6 / 68
第二章 エアルドネル Ealdor Nere
第2-3話「もう会えないかと思った」
しおりを挟む『Voglio fare l'amore con te adesso.』
(ねぇ、しちゃおっか)
ノエミのドレスの胸元は、大きく開いている。
彼女に、服を脱がされそうになる、その時――
『案内ありがとう。出て行ってくれ』
ドアを開けて、触れないようにノエミを外に追い出す。
『ええ、ひどくなーい?』
『僕は触られると気持ちが悪くなるんだ』
そのままドアを閉める。ドア越しから声が聞こえてきた。
『どうして! いいじゃん! 中世の人じゃなくて、同じ世界から来たハンサムと結ばれたいのに!!』
『……無理だ。恋人がいる』
だが声が小さかったのか、ノエミは聞いてない。
と、ドア越しにカーミットの声。
『アレ、ノエミ。フラれたんです?』
『うわーん、カーミット! そうなの。女に触られたくないって』
ゲイなのかな? とドア越しに言われる。
違う。そうじゃない。
しばらく待つと、声が遠ざかった。
「……はぁ」
気を取り直し、室内を見渡すが、薄暗い。
見ると、ベッドシーツは汚い。何年も洗われてないとわかるほど。
だが少なくとも、寝所は木枠で高くした、ちゃんとしたベッドだ。
「この世界にまともな医療はない」
けど伝染病は蔓延している。病気になったらゲームオーバーだ。
その前に近代文明を……
ブツブツ言う。そしてクローゼットの中の、ケルトのブローチローブを羽織った。
◇
『さぁ、フィーストの時間だよ♪』
ノエミに案内され1階のホールに入る。
そこには20人ほどの人がいた。歌う吟遊詩人、踊る道化師。
ノエミが奥のテーブル、つまり上席に手のひらを向ける。
『あれが、王妃のゴルディ殿下☆ その隣が第一王子のオズソン様と、第二王子のオズウィン様』
王妃は、銀髪のショートヘアで、面布で目元を隠している。
12歳と5歳らしい、隣の王子たちも、あきらかに高価そうな服に身を包んでいる。
『ジーザス。あれは絶対に美人だぜ』
マックスがなにやら、面布の先にタイプの女性を想像している。
その時……
王妃がじっと、マックスを見つめている気がした。
すぐに全員で、彼女に一礼をする。
『勇者様方、よく参られました。右側の席をどうぞ』
と王妃に言われ、奥の上席に着く。
ふと、王妃の後ろ。背丈の高い騎士が視線に入った。
『サナエサン、あれは騎士長のウィルフレッド。いい人ですよ』
言いながら、豚肉を避けるカーミット。
見ると、隣のララは泣いていた。
「う、ううう……おいじい……! スパイスがこんなに一杯……村ではずっと、ゴミを食べさせられていた。特別な日でも豆のスープだケ……」
「なら、たくさん食べたほうがいい」
ララの皿に高価そうな料理を置く。
喉が渇いたので、一瞬水を口に含んだが、すさまじく不味くて臭い。
すぐにワインに切り替えた。
と、5歳の王子と、王妃の会話が。
『お母さま、明日の夜、勇者様たちのランクが決まるんでしょ?』
『そうよ。勇者様たちは、この国にとって大切な人たちなの』
王妃は優しい声でそう、会話を続けていた。
(……カーミットの言う通り、か)
この感じなら聖痕無しがバレても、大丈夫そうだ。
念のため小鳥、スズメ――だろうか。
小さな鳥肉の食べ残しを、懐に入れた。
◇
「……さてと」
食事の後、ランプを手に城の厩舎に入った。
馬だけでなく、フィースト用の鶏も飼われている。
「……よし」
鶏のあるものを拾ったあと、城に戻る。
廊下を歩く早苗は、ふと――
「……早苗」
廊下で心菜に会った。
寝間着だろうか、チュニック一枚の彼女は機嫌がよさそう。
「……心菜。ずっと話したかったよ」
「ええ。わたしもよ」
儚げに笑う彼女を静かに見る。
変だ。前世での心菜への恋愛感情が、今は湧いてこない。
「気づいた? 前世とは違って、私に恋愛感情ないでしょ?」
「心菜、どういう……」
「私は、もう前世の私じゃないの。あなたもそう。だからこの世界では、ただの知り合いよ」
「………」
「そしてアンタには、果たすべき使命があるでしょ?」
そして彼女は、石の窓の向こうに見える、世界樹に視線を向けた。
「心菜。君は何を知っている? この世界はなんだ? 世界樹は――」
3~5秒ほど、答えを待つが返ってこない。
「とにかく、絶対に死なないで。お互い、前世と同じミスを犯さないように」
それだけ言って、彼女は帰っていく。
意味がわからない。まだ割り切れないが……
しばらく考えていると、誰かが背後から歩いてきた。目を向ける。
「さ、早苗さま……」
「ララ。聞いていたの?」
うん、という少女。
「まぁ、僕は嫌われやすいみたいでね」
「そ、そんなことないヨ!」
ララは何かを言いかけて、でも言葉を飲んだ。
まぁ、とにかく……
「お腹すいた? 何か食べよう。最後の晩餐になる可能性もある」
「……え? うン」
言って、キッチンに勝手に入っていく。酷い汚臭がする調理場だ。
残り物の肉やらがあるので、これまた勝手に頂く。
「……早苗さま? なにをやってるノ?」
「ん?」
何も言わず、早苗は小麦粉を炒めていた。しかも大量に。
その後、何故か木炭の灰と、ランプのオイルを投入していた。
さらには……
「……えええ!? それ、入れるの? 食べ物じゃないけド」
肉を食べる手を止めるララ。
「ねぇ、ララ。やってほしいことがあるんだけど」
うん、と言う少女。
その後、夜食を食べた2人は、それぞれ自分の部屋に戻っていった。
同じぐらいのタイミングだろうか――
『……ネェ、ウィル。お願いだから』
暗い城の廊下で、カーミットが言う。
フィーストの時、王妃の後ろにいた騎士長――ウィルフレッドと密談をしていた。
早苗はその内容を、知るはずもなかった。
2
お気に入りに追加
1,340
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語
ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態パラダイス✕脱線大暴走ストーリー=166万文字完結÷微妙に癖になる。
変態が、変態のために、変態が送る、変態的な少年のハチャメチャ変態冒険記。
ハクスラとはハックアンドスラッシュの略語である。敵と戦い、どんどんレベルアップを果たし、更に強い敵と戦いながら、より良いマジックアイテムを発掘するゲームのことを指す。
タイトルのままの世界で奮闘しながらも冒険を楽しむ少年のストーリーです。(タイトルに一部偽りアリ)
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる