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オーディオブック(フルボイス)

【オーディオブック版】第1-1話「未開の領域」

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 エアルドネル戦記、第1-1話(いちてんいちわ)
 未開の領域[ナレ]



 最初に、白人の幼女が刺される。

『い゛や゛あ゛あ゛ッ!!  マ゛マ゛!!』[幼女]

 司祭が裸体の肋骨を広げ、心臓を抜いて、天に掲げた。 
 小さな遺体が祭壇から捨てられる。
 すぐに兵士たちが歓声をあげた。

「……え?」[早苗]

 目の前には10人。
 縄で繋がれた全裸の白人、黒人、アジア人たちが一列に。

「……あれ、僕は」

 トラックに轢かれて死んだはず。

 ここはどこだ? 
 意識がハッキリして、周囲の光景が鮮明になる。

(……辺りは草原)[早苗]

 周囲を中世風の身なりの兵士たちが囲っていた。
 その背後には騎兵たち。

 なんて思っている間にも、次の黒人が命乞いをした。
 
『糞ファッキン野郎!やめろ!ファァァック!!』[黒人男40代]

 みぞおちに、ナイフが突き刺さる。
 心臓を抜かれた男は悲鳴をあげ、痙攣したあと、絶命した。

 ああ、何が起こっている。
 まずは状況整理だ。
 
(……僕は学者。目が覚めると、この儀式の現場にいる)[早苗]
 
 生贄だろうか。全裸で、なおかつ手を縄で縛られている。
 逃げ隠れる場所は――背後に森林がある。
 距離はおよそ600メートル。僕は走るのが遅いから時速10キロ――3分36秒か。
 
(……ダメだ。騎兵に追いつかれる)[早苗]
 
 そもそも、まず縄を解かないと。
 見ると、次はアジア系の女性が処刑台に。
 
『誰か!! 死にたくない!!!』[女性20代]

 彼女も心臓を引き抜かれ、目の前の生贄はあと7人に。
 理由は分からない……
 だが、様々な人種の人たちが、ここで処刑されている。
 
『痛てぇよ! 助けてくれ!!』[男性50代]

 あと6人。インド系の男が絶命した。
 
(そもそも、これは何の儀式だ。あの司祭は?)
 
 兵士たちの言葉に耳を傾ける――
 
『ああ、神よ。この生贄で街を呪いから救いたまえ』[男30代]
 
 兵士たちは、英語を話していた。
 ただし16世紀あたり、ルネサンス時代の英語。
 
(……呪い。病気のことか)
 でもこの生贄で病を治す儀式は、古典時代の物のハズ。

 時代がバラバラだ。
 映画の撮影? ではない。改変された過去に戻った?
 ふと、目の前の大柄な白人男性に、小声で聞かれる。
 
『あんた、英語は?』[大柄男性(以降、青年)]

 『話せる』と答える。 

『よし。このままじゃダメだ。なにか行動を起こさないと』[青年]
 
(……現代のアメリカ英語だ)[早苗]
 マイアミ州のスラング。フロリダなまりもある。同じ現代人であろう。
 
『オレの縄を解いてくれ。その後、オレもオマエを解く』
『わかった』

 ちょうどいい。他人の縄を解く方が簡単だ。
 静かに結び目を凝視する。

(この結び目。縄を折り返して輪に。つまり……)
  
 周囲を見るが、兵士たちの視線は祭壇に集まっている。
 背を向けて、男の縄を押し込む。
 すぐに縄は緩くなった。

『……はやっ! ナイスだ、すごいな! 次はオマエの縄を……』[青年]

 だが、その時間はない。
 鎧を着た兵士が寄ってくる。
 残りはあと1人。次はこの目の前の白人が、殺される番のようだ。
 
『オレはマックス。恩を返す。オマエは逃げろ』[青年(以降、マックス)]
『……何をする気だ?』
 
 マックスが祭壇に連れていかれる。
 だが隙を見て彼は、握っていた縄を捨て、渾身の力で兵士を殴り倒した。
 
『来いよ、キタねぇファック野郎ども!』
 
 続けて、別の兵士を蹴りつける。
 同時だろうか。
 兵士の1人が咄嗟に近寄り、剣で縄を切ってくれる。
 
「逃げなさい!」[女性20代]
 日本語だった。女の声。誰だ。
 
(――いや時間がない)
 兵士たちの注意がマックスに。
 
『――マックス!』
 
 だが彼は、すでに囲まれている。
 心臓が警鐘のように鳴りだす。
 猛烈に走り、逃げだしていた――
 
 ◇
 
「ハァ……ハァ……」
 
 道幅が狭い森林の中で、息を整える。
 追っ手は見当たらない。馬はここでは速度を出せないだろう。

(……なんだこの世界は。それにさっきの日本語の女は?)

 周囲の木の幹は異様に太く、背が低い。地球では見たことがない種だ。
 次第に森を抜ける。
 細長い、おとぎ話に出るような中世式の畑が。

 ふと――
 
「……村か」
 
 いくらか歩いた先に、半壊した村が。
 ほとんどの家は、ただの掘っ立て小屋だ。ちいさくて汚い、麦わらとボロ木材の小屋。
 中世初期のヨーロッパのように見える。

(……荒れ放題でひとけがない)

 見ると、手足を切断された亡骸が、木に吊るされている。
 この世界は、恐怖で民衆を支配しているのか。

「……皮の靴だ」 
 村の中心に、先程の兵たちにより略奪されたのか、戦利品が集められている。
 衣類もある。チュニック、中世の膝まである服だ。
 すぐに着替える、が……

「……着た瞬間、痒いな」

 生地の織りが太く粗い。だが、全裸よりはマシだ。
 他に何かないか探していると――

「――っ!!」
 
 ケモミミの女の子が、民家の柱に、鎖で結ばれていた。
 茶色のミディアムヘアと、髪と同じブラウンの垂れた犬耳。そしてボロ布一枚の服。
 彼女も戦利品の一つのように見えた。
 
(……まて、ケモミミ?)[早苗]

 ありえない。
 まさか、この世界は……
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