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第十八話

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「タリアさん。改めてご卒業おめでとうございます」

私の家の応接間。
目の前に座るタリアは、お菓子を頬張りながら嬉しそうな顔をした。

「この私にかかれば楽勝よ。なんたって名家の……あっ……」

と彼女の言葉が止まる。
数秒の沈黙があって、彼女は言葉を続けた。

「男爵家のタリア様だもの!」

……あの時。
ガラン公爵から放たれた光の玉は、私の魔法によって数倍の威力になって跳ね返された。
公爵はそれをもろにくらい、半年間の入院生活を余儀なくされた。
その間に、娘のタリアは公爵の悪事を告発。
名家のガラン公爵家は爵位を落とされ、当主であるガラン公爵は終身刑となった。

私の隣に座るリチャードがクスリと笑う。

「男爵家なら僕達よりも下ですね」

「そうね」

私も同じように笑みを浮かべると、タリアが悔しそうに口を開いた。

「生意気言うんじゃないわよ!大体ハンナ、私が証言しなかったらあんたは死刑になってた所だったのよ!もっと感謝して欲しいわね!」

「はいはい、ありがとうございます。タリアさん」

公爵の悪事が暴かれたのと同時期。
私の古代魔法使用の罪が追及されていた。
公爵に使った跳ね返しの魔法は正当防衛として通ったが、タイムスリップの方はそうもいかなかった。
国の上層部で、私を死刑にするべきだという声が少なからず上がったのだ。

しかしそんな時、タリアが声を上げた。
私がタイムスリップしたのは、未来の世界での自分によるいじめが原因だと告白し、立派な正当防衛だと主張したのだ。
公爵の悪事を告発した彼女の言葉を上層部は信じ、結果私は無罪となった。

「本当に感謝してるの?」

タリアが訝し気な瞳を私に向ける。

「もちろんですよ!タリアさんがいなかったら私は死刑になっていたんですから!でも……よく私の話を信じてくれましたね。未来の出来事なんて嘘かもしれないのに……」

「ふん、そんなこと?」

呆れたようにタリアが鼻を鳴らす。

「だって……あなたは嘘つかないじゃない。何となく分かってきたわ……あなたのことが」

「そうですか……ありがとうございます」

私は満面の笑みを彼女に向ける。
すると彼女も少し悲し気に微笑み返す。

「……じゃあそろそろ私は帰るわね」

タリアはそう言うと、おもむろに立ち上がった。

「もう帰るんですか?」

私が言うも、彼女は歩を止めない。

「私はあなたたちとは違って忙しいの!リチャードよりもいい男見つけなきゃならないしね!」

堂々と言い放った彼女は、そのまま応接間を出て行ってしまう。

「行っちゃった……」

「まあいいじゃないか」

リチャードがそっと私の手を握る。

「やっと二人きりになれたね」

「リチャード……」

そして私たちはそのまま口づけをかわす。

……唇を離すと、私たちは見つめ合い、微笑んだ。

「愛してるよハンナ。今も、そしてこれからも」

「私もよ、リチャード」

ここから私の幸せは始まる。
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