上 下
14 / 27

第十四話

しおりを挟む
「エマ、悪いけど、婚約は破棄してくれないかな?」 

「え?」 

ワイマール宅に呼ばれた私は、彼の部屋で突然そう告げられた。 

「どうして……」 

私は信じられないといった様子で尋ねる。 

「えっと……それは……ちょっと色々あって……」 

「色々とは何でしょうか?」 

追求しようとすると、彼は困った表情を浮かべた。 

「それは……」 

「ワイマール様ぁ!早くこっちに来てくださいよぉ!私、寂しいですぅ」 

とその時、部屋の外から女の大きな声が聞こえてきた。 
どこかで聞いたことのある声だった。 

「あ……えっと、ちょっとごめん!エマ、少し待っててくれ!」 

そう言って、彼は慌てた様子で部屋から出て行った。 

「なにそれ……」 

私は呆然としながら、しばらくその場に立ち尽くしていた。 
しばらくして戻ってきたワイマールはどこか嬉しそうな表情をしていたが、私の殺気を感じ取ったのか、直ぐに真剣な顔つきに変わった。 

「それで、一体どういった理由で婚約破棄をされたいのでしょうか?」 

冷たい声で私がそう言うと、ワイマールは目を伏せた。 

「他に……好きな人が出来たんだ……」 

「……」 

デジャブのような光景に私は何も言えなくなる。 

「えっと、別に君に不満があるわけじゃないんだ……とても美しいし、性格だっていい。結婚して妻になってくれたら幸せな未来が待っているだろう」 

「では、どうして!?」 

「その……彼女には僕しかいないんだ。さっきの声聞いたろ?僕が少しいなくなっただけであんなに寂しがって……はは……本当参っちゃうよ」 

そう嬉しそうに話すワイマール。 

「だから、申し訳ないけど、僕とは婚約破棄してほしい。頼むよ」 

「……分かりました」 

悲しみで上手く頭が追いついてこず、気づいたら私はそう答えていた。 

「エマ、本当にごめんね。じゃあ、僕はこれから彼女と……い、いや!ちょっと用事があるから!!……」 

そう言って彼は足早に立ち去ってしまった。 

「嘘……だったらいいのにな……」 

私は一人取り残され、静かに呟いた。 
家に帰ると、私はふらつきながら自室へと入った。 

「残念だったね」 

扉を開けると、老婆が椅子に座り外を見つめていた。 

「……いつも私のことを見ているの?」 

「まあ、時間がある時はね」 

「そう……」 

私はそのままベッドに倒れ込む。 

「まさかあの男に裏切られるとはねえ……」 

「うるさい……」 

私は枕に顔を押し付けながら呟く。 

「あんたも、もっとしっかりしてればよかったんだよ。ビンタの一つでもしてこれば良かったのに」 

「分かってる……」 

「それで、これからどうするんだい?」 

「分からない。もう……疲れちゃった……」 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

他の人を好きになったあなたを、私は愛することができません

天宮有
恋愛
 公爵令嬢の私シーラの婚約者レヴォク第二王子が、伯爵令嬢ソフィーを好きになった。    第三王子ゼロアから聞いていたけど、私はレヴォクを信じてしまった。  その結果レヴォクに協力した国王に冤罪をかけられて、私は婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。  追放された私は他国に行き、数日後ゼロアと再会する。  ゼロアは私を追放した国王を嫌い、国を捨てたようだ。  私はゼロアと新しい生活を送って――元婚約者レヴォクは、後悔することとなる。

拗れた恋の行方

音爽(ネソウ)
恋愛
どうしてあの人はワザと絡んで意地悪をするの? 理解できない子爵令嬢のナリレットは幼少期から悩んでいた。 大切にしていた亡き祖母の髪飾りを隠され、ボロボロにされて……。 彼女は次第に恨むようになっていく。 隣に住む男爵家の次男グランはナリレットに焦がれていた。 しかし、素直になれないまま今日もナリレットに意地悪をするのだった。

婿入り条件はちゃんと確認してください。

もふっとしたクリームパン
恋愛
<あらすじ>ある高位貴族の婚約関係に問題が起きた。両家の話し合いの場で、貴族令嬢は選択を迫ることになり、貴族令息は愛と未来を天秤に懸けられ悩む。答えは出ないまま、時間だけが過ぎていく……そんな話です。*令嬢視点で始まります。*すっきりざまぁではないです。ざまぁになるかは相手の選択次第なのでそこまで話はいきません。その手前で終わります。*突発的に思いついたのを書いたので設定はふんわりです。*カクヨム様にも投稿しています。*本編二話+登場人物紹介+おまけ、で完結。

いつから恋人?

ざっく
恋愛
告白して、オーケーをしてくれたはずの相手が、詩織と付き合ってないと言っているのを聞いてしまった。彼は、幼馴染の女の子を気遣って、断れなかっただけなのだ。

公爵夫人は愛されている事に気が付かない

山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」 「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」 「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」 「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」 社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。 貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。 夫の隣に私は相応しくないのだと…。

【完結】 婚約者が魅了にかかりやがりましたので

キムラましゅろう
恋愛
チェルカは自身の婚約者のことで悩んでいた。 王女の専属護衛騎士となってからというもの、婚約者は王女に夢中になってチェルカのことをおざなりに扱うようになったからだ。 婚約者に王女との距離がおかしいと何度伝えてもそんな目で見る方がおかしいと返される。それならいっそのこと婚約解消をと願っても、チェルカの事も大好きだと言う婚約者はまともに取り合ってはくれない。 優しかった婚約者が人が変わったようになった事や、複数の男性が同じように豹変してしまった事から、やがて王宮魔術師であるチェルカは疑いを持ち始める。 もしかして婚約者は魅了に掛かっているのではないかと。 ノーリアリティの完全ご都合主義なお話です。 モヤモヤのムカムカ案件にて血圧上昇にご注意を。 誤字脱字……ごめんね。←すでに諦め 小説家になろうさんにも時差投稿します。

【完結】消えた姉の婚約者と結婚しました。愛し愛されたかったけどどうやら無理みたいです

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベアトリーチェは消えた姉の代わりに、姉の婚約者だった公爵家の子息ランスロットと結婚した。 夫とは愛し愛されたいと夢みていたベアトリーチェだったが、夫を見ていてやっぱり無理かもと思いはじめている。 ベアトリーチェはランスロットと愛し愛される夫婦になることを諦め、楽しい次期公爵夫人生活を過ごそうと決めた。 一方夫のランスロットは……。 作者の頭の中の異世界が舞台の緩い設定のお話です。 ご都合主義です。 以前公開していた『政略結婚して次期侯爵夫人になりました。愛し愛されたかったのにどうやら無理みたいです』の改訂版です。少し内容を変更して書き直しています。前のを読んだ方にも楽しんでいただけると嬉しいです。

許して貰わなくても結構です

音爽(ネソウ)
恋愛
裏切った恋人、二度と会いたくないと彼女は思った。愛はいつしか憎悪になる。 そして懲りない男は今でも愛されていると思い込んでいて……

処理中です...