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ちかく、とおく、ふたりで、いっしょに
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しおりを挟む獣は、冷たく、獰猛だった。
「その手、はずして」
「や、やだぁ……」
自分の口から漏れ出る喘ぎ声に耐えられなくなり、紗江は手を口に当てる。その瞬間、冷たい声が聞こえる。まるで氷水を浴びせられたようだった。
震える声で、怒っているのかと聞けば、すこし、と返ってきた。自分のした事を考えれば当たり前だと紗江は思った。
「怒らないわけないよね?」
「あ、ふ……っ、ごめ、な……っぅうっ!」
ショーツもブラジャーも外され、紗江は一人、素肌を晒していた。反対に彰人は衣服の乱れはない。全てを脱がされ、生ぬるいエアコンの風が素肌を刺激する。素肌には少し冷たい風のせいか、全身が粟立った。しかし、彰人の執拗な愛撫が始まり、そう感じたのは一瞬だった。
柔らかな膨らみと、その頂に飾られたピンク色の蕾が、彰人の冷たい手で形が変わるほど捏ねられる。小さかった紗江の嬌声がどんどん大きくなった。先端を責められた時、紗江の声がより一層高くなる。それを彰人は見逃さなかった。
「っ!ひぃあっ!」
前触れもなく、蕾が彰人に吸われる。舌で蕾を転がされ、紗江の堪え切れない声が部屋に響く。時折甘噛みされ、紗江はまた喘ぐ。
一人だけ乱され、孤独を感じた紗江は、彰人のニットに縋る。
「どうしたの?」
一人だけでは寂しい。と震える紗江の手が語る。紗江の問いかけに、彰人はうっすらと笑みを浮かべた。紗江の考えている事はお見通しと言わんばかりに。
「ん、んぅっ。や、ズル…いっ!」
紗江の敏感な所を知り尽くしている彰人は、胸だけでなく、首筋、鎖骨、腹部に、舌を這わす。そして、愛撫によって濡れた肌に語りかけるように彰人は囁いた。
「紗江、言って?どうしたの?」
ニットを握っていた手が、外される。やんわりとした拒絶に、紗江の瞳から一粒の涙が溢れた。
「や、やだぁ。いかないで!」
震える声と手が、もう一度彰人に縋る。一人では嫌だと訴えれば、紗江の額にキスが落とされた。
「いかないよ」
「っ、いじ、わるだ」
「そうだよ。急に居なくなって、やっと見つけたと思ったら他の男と一緒で。意地悪したくもなるさ」
辛辣な言葉だったが、紗江の涙を掬う唇の動きは優しかった。その優しさが紗江を混乱させる。紗江は小さな声で謝罪する。しかし、返ってきた言葉はまた、冷たいものだった。
「許さない」
「……っ」
「今日は俺の好きにさせてもらう」
冷たい視線と共に、足が持ち上げられる。ぺろり、と舌舐めずりをする彰人の視線は一箇所に注がれていた。その瞬間、紗江は何をされるか理解した。
「やっ!だめ!」
紗江の制止も虚しく、彰人の舌が紗江の潤んだ蜜壺に触れる。その瞬間、紗江の身体にびりびりと快感が駆け巡る。
「……っ!!」
軽く達した紗江に構う事なく彰人の愛撫は続けられた。小さな陰核が、舌で押しつぶされる。その度に、紗江の腰が小さく動く。その反応を見て彰人の愛撫が激しさを増した。
「やっ、ダメっ!あっあぁぁっ!」
「紗江のココ、甘い」
「やっやっんん、んぁっ!ソコでしゃべら……っん!」
溢れ出る蜜を掬い取られる。甘い声とは裏腹に、舌の動きは容赦がなかった。次から次へと溢れ出る蜜を、彰人はわざと音を立てて吸い上げる。それは、紗江の羞恥心を煽った。
相変わらず乱れているのは紗江だけだった。喘ぐのも、縋るのと、涙を流すのも紗江だけだった。彰人の瞳に宿る情欲の他に見え隠れするのは何か。紗江は働かない頭で、考える。身に覚えのある、感情。それは、嫉妬だ。買い物袋を持って歩く、彰人を見たときに、紗江が真っ先に感じた感情。隠せないほどの嫉妬が、彰人の中に見える。
「っあ、あ、あきと、だけ」
か細い声で紗江は言った。その瞬間、彰人の執拗な程に紗江を責めていた舌の動きが止まった。
「あきとだけなの…」
誕生日を祝いたい。笑顔でいてほしい。抱きしめてほしい。一つになりたい。愛してほしい。愛したい。紗江がそう思えるのは彰人だけだった。別の男ではそう思えない。
「いっしょに、気持ちよくなりたい」
「……っ!」
置き去りだった身体に熱が戻ってくる。それに気がついたのは、紗江は苦しいほどの力で彰人に抱きしめられた時だった。そして、直ぐに優しいキスが落ちてくる。先ほど感じていた孤独感はもう無かった。ただ蹂躙されるだけの時間は過ぎ、優しい時間が始まる。紗江はそう思った。優しい舌の動きと、紗江の頭を撫でる大好きな手には、熱が戻っていた。
「ホントに……紗江は、俺を煽るのが上手い」
「彰人さ、」
名前を呼ぼうとすると、彰人の長い人指し指が紗江の唇に触れた。
「『さん』はいらない。さっきみたいに」
あきと、と少し掠れた声で名前を呼ぶ。すると、彰人は笑った。無邪気な子供のように、笑った。
「あきと、一緒に気持ちよくなりたい」
「後悔するなよ?」
大きな身体が離れる。それと同時に、彰人は着ていたニットを脱ぎ捨てた。他のところより、少し白い。けれどもしっかりと鍛えられた身体が紗江の目の前に曝け出された。首元の、日に焼けていない肌の色が変わる部分に、紗江は指を這わす。そんな紗江を彰人は見下ろしていた。
「なぁ」
「……ん?」
甘い声が聞こえる。彰人は眉間に皺を寄せ、紗江に尋ねた。
「どんな顔してるかわかってる?」
「……わからない。教えて」
ぜんぶ、教えて欲しい。そんな思いを込めて、紗江は彰人の身体に触れる。
「俺が欲しくて堪らない。そう言ってる」
いつの間に準備したのか、避妊具を着けた彰人が紗江の足を持ち上げた。二度、三度と潤んだ紗江の蜜壺に陰茎が擦り付けられた。
「ふぁ……っ」
「もう我慢しない」
紗江が少しでも動けば、キスが出来そうな距離で彰人はそう言った。我慢しないで。そう言う前に、彰人は一気に腰を進めてきた。
「あっあぁぁっ!」
「っ……!」
一人では味わえない快感に、紗江は達した。蜜肉が彰人を締め付けたのか、上から小さなうめき声が聞こえる。少しの隙間も許せず、紗江は彰人を抱き寄せる。少し硬い身体だったが、肌の触れ合う部分から、紗江は幸せのぬくもりを感じた。
「あっ、あ!…あき、と!」
「っ、さえ!さえ!」
我慢しないと彰人が言ったことは本当だった。容赦なく蜜壺を掻き回され、紗江は幾度となく達した。嬌声を我慢することもしなかった。肉のぶつかり合う音が嬌声に負けじと部屋に木霊する。どれだけ激しくされようとも、紗江は彰人の全てを受け入れた。
時々、目が合えばどちらからともなく、キスをした。触れるだけの時もあれば、濃厚で、気が遠くなるほど苦しくなるキスもあった。
自然と浮かんだ涙を彰人の唇が掬う。瞼にキスをされ、その心地よさにうっとりしていると、彰人が囁いた。
「しあわせだ」
「……わたしも」
身体を暴かれるような快感が紗江を襲う。遅れて、彰人が小さなうめき声とともに達する。痺れるような快楽とは裏腹に、紗江の心は穏やかだった。
「好きだよ」
「わたしも。大好き」
紗江の頬を撫でる、黒く汚れた大きくて優しい手。今日も変わらないそれに、紗江はキスを落とした。
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