51 / 68
第十九章 首都ウォルデンⅡ Walden
第19-2話「次世代へ」
しおりを挟む『あ゛ッ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛!!!』
カザンの右足が、サー・ハーマンの腹に当たった。
ちぎれている。ヤツの足が。吹き飛んだ?
『か!! カザン!?』
気が付いたら爆発が起こり、地面が抉れて……
千切れたカザンの足が、数メートル離れた俺の元まで吹き飛んだ?
『うわあああああ!! カザンさん!!』
『サー・ハーマン!! どうかご指示を!!』
部下たちがパニックになる。
その部下の脳が、ハーマンの顔面に飛び散った。
『うわあああ!! なんなんだぁあああッ!!』
ハーマンは動揺し、部下たちは更に錯乱した。
『ああああ!! どうなってる!』
『し、死んでやがるぞおおお!!』
『逃げろ! 逃げろ!』
『待て!! 撤退するな!』
サー・ハーマンは叫びながら、状況を理解しようとする。
たしかさっき、別の破裂音がどこか遠くからした。
そしてその瞬間、目の前の部下の頭が破裂した――
その耳を裂くような破裂音は、今も鳴り続いている。
『うわああああ!!』
胴体や四肢から、鮮血を飛び散らす部下たち。
なんだ? 撃たれたのか? でも矢なんて刺さっていない。魔法か?
まさか、神の裁きだとでもいうのか。
破裂音が収まってくる。
『サー・ハーマン!! 上です!!!』
顔を上げたハーマンが、丘の上に見たのは、壁だった。
その壁に開いている穴から、かすかに獣人の姿が見える。
『い、いつのまに……!』
獣人どものくせに、壁を建てた、だと?
いや、妙な壁だ。脆そうだ。
でも万が一、あれが石造だとしたら……
あの攻撃も、もし、万が一……
『……獣人のやつら、魔術にでも目覚めたのか?』
この爆発も、見えない矢も、奴らの魔術?
『いや、ありえない』
こいつらはZランクの、神に見捨てられた、ゴミどもだ…!
『撃て!!! あの壁に向かって火を放て!!』
30人のCランクの魔術師たちが、一斉に火を放つ。
ズゴン、と壁に衝突。火花を散らし、煙が上がる。
煙が消える頃、再度壁を見るが。
『ウソだろ! まったく燃えてない。まさか石造!?』
もし石造だとしたら、何年も前から建て始めたというのか。
『伏せろ!! また来てるぞ!!』
サー・ハーマンが叫ぶが、バタバタと周辺の部下たちが倒れていく。
『……くそおおお!! なんなんだこれは!!』
数秒間、その破裂音が続き、再度沈静が。
周囲は死傷者だらけだ。まるで……
『……さ、サタンの力だ。神は獣人を祝福などしない』
なら、悪魔に決まっている。
悪魔の力で、獣人どもが一斉にAランクにでも目覚めたんだ。
ふと、見えてしまう。
『クロスボウだ……!』
壁に開いている穴から、武器らしきものが見えた。
獣人どもは、新型の弓でも持っているのか?
『……だとすれば、あの丘まで登って接近戦に持ち込めば』
ここで無様に帰ってみろ。
どうせネルソン様に殺される。
『丘の上まで駆け上がり、接近戦に持ち込む!! 』
『サー・ハーマン! しかし!!』
『進め!! 恐れるな! 仕留めるんだ!!」
しかし、半数以上の兵士たちが逃げている。
『逃げるな、バカ者――ッ!!』
勝手に撤退している仲間のひとりを、ハーマンは魔術で焼き殺した。
兵たちが止まり、ゾッとする。
『ここで逃げた奴らは、大陸に待つ家族諸共殺す!』
『……サー・ハーマン!?』
『逃げてみろ! 家族を打ち首にしてやる。何世紀後も、獣人どもを恐れた間抜けとして、吟遊詩人にその名を歌わせてやる!』
部下たちの足が、恐怖で震えた。
『進め!! 敵の武器は遠距離のみ!! 近づけば勝てる!!』
うおおおお、と1人、2人。
次第にほぼすべての部下たちが、坂を駆け上がっていく。
だが、ズゴン――と重たい爆発音。
戦闘を走る部下たちの、足が吹き飛ばされる。
『……ああああ!! 足が!!』
『サー!! 無理です! 撤退の命令を!!』
『……な、なにが起こっているんだ』
部下たちは死んでない。
ただ足を失っただけ。死ぬよりも苦しい痛みが襲っているだけ。
『うわあああ!! もうダメだ!!』
『ああああああッ!!』
爆発はさらに続く。
『無理だ! すみません、サー・ハーマン!! 全員、撤退を――』
するんだ、と言う前に、その男の額に穴が開いた。
力なく倒れる。死んでいる。
気づくと、サー・ハーマンは、太ももが焼けるように熱いのに気づきーー
『ぬわああああああ!!』
ハーマンは叫んだ。
何かが、太ももに刺さった。
骨を砕き、中に小さい物が埋まっている。
たまらず彼は叫ぶ。
『ああああ!! 撤退だ! 撤退!!!』
叫びながら、ハーマンは右足を引きずりながら撤退していく。
周囲を見ると、部隊の半分は、すでに死亡か負傷をしていた。
(……し、失敗した)
獣人たちに何かが起こった。
異変を感じた時から撤退していれば、被害は最小限で済んだのに……
◇
駐屯地にまで戻ってきた。
上陸後、すぐにトイレ用の穴を掘らせ、キャンプを立てていた場所だ。
だが部下たちはこの場所を素通りして、海へ向かう。
『ま、待てお前ら……!』
右足を引きずりながら、必死にサー・ハーマンは部下たちを止めようとする。
『おい待て!!』
止まれ! 俺を乗せろ!
そう思うが、兵たちは遠慮なく出航していた。
1隻は既に海の遥か向こうへ。もう1隻は出発中。
最後の1隻は……
『待て、俺を残すな!!』
『おい、サー・ハーマンがいるぞ!』
『出航停止!! サー・ハーマンが乗るまで待つんだ!』
助かった。ハーマンは神に感謝した。
そうだよな。Bランクの俺が、こんなところで死ぬわけがない。
こんなクソどもの島で、最期を迎えるわけがない。
左足から、血しぶきが上がった。
『ああああああ!!』
燃え上がるような痛み。
追いかけてきやがった。あの獣人ども!
徹底的に始末しにきやがった。
『ああああ!! 待て!!!』
獣人兵たちに背後から抑えられ、魔術を使えないように手を縛られた。
その様子を見て、最後の船は出航しようとする。
だが、その前に――
『あ、ああああ……!!』
人の獣人兵たちが乗り込み、何かを船内に投げ込む。
船から煙が出ている。なんだあれは。
次第に破裂音が続き、そして静かになった。
『まさかあいつら、船を奪いやがったのか……?』
もう、おしまいだ。
公国も、王国も、こんなやつらが上陸したら……
ハーマンは捕虜となっていた。
その他無数の、彼の部下たちと一緒に。
戦況
共和国 死没者0人 負傷者4人
公国 死没者56人 負傷者(捕虜)63人 逃亡 87人
1
お気に入りに追加
1,340
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる