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第三話
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食堂からナイフをこっそり取って、私はロマーヌの部屋に向かった。
音を立てないように慎重に歩く。
微かな物音がするたびに私はピタリと止まった。
心臓の音は急激に跳ね上がっていた。
何とかロマーヌの部屋の前まで来ると、ドアノブに恐る恐る手をかける。
ゆっくりとドアを開け中に入ると、ロマーヌはベッドの上で熟睡していた。
カーテンを開けっぱなしにしていて、月光が彼女の顔を照らしていた。
好都合だわ。
私は引きつった笑みを浮かべると、彼女に一歩また一歩と近づいていった。
一瞬月に雲がかかりロマーヌの顔に影を落としたが、すぐにまた月光が照らす。
それが二回程繰り返された時には、私は彼女の喉にナイフを近づけていた。
「はぁ……はぁ……やるのよ……この地獄を終わらせなきゃ……」
その時になって急に緊張感に襲われた。
全身が熱くなり、ナイフを持つ手が震える。
この手をあと少しだけ近づけて、思いっきり引けばいいだけ。
そう考えるものの、ナイフの移動する早さはとてもゆっくりだった。
「大丈夫……大丈夫だか……」
瞬間、私の言葉は止まった。
ロマーヌの目がゆっくりと開いたのだ。
「ん?プリシラぁ?なにやって……」
「う、うわぁぁぁぁ!!!」
完全にパニックになった私は、ナイフを彼女の喉に走らせた。
「ちょ、あっ……!!!!」
彼女は短い叫びを上げた後、動かなくなった。
まだ生きているが虫の息といった様子で、瞼が僅かに動いているだけだ。
「や、やった……」
私は何歩か後ずさりをすると、カランとナイフを床に落とした。
計画ではナイフは持ち帰る予定だったが、そんなことは頭になかった。
今すぐにここから立ち去らなくては……私は部屋の扉へと体を向け歩きだす。
「やったの……これで……幸せ……え?」
背中に痛みを感じ、私は振り返った。
そこには、虚ろな目で私にナイフを突き刺すロマーヌの姿があった。
「このクソガキが……こ、この私に……」
そこまで言って、ロマーヌは膝から崩れ落ちた。
そして次の瞬間、私も意識を失った。
「プリシラ。まだ寝ているのかい?応接間に来てくれ。君に紹介したい人がいるんだ」
……え?
父の声で目覚めた私は、ただ呆然としていた。
私は確かにあの時、ロマーヌに刺されて死んだはず……。
しかし私は自室のベッドで眠っていて、窓からは清々しい程の陽光が入ってきていた。
「プリシラ?入るぞ」
「い、今行くから!」
私が慌てたようにそう言うと、父は「早くしろよ」と去っていった。
何だか不思議な気分だった。
もしかしてあれは全部夢だったのだろうか。
そう思ってしまうほどに、現実味がなかった。
手早く支度をして、応接間に向かう。
思えばロマーヌとアンヌが家にやって来た時も、まさにこんな感じだった。
しかし、今とは違い期待をしてしまっていた。
一呼吸入れて、私は応接間の扉を開けた。
そこにはロマーヌとアンヌ、そして父の姿があった。
父は私に笑顔を向けながら言った。
「プリシラ。紹介するよ。今日から君の母になるロマーヌと娘のアンヌだ。これからは四人で家族だ」
「……は?」
音を立てないように慎重に歩く。
微かな物音がするたびに私はピタリと止まった。
心臓の音は急激に跳ね上がっていた。
何とかロマーヌの部屋の前まで来ると、ドアノブに恐る恐る手をかける。
ゆっくりとドアを開け中に入ると、ロマーヌはベッドの上で熟睡していた。
カーテンを開けっぱなしにしていて、月光が彼女の顔を照らしていた。
好都合だわ。
私は引きつった笑みを浮かべると、彼女に一歩また一歩と近づいていった。
一瞬月に雲がかかりロマーヌの顔に影を落としたが、すぐにまた月光が照らす。
それが二回程繰り返された時には、私は彼女の喉にナイフを近づけていた。
「はぁ……はぁ……やるのよ……この地獄を終わらせなきゃ……」
その時になって急に緊張感に襲われた。
全身が熱くなり、ナイフを持つ手が震える。
この手をあと少しだけ近づけて、思いっきり引けばいいだけ。
そう考えるものの、ナイフの移動する早さはとてもゆっくりだった。
「大丈夫……大丈夫だか……」
瞬間、私の言葉は止まった。
ロマーヌの目がゆっくりと開いたのだ。
「ん?プリシラぁ?なにやって……」
「う、うわぁぁぁぁ!!!」
完全にパニックになった私は、ナイフを彼女の喉に走らせた。
「ちょ、あっ……!!!!」
彼女は短い叫びを上げた後、動かなくなった。
まだ生きているが虫の息といった様子で、瞼が僅かに動いているだけだ。
「や、やった……」
私は何歩か後ずさりをすると、カランとナイフを床に落とした。
計画ではナイフは持ち帰る予定だったが、そんなことは頭になかった。
今すぐにここから立ち去らなくては……私は部屋の扉へと体を向け歩きだす。
「やったの……これで……幸せ……え?」
背中に痛みを感じ、私は振り返った。
そこには、虚ろな目で私にナイフを突き刺すロマーヌの姿があった。
「このクソガキが……こ、この私に……」
そこまで言って、ロマーヌは膝から崩れ落ちた。
そして次の瞬間、私も意識を失った。
「プリシラ。まだ寝ているのかい?応接間に来てくれ。君に紹介したい人がいるんだ」
……え?
父の声で目覚めた私は、ただ呆然としていた。
私は確かにあの時、ロマーヌに刺されて死んだはず……。
しかし私は自室のベッドで眠っていて、窓からは清々しい程の陽光が入ってきていた。
「プリシラ?入るぞ」
「い、今行くから!」
私が慌てたようにそう言うと、父は「早くしろよ」と去っていった。
何だか不思議な気分だった。
もしかしてあれは全部夢だったのだろうか。
そう思ってしまうほどに、現実味がなかった。
手早く支度をして、応接間に向かう。
思えばロマーヌとアンヌが家にやって来た時も、まさにこんな感じだった。
しかし、今とは違い期待をしてしまっていた。
一呼吸入れて、私は応接間の扉を開けた。
そこにはロマーヌとアンヌ、そして父の姿があった。
父は私に笑顔を向けながら言った。
「プリシラ。紹介するよ。今日から君の母になるロマーヌと娘のアンヌだ。これからは四人で家族だ」
「……は?」
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