上 下
2 / 14

第二話

しおりを挟む
「見ろ、あれがララか……なんて可愛らしい子なんだ……」 

「綺麗な髪だ……もしや王太子妃様よりも……」 

「あんな子が側妃なんて、王太子殿下が羨ましい」 

ララ・アンドルトの登場は、一瞬で王宮内の男たちの目をくぎ付けにした。 
ララは、いかにも男が好きそうな可愛らしい見た目をしており背も小さいがゆえ、おそらく男性陣は庇護欲のようなものを感じ得るのだろう。 
廊下を歩くララを、男たちは目を見開いてじっと見つめていた。 

私とハンバルには、国王陛下自らがララを紹介してくれた。 
まるで自分の娘のように陛下はララの肩に手をやっていた。 

「二人とも、紹介しよう、彼女がララ・アンドルト。ハンバル、お前の側妃になる女性だ」 

陛下がそう言うと、彼女はさっとカーテシーをする。 

「ハンバル、お前はララとの間に子を作るのだ。分かったな?」 

いつかはこういうこともあるかもしれないと予想はしていたが、現実を突きつけられると辛かった。 
ハンバルが自分以外の女性と一夜を共にし、子を作る。 
彼に好意を抱いてしまった今の私にとっては、こんなにも辛いことはない。 

ハンバルは何か言いたげにしていたが、やがて諦めたように「はい……」と頷いた。 
それを聞いた陛下は嬉しそうに笑う。 

「ふふっ……では彼女の世話は任せたぞ、マーガレット」 

「……かしこまりました」 

感情の籠らない声でそう言うと、陛下は満足そうにその場を去った。 
三人だけになるとララはハンバルの手を握った。 

「ハンバル殿下!お会いできるのをずぅっと楽しみにしておりましたわ!殿下の子を産めるなんて幸福の限りです!」 

「そ、そうなんだ……」 

元気よく、しかし甘い声でそう言ったララに、ハンバルは顔を赤くしていた。 
それを見て私の胸がチクリと痛む。 
ララは私に挨拶をすることもなく続ける。 

「それにしても殿下の御手、温かくて気持ちいいですね……ふふっ……私の手は……どうですか?」 

そう言うとララはハンバルを上目づかいに見やった。 
ハンバルが恥ずかしそうに目を逸らす。 

「き、君の手も温かいよ。き、気持ちいいかな……」 

「それなら良かったです。ふふっ」 

彼女の笑顔にハンバルの頬が緩む。 
私は王太子妃という立場でありながらも、どこか敗北感を感じ暗く俯いた。 
ララはそんな私に目を移すと、落ち着いた声で言った。 

「王太子妃様もよろしくお願いしますね。まだまだ未熟な部分もあるとは思いますが、お手柔らかにお願い致します」 

「え、ええ……」 

彼女の本性が現れたのは、それから少ししてのことだった。 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

【完結】愛していたのに処刑されました。今度は関わりません。

かずきりり
恋愛
「アマリア・レガス伯爵令嬢!其方を王族に毒をもったとして処刑とする!」 いきなりの冤罪を突き立てられ、私の愛していた婚約者は、別の女性と一緒に居る。 貴族としての政略結婚だとしても、私は愛していた。 けれど、貴方は……別の女性といつも居た。 処刑されたと思ったら、何故か時間が巻き戻っている。 ならば……諦める。 前とは違う人生を送って、貴方を好きだという気持ちをも……。 ……そう簡単に、消えないけれど。 --------------------- ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます

かずきりり
恋愛
もう、うんざりだ。 そこに私の意思なんてなくて。 発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。 貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。 善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。 聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。 ————貴方たちに私の声は聞こえていますか? ------------------------------  ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

完結 愛人と名乗る女がいる

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、夫の恋人を名乗る女がやってきて……

処理中です...