もう別れましたよね?

ララ

文字の大きさ
上 下
2 / 10

第二話

しおりを挟む
声のした方を見ると、そこには小動物のように背の低い少女……カイラが立っていた。
緊張したように顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。

「グレイブ様!待ってください!」

彼女はそのままグレイブへ歩み寄ると、彼を見上げた。
どうやら嘘をついていたのはグレイブだけのようだ……と思った自分をすぐに後悔する。

「グレイブ様。私がトロいのがいけないのです。マーガレットさんが私をいじめてきたのも私のせいなんです。だからこれ以上彼女を責めないであげてください」

おそらくこの場で一番私が混乱しているだろう。
味方だと思ったカイラが敵だった……彼女を一瞬でも信じてしまった自分を恥じる。

「しかしカイラ!君は辛い思いをしたじゃないか!土下座の一つもさせなければ報われない!」

「きっとマーガレットさんには人を傷つけてしまう程の辛い何かがあったのです。だからお互い様です。争いは何も生みません。私はマーガレットさんを許してあげたいのです」

「カイラ……」

何だこれ。
私は一体なぜこんな茶番を見せられているのか。

しかし観客たちは既に二人の物語に引き込まれているようで、残念なことに涙まで流す者までいた。

「だからグレイブ様。罰は与えなくても良いのです。私はグレイブ様がいればそれで十分ですから……」

え!?と観客が声を上げる。
私も同感だ。

グレイブは周囲に目を配った後、一際大きな声で言った。

「ここにいるカイラは聡明で優しい女性だ。俺にはもったいないくらい素敵な女性だ……。どうか皆の許可を得たい……カイラと俺が新たに婚約を結ぶことを!」

「もちろんだ!」
「きゃぁ!素敵!」

はい?
衝撃の展開に頭がクラクラする。
グレイブは婚約破棄だけじゃなくて、カイラと浮気までしていたということ?

観客の賛同を得て、二人は恥ずかしそうに手をつなぐ。
無論恋人繋ぎだ。
グレイブはおもむろに私に目を移し、淡々と言った。

「マーガレット。お前の行いは残虐非道だ。だが、カイラはお前を許すといった。だから俺もお前を許そう」

「いや、私は……」

言葉が上手く出てこない。

「婚約は破棄とするが、土下座はしなくていい。命拾いしたなマーガレット」

隣に立つカイラが悲しそうな瞳を私に向ける。

「マーガレットさん。本当に残念です。今回のことをしっかり反省して今後につなげてください」

彼女の言葉が上手く頭に入ってこない。
ふと気づくと、周囲の人の視線が私に集まっている。
汚物を見るような目がたくさんあった。

「わ、私は……」

急な絶望感に苛まれた私は、その場から逃げ出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を受け入れたはずなのに

おこめ
恋愛
王子から告げられた婚約破棄。 私に落ち度はないと言われ、他に好きな方が出来たのかと受け入れると…… ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

婚約者マウントを取ってくる幼馴染の話をしぶしぶ聞いていたら、あることに気が付いてしまいました 

柚木ゆず
恋愛
「ベルティーユ、こうして会うのは3年ぶりかしらっ。ねえ、聞いてくださいまし! わたくし一昨日、隣国の次期侯爵様と婚約しましたのっ!」  久しぶりにお屋敷にやって来た、幼馴染の子爵令嬢レリア。彼女は婚約者を自慢をするためにわざわざ来て、私も婚約をしていると知ったら更に酷いことになってしまう。  自分の婚約者の方がお金持ちだから偉いだとか、自分のエンゲージリングの方が高価だとか。外で口にしてしまえば大問題になる発言を平気で行い、私は幼馴染だから我慢をして聞いていた。  ――でも――。そうしていたら、あることに気が付いた。  レリアの婚約者様一家が経営されているという、ルナレーズ商会。そちらって、確か――

婚約破棄されました。あとは知りません

天羽 尤
恋愛
聖ラクレット皇国は1000年の建国の時を迎えていた。 皇国はユーロ教という宗教を国教としており、ユーロ教は魔力含有量を特に秀でた者を巫女として、唯一神であるユーロの従者として大切に扱っていた。 聖ラクレット王国 第一子 クズレットは婚約発表の席でとんでもない事を告げたのだった。 「ラクレット王国 王太子 クズレットの名の下に 巫女:アコク レイン を国外追放とし、婚約を破棄する」 その時… ---------------------- 初めての婚約破棄ざまぁものです。 --------------------------- お気に入り登録200突破ありがとうございます。 ------------------------------- 【著作者:天羽尤】【無断転載禁止】【以下のサイトでのみ掲載を認めます。これ以外は無断転載です〔小説家になろう/カクヨム/アルファポリス/マグネット〕】

婚約破棄?ああ、どうぞご自由に。

柚木ゆきこ
恋愛
 公爵家子息により急に始まる婚約破棄宣言。その宣言を突きつけた令嬢は婚約者ではなく、なんと別人だった。そんなちぐはぐな婚約破棄宣言を経て、最終的に全てを手に入れたのは誰なのか‥‥ *ざまぁは少なめ。それでもよければどうぞ!

婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります

柚木ゆず
恋愛
 婚約者様へ。  昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。  そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?

【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。

はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。 周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。 婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。 ただ、美しいのはその見た目だけ。 心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。 本来の私の姿で…… 前編、中編、後編の短編です。

全部未遂に終わって、王太子殿下がけちょんけちょんに叱られていますわ。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に仕立て上げられそうだった女性が、目の前でけちょんけちょんに叱られる婚約者を見つめているだけのお話です。 国王陛下は主人公の婚約者である実の息子をけちょんけちょんに叱ります。主人公の婚約者は相応の対応をされます。 小説家になろう様でも投稿しています。

わたしの浮気相手を名乗る方が婚約者の前で暴露を始めましたが、その方とは初対面です

柚木ゆず
恋愛
「アルマ様っ、どうしてその男と手を繋いでいらっしゃるのですか!? 『婚約者とは別れる』、そう約束してくださったのに!!」  それは伯爵令嬢アルマが、ライアリル伯爵家の嫡男カミーユと――最愛の婚約者と1か月半ぶりに再会し、デートを行っていた時のことでした。突然隣国の子爵令息マルセルが現れ、唖然となりながら怒り始めたのでした。  そして――。  話が違うじゃないですか! 嘘を吐いたのですか!? 俺を裏切ったのですか!? と叫び、カミーユの前でアルマを追及してゆくのでした。  アルマは一切浮気をしておらず、そもそもアルマとマルセルはこれまで面識がなかったにもかかわらず――。

処理中です...