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第三話
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それから数日後。
ナルサスが家を訪ねてきた。
「久しぶりだねカレーナ」
幼き日に見た彼の姿とは全く別のものがそこにはあった。
端正に整った顔立ち、すらっと長く伸びた手足、サラサラと綺麗な髪。
私の知らないナルサスがそこには立っていた。
「うん、そうね……」
久しぶりに両親以外の人間と話したので、思わず素っ気ない態度を取ってしまう。
ソファーに座り私たちは話しを始めた。
不思議と両親は傍にいなかった。
「ナルサスは今何してるの?」
「父の会社で働いているんだ。今までは海外で仕事していたんだけど、こっちに戻ってくることになってね」
「そうなんだ」
「うん、それで君の顔が思い浮かんだんだ……ずっと好きだった君の顔が……」
「え?」
突然の告白に私は思わずそれ以上の言葉を返せなくなる。
鼓動が速くなり、体温が高まる。
「子供の時からずっと好きだったんだ。カレーナ、君のことが。僕の婚約者になってくれないかい?」
さらりとそう言われ、私は返答に困ってしまう。
どうすればいいのだろうか……自分で勝手に返答して両親には怒られないだろうか?
そんな思いが頭をよぎる。
長きに渡る両親からの愛に洗脳されたように、私には自分の意志がなかった。
いや、本当はあった。
でもそれを優先してしまえば酷い結果になる……そんな気がしてならないのだ。
しかしナルサスはそんな私の本心を見透かしたように、真剣な目で私を見つめた。
「カレーナ、確かに婚約は不安かもしれない。でも僕が絶対に君のことを幸せにするよ。だから信じてほしい。僕のことを」
「ナルサス……」
優しい言葉に思わず涙が流れ落ちる。
救世主が目の前に現れた、そんな気がした。
「私……私……ね」
そこから私は、今までのことをナルサスに話した。
婚約破棄され悲しみの中家に帰ったこと。
そんな私を両親は異常に管理し、束縛したこと。
今まででため込んでいた辛い感情が涙と共にはきだされた。
ナルサスは黙ってそれを聞いていたが、拳には力が入っているようだった。
全てを話し終えると、ナルサスはそっと私の手を握った。
「もう大丈夫だから、僕がついている。だから……」
そして彼もまた涙を流した。
「もう苦しまなくていいんだ」
その後私とナルサスは婚約した。
両親はナルサスについて家を出る私を、意外にもあっさりと認めてくれた。
地獄の日々が終わり、幸せな日々が私を待っている。
そう確信した。
……しかしそれは間違いであったことを、後々私は知ることとなるのだ。
ナルサスが家を訪ねてきた。
「久しぶりだねカレーナ」
幼き日に見た彼の姿とは全く別のものがそこにはあった。
端正に整った顔立ち、すらっと長く伸びた手足、サラサラと綺麗な髪。
私の知らないナルサスがそこには立っていた。
「うん、そうね……」
久しぶりに両親以外の人間と話したので、思わず素っ気ない態度を取ってしまう。
ソファーに座り私たちは話しを始めた。
不思議と両親は傍にいなかった。
「ナルサスは今何してるの?」
「父の会社で働いているんだ。今までは海外で仕事していたんだけど、こっちに戻ってくることになってね」
「そうなんだ」
「うん、それで君の顔が思い浮かんだんだ……ずっと好きだった君の顔が……」
「え?」
突然の告白に私は思わずそれ以上の言葉を返せなくなる。
鼓動が速くなり、体温が高まる。
「子供の時からずっと好きだったんだ。カレーナ、君のことが。僕の婚約者になってくれないかい?」
さらりとそう言われ、私は返答に困ってしまう。
どうすればいいのだろうか……自分で勝手に返答して両親には怒られないだろうか?
そんな思いが頭をよぎる。
長きに渡る両親からの愛に洗脳されたように、私には自分の意志がなかった。
いや、本当はあった。
でもそれを優先してしまえば酷い結果になる……そんな気がしてならないのだ。
しかしナルサスはそんな私の本心を見透かしたように、真剣な目で私を見つめた。
「カレーナ、確かに婚約は不安かもしれない。でも僕が絶対に君のことを幸せにするよ。だから信じてほしい。僕のことを」
「ナルサス……」
優しい言葉に思わず涙が流れ落ちる。
救世主が目の前に現れた、そんな気がした。
「私……私……ね」
そこから私は、今までのことをナルサスに話した。
婚約破棄され悲しみの中家に帰ったこと。
そんな私を両親は異常に管理し、束縛したこと。
今まででため込んでいた辛い感情が涙と共にはきだされた。
ナルサスは黙ってそれを聞いていたが、拳には力が入っているようだった。
全てを話し終えると、ナルサスはそっと私の手を握った。
「もう大丈夫だから、僕がついている。だから……」
そして彼もまた涙を流した。
「もう苦しまなくていいんだ」
その後私とナルサスは婚約した。
両親はナルサスについて家を出る私を、意外にもあっさりと認めてくれた。
地獄の日々が終わり、幸せな日々が私を待っている。
そう確信した。
……しかしそれは間違いであったことを、後々私は知ることとなるのだ。
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