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第六話
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「はい、どなたですか?」
リリアの部屋をノックすると、彼女の声が中からした。
私と話す時よりも数段高い外面用の声。
程なくしてガチャリと扉が開くと、そこにはリリアが立っていた。
「なんだ。ヴィクトリアか」
もう敬意を払う気もないらしい。
彼女の声は氷のように冷たさを帯びていた。
「いきなりきて何の用?私、忙しいんだけど」
「突然ごめんなさい。あなたに聞きたいことがあるの」
「……分かった。入って」
私の意図を察したのか、彼女はすんなりと部屋へと入れてくれる。
彼女は疲れたようにベッドに腰かけると、私を見上げた。
「それで、聞きたいことってなに?」
私は立ったまま答える。
「単刀直入に言うわね。私の力のことを広めたのはあなたでしょう?」
「……はい?」
リリアが首を傾げる。
何のことか分からないとでも言いたげな顔だ。
「私があなたの未来視のことを広めたって?ふふっ、面白い冗談ね」
「冗談じゃない。私の力のことを知っていたのはヨハン王子だけだった……でも、王子はあなたにしか話していないみたい。つまりあなたが広めたのでしょう?」
問い詰めるも、彼女は不気味な笑みを崩さない。
「私がやったって証拠でもあるのかしら?」
「それはないけど……今から皆に聞いて回れば……」
「笑っちゃうわね。あなたがここを去るまであと一週間しかないのよ。そんな短期間でこの王宮の全部の人間にあたるの?無謀よ。そもそも遠出をして今王宮を離れている人もいっぱいいるのよ」
「それは……」
確かにリリアの言った通りだ。
王宮内の全ての人間に聞いて回るのは、現実的ではないのかもしれない。
「ヴィクトリアって意外に頭が回らないんだねぇ」
ふふっと嘲笑を私に向けるリリア。
一瞬怒りが全身に満ち溢れたが、私は何とかそれを抑え込む。
リリアのペースに乗ってはいけない……それで一度失敗したじゃないか。
自分に言い聞かせ、私は口を開いた。
「リリア、私は諦めないから」
「ふふっ……何を?」
「何をって……それは……あなたが私の力を皆に……」
「だからそれを暴いてどうする気ですか?もうあなたは婚約破棄されたんですよ?意味なくないですかぁ?」
私は言葉に詰まる。
確かにそうだ、今からいくら真実を明らかにした所で、何かが変わることはない。
ならなぜ私はこんなにも……。
途端に自分が何をしたかったのか分からなくなる。
私は一体何を望んでいるのだろう。
「ヴィクトリア。諦めて。もう全て終わってるの」
リリアの部屋をノックすると、彼女の声が中からした。
私と話す時よりも数段高い外面用の声。
程なくしてガチャリと扉が開くと、そこにはリリアが立っていた。
「なんだ。ヴィクトリアか」
もう敬意を払う気もないらしい。
彼女の声は氷のように冷たさを帯びていた。
「いきなりきて何の用?私、忙しいんだけど」
「突然ごめんなさい。あなたに聞きたいことがあるの」
「……分かった。入って」
私の意図を察したのか、彼女はすんなりと部屋へと入れてくれる。
彼女は疲れたようにベッドに腰かけると、私を見上げた。
「それで、聞きたいことってなに?」
私は立ったまま答える。
「単刀直入に言うわね。私の力のことを広めたのはあなたでしょう?」
「……はい?」
リリアが首を傾げる。
何のことか分からないとでも言いたげな顔だ。
「私があなたの未来視のことを広めたって?ふふっ、面白い冗談ね」
「冗談じゃない。私の力のことを知っていたのはヨハン王子だけだった……でも、王子はあなたにしか話していないみたい。つまりあなたが広めたのでしょう?」
問い詰めるも、彼女は不気味な笑みを崩さない。
「私がやったって証拠でもあるのかしら?」
「それはないけど……今から皆に聞いて回れば……」
「笑っちゃうわね。あなたがここを去るまであと一週間しかないのよ。そんな短期間でこの王宮の全部の人間にあたるの?無謀よ。そもそも遠出をして今王宮を離れている人もいっぱいいるのよ」
「それは……」
確かにリリアの言った通りだ。
王宮内の全ての人間に聞いて回るのは、現実的ではないのかもしれない。
「ヴィクトリアって意外に頭が回らないんだねぇ」
ふふっと嘲笑を私に向けるリリア。
一瞬怒りが全身に満ち溢れたが、私は何とかそれを抑え込む。
リリアのペースに乗ってはいけない……それで一度失敗したじゃないか。
自分に言い聞かせ、私は口を開いた。
「リリア、私は諦めないから」
「ふふっ……何を?」
「何をって……それは……あなたが私の力を皆に……」
「だからそれを暴いてどうする気ですか?もうあなたは婚約破棄されたんですよ?意味なくないですかぁ?」
私は言葉に詰まる。
確かにそうだ、今からいくら真実を明らかにした所で、何かが変わることはない。
ならなぜ私はこんなにも……。
途端に自分が何をしたかったのか分からなくなる。
私は一体何を望んでいるのだろう。
「ヴィクトリア。諦めて。もう全て終わってるの」
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