黙って話を聴いてくれたピッグマンさん。集落はおろか自分達の命にも関わる大事だから深刻に受け止めるだろうと思ったんだけれど、案外普通の表情で「そうか、ヨウタロウ様はそうおっしゃっておられたか」って返事をした。
「ナツ、帝国がやがてこの地にも進攻してくるであろうとのことはヨウタロウ様に言われるまでもなく我々トロール族も予測していた。
なんと言っても我々がこの地に落ち着く前に暮らしていた地も帝国の軍隊によって奪われたのだからな。
何故に土地を奪った帝国がその地だけで満足しさらに広い森を攻略しないなどといった考えが甘いものなのは重々に承知しているさ」
「そっかー、なんにも知らない訳じゃなかったんだね、それじゃあ帝国が攻めて来たって対策をしてるから安心だね」
「対策? いや、特段対策は講じてはいないな、無論歯向かう為の斧や弓などの手入れに余念はないが」
んん? 戦争が始まるかも知れないのに何にもしてないの? なんでしてないのさ? 斧や弓ってアナタ、そりゃぁ狩りや木こり仕事とかで使うから余念がないだけでしょう? 悪い事が起こるって判っているのならばその悪い事を避けたり抗ったりしようってもっと積極的に動くモノじゃないの? あれ? これって僕が変なの? いやいや、変なんかじゃないよね。備えあれば憂いなしってことわざもあるじゃん、どうしてピッグマンさんたちトロール族はこんなに普通にしているの?
僕が混乱しているのに気が付いたピッグマンさんは言葉を続ける。
「軍隊の進攻は言わば我らにとって嵐や地揺れ同様に抗い難い天災みたいなものなのだよ。災いは多くの者が犠牲になるが誰も彼もが命を落とすなどといった事はそうはない、必ず幾人かは生き残る。その幾人かが命を繋ぎ過去より連面と伝えられてきた我らトロール族の歴史や技術を次なる世代に教授してくれればいいんだ。なぁナツ、そうだろう?」
え? そうだろってピッグマンさん、もしかして僕がそんな刹那的な考えに賛同するとでも思ってんの? いやいやいやいや、そんなイイ顔をしてポンッって僕の肩を叩いたってダメだからね。「そうだよね」だなんて言ったりしないからね。
「特に今回はナツたちから教わった異世界の技術もあるからな、努力して多くの者を生き残らさねばな」ってさらにイイ顔をしたってダメだってばっ。
う~ん、どうにもトロール族のヒトたちは諦めがよすぎる。
たぶん戦火に巻き込まれたりどうしようもない天災に見舞われた事が多いからなのか、はたまた元より僕らと考えが違うからなのかは判らないけれどもとにかく僕たちと考え方が違いすぎる。
もう一ヶ月近くをトロール族と一緒に過ごしてきて「見た目は違ってても考え方やなんかはトロールもヒトもそんなに変わらないんだな」だなんて思ってたのにここに来て一等スゴいカルチャーショックだよ。「ヤックデカルチャー!」って思わず叫びそうになるくらいのビックリだよ。
とにかくね、相談はしたけれどもあんまり参考にはならなかった。
けど本当に相談するべき人物の見当がついたからピッグマンさんに相談したのもムダじゃなかったかもね。
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