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第二章 エアルドネル Ealdor Nere

第2-3話「もう会えないかと思った」

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『Voglio fare l'amore con te adesso.』
(ねぇ、しちゃおっか)


 ノエミのドレスの胸元は、大きく開いている。
 彼女に、服を脱がされそうになる、その時――
 
『案内ありがとう。出て行ってくれ』

 ドアを開けて、触れないようにノエミを外に追い出す。
 
『ええ、ひどくなーい?』
『僕は触られると気持ちが悪くなるんだ』

 そのままドアを閉める。ドア越しから声が聞こえてきた。

『どうして! いいじゃん! 中世の人じゃなくて、同じ世界から来たハンサムと結ばれたいのに!!』 
『……無理だ。恋人がいる』

 だが声が小さかったのか、ノエミは聞いてない。
 と、ドア越しにカーミットの声。

『アレ、ノエミ。フラれたんです?』
『うわーん、カーミット! そうなの。女に触られたくないって』

 ゲイなのかな? とドア越しに言われる。
 違う。そうじゃない。
 しばらく待つと、声が遠ざかった。

「……はぁ」

 気を取り直し、室内を見渡すが、薄暗い。
 見ると、ベッドシーツは汚い。何年も洗われてないとわかるほど。
 だが少なくとも、寝所は木枠で高くした、ちゃんとしたベッドだ。

「この世界にまともな医療はない」

 けど伝染病は蔓延している。病気になったらゲームオーバーだ。
 その前に近代文明を……
 ブツブツ言う。そしてクローゼットの中の、ケルトのブローチローブを羽織った。 


 
『さぁ、フィーストの時間だよ♪』

 ノエミに案内され1階のホールに入る。
 そこには20人ほどの人がいた。歌う吟遊詩人、踊る道化師。
 ノエミが奥のテーブル、つまり上席に手のひらを向ける。
 
『あれが、王妃のゴルディ殿下☆ その隣が第一王子のオズソン様と、第二王子のオズウィン様』

 王妃は、銀髪のショートヘアで、面布で目元を隠している。
 12歳と5歳らしい、隣の王子たちも、あきらかに高価そうな服に身を包んでいる。





『ジーザス。あれは絶対に美人だぜ』

 マックスがなにやら、面布の先にタイプの女性を想像している。
 その時……

 王妃がじっと、マックスを見つめている気がした。
 すぐに全員で、彼女に一礼をする。
 
『勇者様方、よく参られました。右側の席をどうぞ』

 と王妃に言われ、奥の上席に着く。
 ふと、王妃の後ろ。背丈の高い騎士が視線に入った。
 
『サナエサン、あれは騎士長のウィルフレッド。いい人ですよ』

 言いながら、豚肉を避けるカーミット。
 見ると、隣のララは泣いていた。
 
「う、ううう……おいじい……! スパイスがこんなに一杯……村ではずっと、ゴミを食べさせられていた。特別な日でも豆のスープだケ……」
「なら、たくさん食べたほうがいい」

 ララの皿に高価そうな料理を置く。
 喉が渇いたので、一瞬水を口に含んだが、すさまじく不味くて臭い。
 すぐにワインに切り替えた。

 と、5歳の王子と、王妃の会話が。

 『お母さま、明日の夜、勇者様たちのランクが決まるんでしょ?』
『そうよ。勇者様たちは、この国にとって大切な人たちなの』

 王妃は優しい声でそう、会話を続けていた。
 
(……カーミットの言う通り、か)

 この感じなら聖痕無しがバレても、大丈夫そうだ。
  
 念のため小鳥、スズメ――だろうか。
 小さな鳥肉の食べ残しを、懐に入れた。

 ◇
 
「……さてと」

 食事の後、ランプを手に城の厩舎に入った。  
 馬だけでなく、フィースト用の鶏も飼われている。

「……よし」

 鶏のあるものを拾ったあと、城に戻る。
 廊下を歩く早苗は、ふと――
 
「……早苗」

 廊下で心菜に会った。
 寝間着だろうか、チュニック一枚の彼女は機嫌がよさそう。
 
「……心菜。ずっと話したかったよ」
「ええ。わたしもよ」

 儚げに笑う彼女を静かに見る。
 変だ。前世での心菜への恋愛感情が、今は湧いてこない。

「気づいた? 前世とは違って、私に恋愛感情ないでしょ?」
「心菜、どういう……」
「私は、もう前世の私じゃないの。あなたもそう。だからこの世界では、ただの知り合いよ」
「………」
「そしてアンタには、果たすべき使命があるでしょ?」

 そして彼女は、石の窓の向こうに見える、世界樹に視線を向けた。
 
「心菜。君は何を知っている? この世界はなんだ? 世界樹は――」
 
 3~5秒ほど、答えを待つが返ってこない。

 「とにかく、絶対に死なないで。お互い、前世と同じミスを犯さないように」





 それだけ言って、彼女は帰っていく。
 意味がわからない。まだ割り切れないが……
 しばらく考えていると、誰かが背後から歩いてきた。目を向ける。
 
「さ、早苗さま……」
「ララ。聞いていたの?」

 うん、という少女。
 
「まぁ、僕は嫌われやすいみたいでね」
「そ、そんなことないヨ!」

 ララは何かを言いかけて、でも言葉を飲んだ。
 まぁ、とにかく……

「お腹すいた? 何か食べよう。最後の晩餐になる可能性もある」
「……え? うン」
 
 言って、キッチンに勝手に入っていく。酷い汚臭がする調理場だ。
 残り物の肉やらがあるので、これまた勝手に頂く。

「……早苗さま? なにをやってるノ?」
「ん?」

 何も言わず、早苗は小麦粉を炒めていた。しかも大量に。
 その後、何故か木炭の灰と、ランプのオイルを投入していた。
 さらには……

「……えええ!? それ、入れるの? 食べ物じゃないけド」

 肉を食べる手を止めるララ。

「ねぇ、ララ。やってほしいことがあるんだけど」

 うん、と言う少女。
 その後、夜食を食べた2人は、それぞれ自分の部屋に戻っていった。

 同じぐらいのタイミングだろうか――
 
『……ネェ、ウィル。お願いだから』

 暗い城の廊下で、カーミットが言う。
 フィーストの時、王妃の後ろにいた騎士長――ウィルフレッドと密談をしていた。

 早苗はその内容を、知るはずもなかった。




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