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第七話
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ザックがレイチェルにバッジを返すことを約束してその場を去ると、ソニアとレイチェルは並んで帰路についた。
こうして二人だけの時間は久しぶりなことであったので、しばらくは二人とも口を開こうとはしなかった。
しかし家路を半分ほど進んだ所で、ふいにレイチェルが口を開いた。
「ソニア、その……今まで悪かったわね」
「え?」
突然の謝罪にソニアがポカンとする。
一瞬の間の後、言葉の意味を理解する。
レイチェルは昔自分に意地悪なことをしていたことを言っているのだろう、ソニアはそう思った。
「別に、気にしてないから」
少し怒ったようにソニアが言うと、レイチェルは悲しそうに俯いた。
「そう……ごめんね」
そこからはまた無言の時間が続いた。
しかし二人にとってそれは居心地の悪いものでは決してなかった。
時刻が遅く空気が澄んでいるからかもしれないが、呼吸がしやすいような空気の軽さを感じていた。
家につくと二人はそれぞれの部屋へと足音を立てず入った。
レイチェルが自室に入る直前ソニアに手を振ったので、ソニアも手を振り返した。
レイチェルの顔は笑っていた。
ソニアは自室へ入ると、ふうっとため息をはいた。
事件は全て解決したものとばかり思っていたが、どうやらそうでないらしい。
レイチェルが嘘を言っている可能性もあるが、それについて言及できるだけの手掛かりもない。
振り出しに戻ったような気がして、ソニアは暗い気持ちになった。
自警団が最初に言っていた通り、レナードは浮気相手と共にこの街を去ってしまったのかもしれない。
殺されているよりはまだそっちの方がマシなように思えるが、それはそれで悲しい。
せめて婚約破棄の一つでも彼の口から宣言してくれたなら真実に辿りつけたものを。
疲れからか睡魔も増してきたので、ソニアは流れるようにベッドに入って寝た。
それから数日が経ち、ソニアは正式にレナードと婚約破棄することが決まった。
しかしそれでもソニアは彼のことを忘れることなど出来はしなかった。
一刻も早くレナードに会いたい、その思いは日に日に増すばかりだった。
レナードが失踪してから二か月が経つと、父が新たな縁談の話をソニアに提案した。
ソニアが父の書斎へ入ると、いつもよりは柔らかな表情の父がそこにいた。
「ソニア、お前に縁談の話がある。どうするかは自分で決めるといい」
そう言って父は一枚の紙をソニアに渡すと、彼女はそれを悲しそうに見つめた。
「少し……考えさせてください」
ソニアはクルリと体の向きを変えると、紙を見つめながら書斎を後にした。
こうして二人だけの時間は久しぶりなことであったので、しばらくは二人とも口を開こうとはしなかった。
しかし家路を半分ほど進んだ所で、ふいにレイチェルが口を開いた。
「ソニア、その……今まで悪かったわね」
「え?」
突然の謝罪にソニアがポカンとする。
一瞬の間の後、言葉の意味を理解する。
レイチェルは昔自分に意地悪なことをしていたことを言っているのだろう、ソニアはそう思った。
「別に、気にしてないから」
少し怒ったようにソニアが言うと、レイチェルは悲しそうに俯いた。
「そう……ごめんね」
そこからはまた無言の時間が続いた。
しかし二人にとってそれは居心地の悪いものでは決してなかった。
時刻が遅く空気が澄んでいるからかもしれないが、呼吸がしやすいような空気の軽さを感じていた。
家につくと二人はそれぞれの部屋へと足音を立てず入った。
レイチェルが自室に入る直前ソニアに手を振ったので、ソニアも手を振り返した。
レイチェルの顔は笑っていた。
ソニアは自室へ入ると、ふうっとため息をはいた。
事件は全て解決したものとばかり思っていたが、どうやらそうでないらしい。
レイチェルが嘘を言っている可能性もあるが、それについて言及できるだけの手掛かりもない。
振り出しに戻ったような気がして、ソニアは暗い気持ちになった。
自警団が最初に言っていた通り、レナードは浮気相手と共にこの街を去ってしまったのかもしれない。
殺されているよりはまだそっちの方がマシなように思えるが、それはそれで悲しい。
せめて婚約破棄の一つでも彼の口から宣言してくれたなら真実に辿りつけたものを。
疲れからか睡魔も増してきたので、ソニアは流れるようにベッドに入って寝た。
それから数日が経ち、ソニアは正式にレナードと婚約破棄することが決まった。
しかしそれでもソニアは彼のことを忘れることなど出来はしなかった。
一刻も早くレナードに会いたい、その思いは日に日に増すばかりだった。
レナードが失踪してから二か月が経つと、父が新たな縁談の話をソニアに提案した。
ソニアが父の書斎へ入ると、いつもよりは柔らかな表情の父がそこにいた。
「ソニア、お前に縁談の話がある。どうするかは自分で決めるといい」
そう言って父は一枚の紙をソニアに渡すと、彼女はそれを悲しそうに見つめた。
「少し……考えさせてください」
ソニアはクルリと体の向きを変えると、紙を見つめながら書斎を後にした。
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