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第七話

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「カレーナ様、私諦めませんから」 

次の日の朝食。 
突然ローザからそう宣言され、私はフォークに刺したソーセージをぽろりと落とした。 

その言葉を言うだけ言って、その場から去っていくローザ。 
ぼーっとした状態のまま食事に戻るも、やはり味はしない。 
この言葉の意味が分かったのは、ナルサスが家に帰ってきてからだった。 

「ナルサス様、書斎へ行かれるのですか?ご一緒致します」 

「え?いや、いいよ。一人で行けるし」 

「はい、でも二人で行けば道中が楽しくなりますよ。どうか私を話し相手にお使いください」 

「なるほど……確かにそれもそうだな。ありがとう、じゃあ一緒に行こうか」 

二人はそう話すと、隅で話を聞いていた私をよそに廊下を歩いていってしまう。 
慌てて追いかけようとするも、二人が突然本物の恋人同士に見えてしまって、足が止まる。 

双方共に顔が整っているので、私が隣に立つよりも、ローザが立っていた方が単純に絵になる。 

その次の日も、そのまた次の日も、ローザはナルサスに同行するようになった。 

ナルサスもどこか嬉しそうにそれを受け入れている気がする。 
しかし一週間が経った頃、私は我慢の限界がきた。 

「ナルサス……ちょっといいかしら?」 

低い声で私はそう言うと、ナルサスの体がびくっと震える。 

「どうかした?」 

「分からないの?……ローザのこと。最近仲が良いみたいだけど、変な関係になってないよね?」 

「そんな……なるわけないじゃないか!僕は君一筋だよ!」 

「その割には楽しそうに話していたみたいだけど……」 

「それは営業スマイルだよ。仕事でも使う笑顔さ!」 

「本当かしら?」 

疑うようにそう言うと、彼は怒ったように眉間にしわを寄せた。 

「そんなに僕のことが信じられないのかい?」 

「……かもね」 

「そうか、じゃあもういいさ。僕も君のことを信じない。それでいいね!?」 

「ええ、いいわよ」 

初めての喧嘩に私は退けなくなってしまっていた。 
心の中では彼は浮気なんてする人じゃないと分かっているのに、それを素直に伝えることが出来ない。 

むしろ彼のことを悪く言ってしまう。 
きっとナルサスの方も同じことを思っているだろう……そうであってほしい。 
その後も口喧嘩を続けた私たちは、その晩、別々の寝室で寝た。 

興奮して眠れない私の心の内には、不安だけが巣食っている。 
でも、今はナルサスを信じるしかないのだ。 
それ以外に私が出来ることなど何もないのだ。 
 
私は再び訪れる幸せを願い、静かに瞼を閉じた。 
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