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第十四話
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「エマ、悪いけど、婚約は破棄してくれないかな?」
「え?」
ワイマール宅に呼ばれた私は、彼の部屋で突然そう告げられた。
「どうして……」
私は信じられないといった様子で尋ねる。
「えっと……それは……ちょっと色々あって……」
「色々とは何でしょうか?」
追求しようとすると、彼は困った表情を浮かべた。
「それは……」
「ワイマール様ぁ!早くこっちに来てくださいよぉ!私、寂しいですぅ」
とその時、部屋の外から女の大きな声が聞こえてきた。
どこかで聞いたことのある声だった。
「あ……えっと、ちょっとごめん!エマ、少し待っててくれ!」
そう言って、彼は慌てた様子で部屋から出て行った。
「なにそれ……」
私は呆然としながら、しばらくその場に立ち尽くしていた。
しばらくして戻ってきたワイマールはどこか嬉しそうな表情をしていたが、私の殺気を感じ取ったのか、直ぐに真剣な顔つきに変わった。
「それで、一体どういった理由で婚約破棄をされたいのでしょうか?」
冷たい声で私がそう言うと、ワイマールは目を伏せた。
「他に……好きな人が出来たんだ……」
「……」
デジャブのような光景に私は何も言えなくなる。
「えっと、別に君に不満があるわけじゃないんだ……とても美しいし、性格だっていい。結婚して妻になってくれたら幸せな未来が待っているだろう」
「では、どうして!?」
「その……彼女には僕しかいないんだ。さっきの声聞いたろ?僕が少しいなくなっただけであんなに寂しがって……はは……本当参っちゃうよ」
そう嬉しそうに話すワイマール。
「だから、申し訳ないけど、僕とは婚約破棄してほしい。頼むよ」
「……分かりました」
悲しみで上手く頭が追いついてこず、気づいたら私はそう答えていた。
「エマ、本当にごめんね。じゃあ、僕はこれから彼女と……い、いや!ちょっと用事があるから!!……」
そう言って彼は足早に立ち去ってしまった。
「嘘……だったらいいのにな……」
私は一人取り残され、静かに呟いた。
家に帰ると、私はふらつきながら自室へと入った。
「残念だったね」
扉を開けると、老婆が椅子に座り外を見つめていた。
「……いつも私のことを見ているの?」
「まあ、時間がある時はね」
「そう……」
私はそのままベッドに倒れ込む。
「まさかあの男に裏切られるとはねえ……」
「うるさい……」
私は枕に顔を押し付けながら呟く。
「あんたも、もっとしっかりしてればよかったんだよ。ビンタの一つでもしてこれば良かったのに」
「分かってる……」
「それで、これからどうするんだい?」
「分からない。もう……疲れちゃった……」
「え?」
ワイマール宅に呼ばれた私は、彼の部屋で突然そう告げられた。
「どうして……」
私は信じられないといった様子で尋ねる。
「えっと……それは……ちょっと色々あって……」
「色々とは何でしょうか?」
追求しようとすると、彼は困った表情を浮かべた。
「それは……」
「ワイマール様ぁ!早くこっちに来てくださいよぉ!私、寂しいですぅ」
とその時、部屋の外から女の大きな声が聞こえてきた。
どこかで聞いたことのある声だった。
「あ……えっと、ちょっとごめん!エマ、少し待っててくれ!」
そう言って、彼は慌てた様子で部屋から出て行った。
「なにそれ……」
私は呆然としながら、しばらくその場に立ち尽くしていた。
しばらくして戻ってきたワイマールはどこか嬉しそうな表情をしていたが、私の殺気を感じ取ったのか、直ぐに真剣な顔つきに変わった。
「それで、一体どういった理由で婚約破棄をされたいのでしょうか?」
冷たい声で私がそう言うと、ワイマールは目を伏せた。
「他に……好きな人が出来たんだ……」
「……」
デジャブのような光景に私は何も言えなくなる。
「えっと、別に君に不満があるわけじゃないんだ……とても美しいし、性格だっていい。結婚して妻になってくれたら幸せな未来が待っているだろう」
「では、どうして!?」
「その……彼女には僕しかいないんだ。さっきの声聞いたろ?僕が少しいなくなっただけであんなに寂しがって……はは……本当参っちゃうよ」
そう嬉しそうに話すワイマール。
「だから、申し訳ないけど、僕とは婚約破棄してほしい。頼むよ」
「……分かりました」
悲しみで上手く頭が追いついてこず、気づいたら私はそう答えていた。
「エマ、本当にごめんね。じゃあ、僕はこれから彼女と……い、いや!ちょっと用事があるから!!……」
そう言って彼は足早に立ち去ってしまった。
「嘘……だったらいいのにな……」
私は一人取り残され、静かに呟いた。
家に帰ると、私はふらつきながら自室へと入った。
「残念だったね」
扉を開けると、老婆が椅子に座り外を見つめていた。
「……いつも私のことを見ているの?」
「まあ、時間がある時はね」
「そう……」
私はそのままベッドに倒れ込む。
「まさかあの男に裏切られるとはねえ……」
「うるさい……」
私は枕に顔を押し付けながら呟く。
「あんたも、もっとしっかりしてればよかったんだよ。ビンタの一つでもしてこれば良かったのに」
「分かってる……」
「それで、これからどうするんだい?」
「分からない。もう……疲れちゃった……」
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