夏と竜

sweet☆肉便器

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77 ククリナイフ

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 前回のあらすじ

 異世界でトロール族のみなさんの集落にお世話になっている僕たちは吹田さんにこっちの世界の調査を依頼されました。
 正直乗り気はしないけれど、任されたからにはガンバりますよ?

 吹田さんが報酬をくれるって言うんで以前壊してしまったエミおばさんのバイクの代わりを頼んだ。
 本当はさ、「報酬なんて要らない、そのぶんトロール族に手厚く報いてくれたらそれでいい」って言えたらカッコいいんだけど、エミおばさんのバイクを壊してしまったのは申し訳なく思っていたから吹田さんからの申し出はありがたかった。
 ありがとう吹田さん。

 さてさて、そんなこんなで異世界での冒険がついに始まるわけなんだけど、僕たちが居るこのトロール族の集落って場所はトンでもなくおっきい森のなかにあって、エルフやドワーフなんかが住んでいる都市部からスッゴく離れているそうなんだ。
 ってかね、ぶっちゃけそういった文明圈は海で隔てられた別な大陸にあるらしい。
 こっちの大陸はほとんどが手付かずの森や砂漠なんかばっかりで街と言えるモノは海に面したごく一部でしかないんだって。

 そう、大自然。ドラゴンはさすがに珍しいそうなんだけど、それでも僕らの世界では想像上の生き物でしかない幻獣たちががバッコバコに跋扈している場所なんです。

 以前じいちゃんと見たハーピィみたいなおとなしかったりフレンドリーなモンスターばっかりならいいんだけど、アオちゃんを追いかけて僕らの世界ではやって来たキマイラみたいな凶暴なモンスターも居る訳で、そんな危険が危ないクリーチャーから身を守らねばならない訳でトロール族のヒトから渡されました、一本の槍。

 「おもっ」

 今回の探索に同行してくれるトロール族のお兄さん、ピッグマンさんは軽々とヒョイッって感じで渡してくれたんだけどこれがまたズッシリとしたいい重さなんだ。

 「ナツ、探索の最中、無論君たちが危険に晒されぬよう充分に心掛ける。だが肉食の獣の中には狂暴なだけではなく狡猾さも併せ持つ者も少なくはない。 
 森に馴れた我々とても時としてそんな獣に裏を掻かれ危機に陥る場合もある。
 道中の最中、私の手が届かず君自身が危機に立ち向かいアオちゃんやゆまはを守らねばならぬ状況もあるやも知れん。故に武器となる槍の使い方を教えておく。
 なに、コレでモンスターを殺せと言うのではない。私が駆けつけるまで生き残る時を稼ぐ術を教えるだけだ。そう震える必要などはない」

 いえ、ピッグマンさん、僕が震えてるのはね、持っている槍がスッゴく重いからなんですよ。

 「なに? この槍は比較的軽いものを選んだつもりだったんだが… そうか、これでもナツには重いのか」

 意外そうに言うけどさ、この槍、体格のいいトロール族に合わせて作ってあるから種族的にトロールよりも細身で身長も低い僕みたいなヒト族全体に合わない武器だと思うよ?
 決して僕がチビでひ弱なせいではないハズだ。
 コレを持って森のなか歩いたら一キロも歩かずにバテそうなんだけど。

 「ふむ、ではコレはどうだ? 槍よりも間合いが狭まるが取り回しは容易かろう」

 そう言って渡してくれたのはピッグマンさんが腰に帯びていた一本のナイフ。

 刃のある方に向かってくの字に曲がってて尖端側が広くなっている。
 知ってる。ククリナイフとかって呼ばれているナイフだ。
 僕らの世界でもあるヤツでナタみたいに木を切り払ったりも出来る有名なナイフ。

 「ん、これならなんとかイケそう」

 柄はやっぱりトロールに合わせて太めだけどこれならば持てない事はなさそう。
 キマイラとの戦いで使ったワスプナイフがあればとも思ったけどキマイラの腹が爆発した時にどっかへいってしまったし、アレは突き刺すのが主な用途で使いどころが限られているし、高圧ガスを封入したボンベがなければ本来の実力を発揮出来ないしね。
 何頭ものモンスターを相手にしなければならない状況も想定される現状ではあまり適している武器とは言えないだろう。

 僕はピッグマンさんから渡されたククリナイフを何度か振るってみる。
 うん、やっぱりチョット重いけれどその重さで刃に速度が乗る。今みたいな状況ではワスプナイフよりもこちらのほうがいい選択だろう。

 何度か振って使い勝手を確認、それからピッグマンさんが鞘も渡してくれたのでそれを荒く綯った縄で腰にくくりつけた。

 うーん、ワスプナイフの時はそんなことを考える余裕もなかったけど、武器を持つと何だか強くなった気がする。

 「どう、アオちゃん? カッコいいかな?」

 「キュー♪」

 両足を開いて腰を落としククリナイフを逆手に握って流し目をアオちゃんに送る。
 僕のかんがえたカッコいい武器の構え方だ。
 
 少し離れた場所で僕とピッグマンさんのやり取りを眺めていたアオちゃんは両手をバタバタさせて「ナッちゃんカッコいい~♪」って褒めてくれる。
 
 「えへへ、そう? よっ、とうっ、ちぇすと~!」

 僕はアオちゃんに褒められて得意になってしまいブンブンククリナイフを振り回す。

 「コラ、調子に乗るとケガをするぞ」

 「あだっ!?」

 すると脳天にゴツっと重い拳骨が降ってきた。

 「君が手にしているのは刃物だ、扱いを間違えれば君自身や君の仲間をも傷つけてしまう危険な代物であるのを忘れてはいかんぞ」

 頭に天辺からお尻の穴に抜けるみたいな衝撃だ。
 痛みに蹲っている僕にピッグマンさんが注意をしてきた。

 「まったく、聡明かと思えばトロールの子供でもせんような稚戯ではしゃぐ… 異世界のヒトとはかわっているな」

 うーん、叱られてしまった。
 けど確かにナイフを振り回すだなんて危険だよね。ついはしゃいじゃったけどピッグマンさんが言うようにもっと慎重に扱わなきゃね。
 反省反省。

 「ごめんなさい、ピッグマンさん」

 頭をさすりながらナイフを鞘に納め立ち上がる。
 僕の目の前には腕を組んで仁王立ちのピッグマンさん。怖い顔で僕を見下ろしているけどそれは僕が間違いを犯したからだ。
 たとえ前科十犯確定の凶悪ヅラでも決して僕を害そうと悪意を以ての怒面じゃないのはこの数日の暮らしのなかで重々にわかっている。

 けどトロール族が純朴な善人ばかりだってわかってても手を出さずにはいられないヒトってのが僕の側には居るわけで…

 「あっ、ピッグマンさんうし…」

 「ナッちゃんの尊いアタマッなんド突いてんがねっ!? アンターーッ!?」

 「ほごっ!??」

 僕が言い終わる前にゆまは姉ちゃんが電光石火で繰り出した回し蹴りがピッグマンさんの鼻にクリティカルヒット、その巨体を轟沈させたのだった。
 
 

 
 

 
 
 
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