愛は儚く消える

ララ

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第九話

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「では、もう行っていいぞ」 

「はい」 

数日後、俺はついに父の説教地獄から解放された。 
初めは抵抗心などあったものだが、今ではそんなことも考えられなくなっていた。 

ただ単に疲れているだけか……それとも改心したのか……。 
自分でもよく分からないが、とにかく嘘をつく気力はなさそうだ。 

そんなことを考えながら、俺は父の部屋を出て廊下をフラフラと歩いていた。 

……数十歩歩いた時だろうか。 
目の前から俺を呼ぶ声がした。 

「アーサー様!」 

デジャブのような光景に嫌な予感を感じながらも、俺は視線を足元から正面に移す。 
そこには女の使用人の姿があった。 

「アーサー様……ロレーナ様にしたこと、本当なのですか?私はあなたがそんなことをしたとは思えなくて……」 

活舌の良い女の使用人である。 
彼女の右手の薬指には銀色の指輪が光っている。  

「えーと……マリーだっけ?」 

「マリアです!!忘れたんですか?」 

マリア……ああ、あいつか。 
忘れかけていた記憶が蘇ってくる。 

確かこいつは……俺の浮気相手だったっけ。 
まあ、もう関係なんてないけどな。 

「アーサー様、ロレーナ様にしたこと本当なのですか?」 

「ああ、ほんとだよ。俺は嘘をついていたのさ」 

「そんな……」 

マリアが分かりやすく顔を手で覆う。 
きっと俺をそんな人間だとは思わなかったのだろう。 
しかし、何かに気づいたのか、次の瞬間には笑みを見せ始めた。 

「でも、ロレーナ様とは婚約破棄をしたのですよね?でしたら私と一緒になることも可能ですよね?」 

「え?やだよ」 

「え?」 

ついつい本音が出てしまう。 

「だって、お前……そんなにかわいくないじゃん。正直言うと、遊びだったっていうか……まぁ冗談みたいなものだよ、お前との関係は」 

「そんな、ひどい!!!」 

マリアはそう言うと、泣きそうな顔で距離を詰めてきた。 
そしておもむろに右手を後ろに引くと、思い切り俺の頬をビンタした。 
バチィィィィィィンン!!!!! 

「痛いぃぃぃぃ!!!!!!」 

衝撃音とほぼ同時に俺は悲鳴を上げた。 
父のビンタよりも威力が上かもしれない。 

「最低です!!もう私に関わらないでください!!」 

マリアはそう言い残すと、俺の元を去っていった。 

「くそっ……嘘つけばよかったかな……」 

後悔を感じながら、俺は赤く腫れた頬をさすった。 
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