8 / 8
第八話
しおりを挟む
「シア。帰ったぞ」
隣国に移り住んで八年が経っていた。
いつものように夜遅く帰ってきた父は、私の部屋の扉をノックした。
我が家ではそれがルールだった。
「お父様!」
私が間髪入れずに扉を開けたので、父は驚いて目を見開いた。
しかし次の瞬間にはニコっと笑う。
「びっくりしたじゃないかシア……どうしたんだ?」
どうやら父はまだ気づいていないらしい。
こういうことには昔から無頓着なのだ。
「どうしたって……はぁ……その様子だと本当に忘れているみたいですね。今から食堂まで来てください」
「え?」
困惑する父を連れ、私は食堂に向かう。
扉の前には今か今かと使用人が待ち構えていた。
彼女は私を見ると嬉しそうに笑い扉を開ける。
「お父様。さぁ入って」
「だが、灯りすらついていないぞ?本当に入るのか?」
「文句言わずに入ってください!ほら!」
少し強引に背中を押して父を中に入れる。
私も後に続いて食堂に入ると、パッと灯りが付けられた。
テーブルの上に置かれたものを見て、父は「あっ!」と声をあげる。
それは父の誕生日ケーキだった。
「お父様!お誕生日おめでとうございます!」
私がそう言うと、使用人たちも口々に祝福の言葉を言った。
食堂は幸せと拍手に包まれ、父は挙句の果てに泣き出してしまった。
「ちょっ……お父様!?泣かないでくださいよ……お父様に泣かれたら……私も……」
堪えることはできなかった。
私の両目から大粒の涙が流れ落ちる。
涙を貰っただけでなく、来週にはこの家を去る寂しさが募ったのだろう。
「シア……ありがとう。私の一生の思い出だ」
「それなら……よかったです」
恥ずかしそうにそっぽを向くと、父が私の頭を撫でてくれた。
父は手は大きく温かかった。
嫁いでいく私への、父なりの最大限のエールとなった。
「あっ!」
と、私は大切なものを忘れていたことに気づいた。
「ちょっと待っててください!すぐに戻ります!」
足早に食堂を去り、自室に戻る。
机の上に置かれた写真を手に取り、「ごめんなさい」と苦笑した。
それは家族写真だった。
今は亡き母が満面の笑顔でこちらを見ていた。
父は恥ずかしそうに顔を背け、私は歯を出して笑っていた。
「お母様。今日はお父様の誕生日ですよ。一緒にお祝いしましょう」
私は写真をぎゅっと胸に抱くと、自室を後にした……
隣国に移り住んで八年が経っていた。
いつものように夜遅く帰ってきた父は、私の部屋の扉をノックした。
我が家ではそれがルールだった。
「お父様!」
私が間髪入れずに扉を開けたので、父は驚いて目を見開いた。
しかし次の瞬間にはニコっと笑う。
「びっくりしたじゃないかシア……どうしたんだ?」
どうやら父はまだ気づいていないらしい。
こういうことには昔から無頓着なのだ。
「どうしたって……はぁ……その様子だと本当に忘れているみたいですね。今から食堂まで来てください」
「え?」
困惑する父を連れ、私は食堂に向かう。
扉の前には今か今かと使用人が待ち構えていた。
彼女は私を見ると嬉しそうに笑い扉を開ける。
「お父様。さぁ入って」
「だが、灯りすらついていないぞ?本当に入るのか?」
「文句言わずに入ってください!ほら!」
少し強引に背中を押して父を中に入れる。
私も後に続いて食堂に入ると、パッと灯りが付けられた。
テーブルの上に置かれたものを見て、父は「あっ!」と声をあげる。
それは父の誕生日ケーキだった。
「お父様!お誕生日おめでとうございます!」
私がそう言うと、使用人たちも口々に祝福の言葉を言った。
食堂は幸せと拍手に包まれ、父は挙句の果てに泣き出してしまった。
「ちょっ……お父様!?泣かないでくださいよ……お父様に泣かれたら……私も……」
堪えることはできなかった。
私の両目から大粒の涙が流れ落ちる。
涙を貰っただけでなく、来週にはこの家を去る寂しさが募ったのだろう。
「シア……ありがとう。私の一生の思い出だ」
「それなら……よかったです」
恥ずかしそうにそっぽを向くと、父が私の頭を撫でてくれた。
父は手は大きく温かかった。
嫁いでいく私への、父なりの最大限のエールとなった。
「あっ!」
と、私は大切なものを忘れていたことに気づいた。
「ちょっと待っててください!すぐに戻ります!」
足早に食堂を去り、自室に戻る。
机の上に置かれた写真を手に取り、「ごめんなさい」と苦笑した。
それは家族写真だった。
今は亡き母が満面の笑顔でこちらを見ていた。
父は恥ずかしそうに顔を背け、私は歯を出して笑っていた。
「お母様。今日はお父様の誕生日ですよ。一緒にお祝いしましょう」
私は写真をぎゅっと胸に抱くと、自室を後にした……
213
お気に入りに追加
159
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
【完結】私の婚約者は、親友の婚約者に恋してる。
山葵
恋愛
私の婚約者のグリード様には好きな人がいる。
その方は、グリード様の親友、ギルス様の婚約者のナリーシャ様。
2人を見詰め辛そうな顔をするグリード様を私は見ていた。
【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!
山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」
夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。
【完結】婚約破棄させた本当の黒幕は?
山葵
恋愛
「お前との婚約は破棄させて貰うっ!!」
「お義姉樣、ごめんなさい。ミアがいけないの…。お義姉様の婚約者と知りながらカイン様を好きになる気持ちが抑えられなくて…ごめんなさい。」
「そう、貴方達…」
「お義姉様は、どうか泣かないで下さい。激怒しているのも分かりますが、怒鳴らないで。こんな所で泣き喚けばお姉様の立場が悪くなりますよ?」
あぁわざわざパーティー会場で婚約破棄したのは、私の立場を貶める為だったのね。
悪いと言いながら、怯えた様に私の元婚約者に縋り付き、カインが見えない様に私を蔑み嘲笑う義妹。
本当に強かな悪女だ。
けれどね、私は貴女の期待通りにならないのよ♪
金目当ての婚約なんて、二度とごめんだわ!
あお
恋愛
食堂でお昼ご飯を食べていたら、レイリアは婚約者に婚約破棄を突きつけられた。
ラウール様。貴方のお父様が頭を下げて申し込んだ婚約なのに、婚約破棄なんて口にしていいんですか?
公爵夫人は愛されている事に気が付かない
山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」
「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」
「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」
「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」
社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。
貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。
夫の隣に私は相応しくないのだと…。
【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~
山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。
この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。
父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。
顔が良いから、女性にモテる。
わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!?
自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。
*沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m
【完結】今更そんな事を言われましても…
山葵
恋愛
「お願いだよ。婚約解消は無かった事にしてくれ!」
そんな事を言われましても、もう手続きは終わっていますし、私は貴方に未練など有りません。
寧ろ清々しておりますので、婚約解消の撤回は認められませんわ。
【完結】私は婚約破棄されると知っている
山葵
恋愛
私とイザーク王子との出会いは彼の誕生日お茶会。
同じ年頃の子息、令嬢が招待されたお茶会で初めて殿下を見た時は、『うわぁ~、キラキラしてる。本物の王子様だぁ~』なんて可愛い事を思ったっけ。
まさかイザーク王子と私が婚約するなんてねぇ~。
まさか私が悪役令嬢なんてねぇ~。
異世界転生させた神(?かしら)恨むわよっ!
私は絶対に悪役令嬢になんて成らないんだからねっ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる