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ちかく、とおく、ふたりで、いっしょに
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しおりを挟む「あ、まって!」
伸し掛かる大きな身体を紗江は押し返す。柔軟剤の香りがするシーツを背にし、紗江は抵抗する。
「やだ」
「……やだって」
彰人の両親との対面はすぐに終わった。紗江が挨拶をした後すぐに、彰人が別棟にある自身の部屋に向かったためだ。
「あんな格好で挨拶だけなんて」
「あの二人は気にしないから大丈夫だ」
「私が気にするの!ん、むっ!」
紗江の抗議は、彰人の唇に飲まれた。すぐに舌を絡め取られ、苦しくなるほどのキスをされた。
「ん、……っ、ん」
歯列や口蓋をなぞられる。彰人は丁寧に紗江の唇、口内を愛撫していく。時折小さく水音を立て、彰人は紗江をゆっくりと快楽の海に沈めた。
熱のこもったキスに充てられたのか、紗江はぼんやりと彰人を見つめる。
「ごめん。やりすぎた?」
「……ううん。大丈夫」
腕を引かれて身体を起こされる。首を横に振り、紗江は笑みを浮かべた。それを見た彰人が、同じように表情を緩めた。
荒い息を整えていくうちに、紗江は周りを見る余裕ができた。
「彰人さんの部屋なの?」
彰人の両親が居た家を一度出て、工場の二階にある部屋。小さなテレビと、彰人が寝るには狭そうなベッド、そして小さなテーブルの上にノートパソコンが一台。随分と殺風景な部屋に思えた。
「あぁ……前は親父と同じとこにいたんだけど、麻子が来たから」
「来たから……?」
「邪魔しちゃ悪いだろ?新婚だし。ここは、前に住み込みで働いていた人の部屋」
そうなんだ、と紗江は呟く。そう言って家族と距離を置く彰人に、何故か紗江か悲しくなってしまった。あり合わせの物しか置かれていない、急拵えの部屋。家族との距離。
「……寂しくないの?」
「うーん……寂しいとか、寂しくないとか。そんなのはもう感じる歳でもないしなぁ。まぁ、慣れたっていうのが正しいかな」
眉を下げ、困ったように彰人は笑う。紗江は、彰人の背中に腕を回す。ぎゅっと力を込め、願う。寂しさに慣れて欲しくなかった。
「私がいる」
「一度逃げた紗江が言うの?」
「もう、逃げないもん」
「どうかな?同情なら、もうたくさんなんだけど」
抱きつく紗江の頭上で、くつくつと笑いながら彰人は言った。どのような表情をしているか確かめるのは憚られた。
「……笑ってて欲しい。それじゃダメ?」
「どういうこと?」
「……彰人さんに、笑ってて欲しいの。彰人さんの笑顔が好きだから」
お日様のような笑顔が好きだ。
「……紗江」
「寂しいことに、慣れないで」
そう言った紗江の声は震えていた。逃げ出した紗江が言えた義理ではない信じてもらうには、もう少し時間が必要なのかもしれない。もう離れないと言わんばかりに、紗江は彰人の服をぎゅっと掴んだ。
「じゃ、証明しないと」
「え?」
「紗江を感じたい」
顎を持ち上げられ、彰人の唇が重ねられる。少しカサついていて、けれども暖かくて優しい。少し垂れ目の瞳が細められ、紗江を見つめている。子犬のような可愛らしさは鳴りを潜め、どう猛な獣が見え隠れする。大きな手が紗江の頬に触れる。最初は遠慮がちだったが、紗江の抵抗が無いと分かると、大胆さを増した。
「ん、っ……ぁっ」
今日は仕事だったため、脱ぎ着のしやすいタータンチェック柄のシャツワンピース。彰人はそのボタンを一つずつはずしていく。時々、紗江の唇にキスを落とすのも忘れなかった。
「そういえば、靴を脱がしてなかったな」
ボタンが半分ほど外されたところで、彰人はそう言った。酸欠になりそうなほどのキスに紗江はその意味がうまく理解できなかった。
上に乗っていた身体が離れる。何事かと思った時には、彰人はベッドを降りていた。そして、紗江の足元に跪く。
「脱がさないと」
そう言って彰人は笑った。いたずらを思いついた子供のように。
「自分で」
「いいよ。動かないで」
大きな手が紗江の足を持ち上げた。ワンピースに合わせて、アンクルストラップのついたパンプス。そして、最初のデートの時に履いていたニーハイストッキング。
壊れ物にでも触れるような彰人の手つきに、紗江は小さく声を漏らした。
パチン、とストラップを外される。ごとん、と床に靴が落ちる音が聞こえる。その音
は、ひどく卑猥に聞こえた。
「……っ!やっぱり自分で!」
身体を起こし、紗江はそう言った。そして、足元に跪く彰人と目が合った。
「今日はダメ」
ニーハイストッキングに覆われたふくらはぎに、彰人はキスを落とし、そう言った。
「ひっ、きた、ないから!」
ストッキング越しに感じる熱に、紗江は慄く。手を伸ばし、制止しようとしたが叶わなかった。彰人はそれよりも先に、紗江の足を持ち上げ、紗江の身体をベッドに戻した。
「あ、あきと、さ」
「前にも言ったかもしれないけど」
ごとん、ともう片方の靴が床に落ち、足元が軽くなる。軽くなった筈なのに、何故か足を動かすことが出来ない。
「ここ、無防備だよね」
そう言って彰人はストッキングの履き口に指を這わす。カサついた、硬い指が素肌に触れ紗江は身動ぐ。
「少し上に行けば、すぐに犯せる」
「あっ……」
彰人はそう言って内腿を撫でる。その感覚に、紗江の口から甘い声が漏れた。
小さなリップ音が、足元から聞こえる。彰人は何度も紗江の太腿に唇を落としていた。
「……っ、なんか、いじわる……っん、」
「あ、気がついた?少し、分からせてあげようと思って」
ぐい、と足が持ち上げられる。その勢いでニーハイストッキングを脱がされる。肌蹴たシャツワンピースと、片方だけ残されたストッキング。どこを露わにされたわけでもないが、紗江からは隠微な雰囲気が醸されていた。
彰人の喉仏が、上下するのが見えた。大きな身体がゆっくりとベッドの上に上がった。
ぎし、とベッドが音を立てる。
「……俺のこと、試してる?」
「……っ、べつになにも!」
「無意識?だとしたら、もうどうしようもないな」
彰人がそう言うのと同時に、噛みつくようなキスが降ってきた。遠慮など無い、欲望を満たすためのもの。
息継ぎも許されず、唾液が零れる。対処しきれないそれが、一本の糸様に紗江の首筋に流れた。
ワンピースの中に着ていたインナーの裾から彰人の手が侵入してくる。触れられた所がじんじんと熱くなる。慣れた手つきでホックを外される。その瞬間、息苦しさが少しだけ和らいだ。
「何安心してるの?」
これからだよ?と言った彰人の瞳には見たことのない情欲が映し出していた。
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