夏と竜

sweet☆肉便器

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82 採取と記録と手洗い

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 「ピッグマンさん、ゆまは姉ちゃん、あっちの木の影でヨモギみたいな葉っぱを見つけたよ。これって薬草なのかな?」

 「うむ、ヨモギか我々も同じ名で呼んでいる植物だな。潰して傷口に湿布したり干したモノを灸として使ったりする。また雑穀の粥に混ぜて食べたりと用途の広い草だ。そうか、ナツたちの世界にもある植物なのだな」

 霊峰の麓の祠にたどり着いた僕たちはそこで荷物を卸すと周囲を適当に掻き分けて目にはいったそれらしい・・・・・植物なんかをピッグマンさんに見せて解説をしてもらった。

 「キュッ、キュッ、キュー?」

 「お、アオちゃんはずいぶんと珍しいモノを持ってきたな。これはアオヒソジ、根や葉などはまじないや薬にも使われるが用量を間違えるとトロールでも昏睡する危険な薬草だ。決して食べたりなどはしてはいけない毒草だ、葉の形が特徴的だから他と間違えはしないだろうが、ゆまは、この葉の形はしっかりと描写しておくといい」

 「わかったわ、スケッチしておくからこっちに葉っぱをちょうだい。ん、やっぱり書きにくいわね」

 そしてゆまは姉ちゃんがピッグマンさんの解説を記録して時には形をスケッチしている。
 ノートもペンもないので薄く剥いだ木の皮と炭で代用してるのでかなり不便そうだ。
 こう言った些細なところで僕らの世界がどれだけ便利だったかを実感する。

 「アオちゃん、手を洗いに行こう? 毒の植物を触ったんだから、かぶれたりするかもだからね」

 「キュー」

 ピッグマンさんが言うには毒が含まれているのは根っこと葉っぱが主であり、茎の部分を引きちぎってきたから大丈夫なのだろうけれど、一応念のためアオちゃんの手を引いて川の方へと行く。
 異世界の知らない草ばっかりなんだもの、用心にこしたことはないしね。

 僕はアオちゃんをすこし離れた川のほとりまで連れてって手を洗わせた。

 「石鹸と同じように泡がたつまで擦ってね」

 「キュッ、キュッ」

 ピッグマンさんに教えてもらったクロモジって木の葉っぱを潰してそれに少量の水を加えたモノで手を洗う。

 僕らの世界にもおんなじ木があっておんなじ様に石鹸として使われたりもしていたりするのだとゆまは姉ちゃんが教えてくれた。
 さっきのヨモギもそうだけど、けっこう植物とかも変わらない種類がこちらにもあるみたいだ。
 
 「キュー」

 「洗えた? うん、キレイになってるね」

 手を広げて見せてくるアオちゃんをほめてやってさぁゆまは姉ちゃんたちが待っている場所まで戻ろうと歩き出したんだけれど、アオちゃんがついてこない。
 アレ? って振り返る。

 「あっ、アオちゃん手を洗ったばっかりなのにまたっ」

 見るとアオちゃんは手を洗った川からすこし離れた茂みのなかにしゃがみこんで何かを掘り出そうとしていた。

 叱ろうと思ったけれど考えてみればまたすぐに木の実や草なんかを採取して汚れるだろう。
 むしろさっきからアオちゃんの採取する植物なんかは貴重だったり役立つモノが多い。なのでもしや今回も貴重な植物を見つけたのかな? ってアオちゃんのそばにしゃがんで彼が一生懸命に掘っている地面を確認してみた。

 「んん? 石?」
 
 果たしてそれは地面からチョッピリと顔をのぞかせた石に見えた。

 泥で汚れててよくはわからないけれど、表面は硬くてツルツルとしている。

 「石かぁ、ピッグマンさんは石の種類もわかるのかなぁ」

 「キュー」

 「もしかしたら薬になったりする石とか? 異世界だから魔石ってヤツかも知れないね」

 「キュッ♪ キュッ♪」

 そんなことを喋りながら僕もアオちゃんの向かいにしゃがみこんで石を掘り出す手伝いをする。

 土は固くって手で掘っても埒があかない。
 そこで僕は傍に落ちていた木の枝の尖端を使って石の周りをなぞるみたいに掘り進める。

 「んお? これって石じゃないんじゃない?」

 しばらく掘り進めると石かと思っていたモノは想像していた真ん丸な形じゃなくって丸みを帯びた細長い形状、いや楕円の環でありさらに環が連なっているのだと気がついた。

 「ちょ、アオちゃんちょっと待ってて」

 まだ一生懸命に土を掘り出しているアオちゃんにことわってさっきの川の淵まで走って水を手に掬いそれを件の環にかけてみる。

 すると石だと思っていたそれはくすんだら灰色をした金属だとわかり、さらにはその形は。

 「鎖だ」

 環を幾つも連ねた鎖だと判明した。

 「なんでこんな場所に鎖なんてあるんだろう?」

 トロールの集落で鉄を使用している道具ってのは驚くほどにすくない。

 農業に使うクワやカマ、狩りで使う矢の先っぽや槍、もしくを僕も持たされたククリナイフくらいで煮炊きに使用する鍋ですら金属じゃなくって土を焼いた陶器、もしくは研磨した石などだ。

 どうして鉄をあまり使わないのか。それをトロール族の長老様に訊ねたときはこう答えてくれた。

 「この辺りは森に囲まれておって鉱石が採れんのじゃ。希少な鉄鉱石はここより遠く隔たったコボルトの集落との交易で得ておる。そしてな、鉄鉱石を加工しようにもその技術も持っておる職人もおらんでな。かつては火を扱い鉄器を自在に造り出すトロールの職人もおったそうじゃがそれも昔の話よ。今では森の中に引っ込みヨウタロウ樣の慈悲におすがりし僅かな耕作地を引っ掻き飢えを辛うじて凌いでいる弱小の一族でしかないんじゃよ」と。

 ちょっと長老様の考えは悲観的に過ぎると思うけれど、まぁこんな感じでトロール族では鉄が普及していないんだそうだ。

 じゃぁこれはコボルト族が造ったんだろうか? それもちょっと疑問だ。

 トロール族の集落にある鉄製品を見ればわかるけれどクワもナイフも形は一定してなくっていびつだからだ。
 鎖ってのは鉄を細い棒状にしてそれを切って幾つも繋げる作業が必要だってのはいくらそーいったことに疎い僕でも見当がつく。
 そしてそんな複雑な作業をコボルトが出来ないってのも他の鉄器を見ればわかる。
 つまるところこの鎖はここにあるのも謎ならば誰が造ったかってのも謎なわけ。

 「うーん、ドワーフって種族かなぁ? ファンタジーな物語やゲームでもドワーフってモノを造る名人ってイメージが多いし」
 
 でもドワーフってエルフと一緒に海の向こう側の大陸に居るんだよねたしか。

 「あ、でもこっちの大陸の海沿いにも街があるんだっけ」

 「キュー、キュー」

 誰が造ったのか? どうしてこんな場所に埋まってるのか? そんなことを考えながらもせっせと掘り進めていたらいつの間にかだいぶ地面から姿が現れてきた。
 
 「これなら残った部分は引っ張れば出てくるかな?」

 「キュッ♪」

 僕はアオちゃんと一緒に鎖を引っ張る。
 ジャラジャラとまだこびりついていた土を落としながら鎖が真っ直ぐに伸びる長さにして大体二.五メートルだろうか。
 なんだか絵本で読んだ大きいカブを引き抜く話を思い出すなぁ。もし抜けなかったらゆまは姉ちゃんとピッグマンさんも呼んでこよう。

 「キュー、クルル」

 「ふふ、そうだね、それでもダメならハーピィにもお願いしてみようね……あっ!」

 ゆまは姉ちゃんにもピッグマンさんにももちろんハーピィにも協力をお願いする必要もなくものすごくあっさりと鎖は抜けた。

 そしてあっさりと抜けた割にその先端はなんにも着いていないと言うこともなく僕とアオちゃんの頭上を飛び越えてズンッと重々しい音をたてて地面に沈んだソレ・・

 「えーと………これって」

 それは剣と言うにはあまりにも大きすぎた(剣じゃないし)大きく分厚く重くそして大雑把すぎた。

 それはまさに鉄球だった。

 
 
 
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