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再会の巻
再会
しおりを挟む「あっちゃん、何考えてるの?」
「えっ?っひぁん!」
私のナカをかき混ぜていたゆびが跳ねる。
私の声も跳ねた。
私のアソコがくちゃくちゃのトロトロになっている。本来ならば、恥ずかしいはずなのに、卑猥な音すら私の快感を増長をさせた。
こんなにきもちいいのかぁ。しらなかったぁ。私のナカをぐちゃぐちゃにかき混ぜる指から与えられる快楽を受け止めながら、私はぼんやりそんなことを思う。
小さい頃、私の後ろを泣きべそをかきながらついてきていた子はどこへ行ったのかな。
別人みたいで私は驚きを隠せない。
くりっとした瞳に、厚いくちびる。
笑うと片方だけえくぼができる。
その笑顔は昔と変わってないはずだが、身体つきが大人になってしまい私は戸惑ってしまった。
「…あっちゃん、好きだ。愛してる」
「好きだよ。ずっと好きだった。…もう離さないよ…」
私の胸元、首筋、大腿をじっとりと舐め上げる。ちゅっと音が一つ、二つ、三つ……。
その度に肌に赤い花が咲く。
快楽に身を委ねつつも、頭の隅では理性が働いている。
その理性が私にこう語りかける。
……なんでこうなったんだっけ?
仕事で酷使した足を引きずり、アパートへ向かう。駅から徒歩七分。この七分がアラサー女子には辛い。
そこそこの会社の七年目。後輩の指導もまかせられるようになったし、考えた企画もそこそこ通るようになっていた。
けれども、全部がそこそこ。きっと私でなくても大丈夫なものばかり。もし、明日私がいなくなっても誰も困らない。そんな微妙な立場。それが、私、結城渥美。両親が渥美清のファンでそう名付けられた。どうせなら清美とか女の子らしい名前にして欲しかった。などと思っても仕方がない。あの平べったい俳優の顔を思い浮かべ、私はため息をつく。
彼氏もいない。友達もほぼ結婚した。立派なアラサー二十九歳。晩婚化社会で言いたくないが、崖っぷちと言ってもいいだろう。
はぁ、と一つため息をつく。二十時を回った静かな夜に、そのため息は吸い込まれた。見慣れた灯を見つけ、アパートの階段を一つ二つと登る。
足が重い。今日は湿布貼って寝よう。明日は土曜日だから休みだー。なんてとりとめのない事を考えていると、頭上から自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
「あっちゃん!」
名付けの由来のせいか、私のあだ名は「寅さん」と呼ばれることが多かった。その中でたった一人、『あっちゃん』と呼ぶ人物。
その彼が目の前にいる。何故だ?確か就職して、東京にいるはずだった。
「望、どうしてここにいるんだ?あんた東京じゃなかったか?」
「僕、転勤でこっち来る事になったんだ。今日は顔合わせだったから。それで、あっちゃんに会いたくて待ってたんだー!」
にっと笑うと右側だけにえくぼが浮かんだ。その姿にいじめっ子に泣かされて庇ってあげた時の笑顔と重なった。
斎藤望。私の幼馴染兼、弟分。三人兄弟の末っ子なせいか、上二人に虐められているところを助けたりすることもあった。そんな懐かしい思い出が蘇る。
「…どうしたの?なんかあったの?」
残りの階段を昇り、望の前に立つ。昔は見下ろしていたのに今は見上げなくてはいけなくなっていた。
「何にもないよ?」
にこにこ表情を崩さず望が答えた。
その笑顔に私はピンときた。
ため息を一つ落とすと、望の肩がびくりと跳ねた。
「望。いつからちゃんと寝てないんだ。身体はちゃんと休めないとダメだって言っただろ?」
望は、一つの事に夢中になると、他の事が疎かになる傾向にある。今の笑顔だって、大変な所を無理やり笑ってるのがバレバレだった。
高校受験の時は、私と同じ高校に行くって寝ずに勉強していた。私は卒業して居なくなると言っても、聞かなかった。
大学の時も同じだ。同じく私は卒業して居なかった。
タチが悪い事に、こいつは笑顔で疲れを隠すのが上手くて望の家族も気がつかない。
いつも気がつくのは私だった。
「…やっぱりあっちゃんにはばれちゃったなぁ。すごいなーどうして分かったの?」
「お前はすぐ顔に出るからな。バレバレだ。ほら、うち入れ。今日はどうするんだ?泊まってくのか?」
「え!?泊まっていいの!?」
「そのつもりで来たんだろ?ま、お前は弟みたいなもんだから。気にしないで泊まっていくといいよ」
「……おとうと……ね」
「ほら、ぼーっと突っ立ってないで。早く入れ。ご飯作るから風呂入って待ってろ」
ぶつぶつと望は後ろで何か言っているようだったが、いつもの事だと気にせず夕飯の支度に取り掛かった。
時間もないので簡単にチャーハンを作り、盛り付けをした所で、望の着替えがない事に気がついた。
望が持っているのはビジネスバックだけだった。
そう思い、クローゼットの中を掘り起こす。すると、元カレが使っていたスウェットが出てきた。これをそのまま出していいものかと少しだけ悩む。けれども、望だから問題ないと思い直す。そして私は浴室に向かった。
「望ー入るよー」
返事を待たずにドアを開けると、ちょうど風呂から上がった望と目が合った。自然と目線は下へ下へと下がっていく。
おおう。随分立派なモノをお持ちで。
「これ、着替え」
「あ、うん」
惚けている望に着替え一式を渡す。ついでに、早く着ろよと声をかけ、私は脱衣所を後にした。
「望、早く食え。冷めるぞ」
風呂から出てから望は部屋の隅っこで膝を抱えて座っている。全く動く気配がない。
小さい頃から拗ね方が一つも変わってない。私は思わず吹き出してしまった。
「のぞみー。いらないのかー先食べるぞー」
「食べる!食べるよ!……あっちゃんて、いつもそうだよね」
がっくり項垂れる望を横目に私は、ぱくぱくチャーハンを口に入れる。市販の練りタイプの中華調味料は間違いない。
「望、こっちに転勤ってか本当なのか?」
「そう。本社がこっちだから就職したのに、まさか東京に飛ばされるとは思わなかったよー。こっちに帰って来たくて頑張ったんだ」
私の倍はあったのチャーハンを望はペロリと平らげていた。しかも、まだ足りないと言わんばかりに残り物の煮物をバキュームカーのように口の中に放り込んでいる。
「寝る間も惜しんでか?」
「うーん。それもそうだけど…最近あんまり眠れなくて」
「眠れない?何か悩み事でもあるのか?」
「そう!すっごい大っきな悩み事!」
いつもにこにこ笑っていて世渡り上手な望にしては、悩み事なんて珍しい。どうにかしてやりたい気持ちがむくむく膨らんでくる。何か力になれないものか。
「なんだ、なんでも言ってみろ?私で出来ることなら何でもするぞ!」
どん!と大きさに乏しい胸を叩いて望に向き合うと、きょとんとした顔が急にキラキラと輝きだした。
「本当!?じゃあ一緒に寝てくれる?」
「へ?」
「僕、本当寂しくてダメなんだ。あっちゃんが一緒に寝てくれたら大丈夫な気がする」
「ま、まぁ一緒に寝るくらいなら。弟みたいなもんだし」
「やった!さすがあっちゃん!」
「なら、私は風呂に入ってくるから。ちょっと待って…」
立ち上がろうとしたら、腕を力一杯引かれる。くるんと身体が回転したと思ったら、見えるのは天井とどアップの望の顔。
「ちょ、望!私お風呂入ってないから」
「んーん?大丈夫。そのままでいいよ」
よくない!私は風呂に浸かってからでないとよく眠れないんだ!そう言い返すが、望はにっこり笑って腕を掴む力を強めた。
「だって、あっちゃん。僕と寝てくれるんでしょ?」
そう言って望は、私の唇を塞いだ。
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