上 下
7 / 12

第七話

しおりを挟む
ザックがレイチェルにバッジを返すことを約束してその場を去ると、ソニアとレイチェルは並んで帰路についた。 

こうして二人だけの時間は久しぶりなことであったので、しばらくは二人とも口を開こうとはしなかった。 
 
しかし家路を半分ほど進んだ所で、ふいにレイチェルが口を開いた。 

「ソニア、その……今まで悪かったわね」 

「え?」 

突然の謝罪にソニアがポカンとする。 
一瞬の間の後、言葉の意味を理解する。 
レイチェルは昔自分に意地悪なことをしていたことを言っているのだろう、ソニアはそう思った。 

「別に、気にしてないから」 

少し怒ったようにソニアが言うと、レイチェルは悲しそうに俯いた。 

「そう……ごめんね」 

そこからはまた無言の時間が続いた。 
しかし二人にとってそれは居心地の悪いものでは決してなかった。 
時刻が遅く空気が澄んでいるからかもしれないが、呼吸がしやすいような空気の軽さを感じていた。 

家につくと二人はそれぞれの部屋へと足音を立てず入った。 
レイチェルが自室に入る直前ソニアに手を振ったので、ソニアも手を振り返した。 
レイチェルの顔は笑っていた。 

ソニアは自室へ入ると、ふうっとため息をはいた。 
事件は全て解決したものとばかり思っていたが、どうやらそうでないらしい。 
レイチェルが嘘を言っている可能性もあるが、それについて言及できるだけの手掛かりもない。 

振り出しに戻ったような気がして、ソニアは暗い気持ちになった。 

自警団が最初に言っていた通り、レナードは浮気相手と共にこの街を去ってしまったのかもしれない。 

殺されているよりはまだそっちの方がマシなように思えるが、それはそれで悲しい。 
せめて婚約破棄の一つでも彼の口から宣言してくれたなら真実に辿りつけたものを。 

疲れからか睡魔も増してきたので、ソニアは流れるようにベッドに入って寝た。 

それから数日が経ち、ソニアは正式にレナードと婚約破棄することが決まった。 
しかしそれでもソニアは彼のことを忘れることなど出来はしなかった。 
一刻も早くレナードに会いたい、その思いは日に日に増すばかりだった。 

レナードが失踪してから二か月が経つと、父が新たな縁談の話をソニアに提案した。 
ソニアが父の書斎へ入ると、いつもよりは柔らかな表情の父がそこにいた。 

「ソニア、お前に縁談の話がある。どうするかは自分で決めるといい」 

そう言って父は一枚の紙をソニアに渡すと、彼女はそれを悲しそうに見つめた。 

「少し……考えさせてください」 

ソニアはクルリと体の向きを変えると、紙を見つめながら書斎を後にした。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】夫もメイドも嘘ばかり

横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。 サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。 そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。 夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。

【完結】幼馴染のバカ王子が私を嫉妬させようとした結果

横居花琉
恋愛
公爵令嬢フィリスはトレバー王子から「婚約してやらない」と宣言された。 その発言のせいで国王から秘密裏に打診されていた婚約は実現しないものとなった。 トレバー王子の暴挙はそれで終わらず、今度は男爵令嬢と婚約しフィリスを嫉妬させようとした。 フィリスはトレバー王子の自爆により望まない婚約を回避する。

【完結】私を処刑させようと王に取り入った義妹

横居花琉
恋愛
パトリシアは反乱を企てた罪により投獄された。 それはパトリシアの義妹のエミリーが王に訴え出たからだ。 事実無根を訴えるパトリシアを救うべく、婚約者のアレックス王子は無罪を証明しようと奔走する。

【完結】まだ結婚しないの? 私から奪うくらい好きな相手でしょう?

横居花琉
恋愛
長い間婚約しているのに結婚の話が進まないことに悩むフローラ。 婚約者のケインに相談を持ち掛けても消極的な返事だった。 しかし、ある時からケインの行動が変わったように感じられた。 ついに結婚に乗り気になったのかと期待したが、期待は裏切られた。 それも妹のリリーによってだった。

【完結】妹のせいで婚約者を失いましたが、私を信じてくれる人と出会えました

横居花琉
恋愛
婚約者ができた姉のマリエルを妹のメーベルは祝福しなかった。 姉の物を奪ってきた実績が婚約者を奪おうという愚行に走らせる。

【完結】友人だと思っていたのに裏切られるなんて……

横居花琉
恋愛
女性からの人気も高いアーウィン。 クラリスも彼のことが気になっていた。 そこに友人のポーラは一つの提案をもちかけた。 クラリスは彼女の提案を受けた。 ポーラがクラリスの恋を妨害する意図を隠していたとも知らずに。

【完結】結婚しても私の居場所はありませんでした

横居花琉
恋愛
セリーナは両親から愛されておらず、資金援助と引き換えに望まない婚約を強要された。 婚約者のグスタフもセリーナを愛しておらず、金を稼ぐ能力が目当てでの婚約だった。 結婚してからも二人の関係は変わらなかった。 その関係もセリーナが開き直ることで終わりを迎える。

【完結】本当に私と結婚したいの?

横居花琉
恋愛
ウィリアム王子には公爵令嬢のセシリアという婚約者がいたが、彼はパメラという令嬢にご執心だった。 王命による婚約なのにセシリアとの結婚に乗り気でないことは明らかだった。 困ったセシリアは王妃に相談することにした。

処理中です...