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第十一章 独孤皇后と二人の乞食女 

第十一章 独孤皇后と二人の乞食女 八

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 伽羅の怒りは大変なものであった。
 病の時に裏切られた傷心は、いかばかりのものか。
 とこにつきがちであったのに、直ちに起き上がり、宮女の止めるのも聞かずけだしたほどである。
 しかし部屋の外に出るべく扉に手をかけたとき、ふいに立ち止まり、思うことがあったのかその心を抑えた。

「陛下の素行を詳しく調べ上げなさい。
 些細ささいと思われることも全てです。わかりましたね」

 一同は伏して皇后の言葉をうけたまわった。
 後宮における伽羅の実権は、皇帝をもしのいでいたのである。

 伽羅は最初、激情のままに尉遅熾繁うっちしょくはんに罰を与えてやろうと思っていた。
 その身を引き受けかくまっただけでなく、部屋を与え、高位の妃に準ずる衣裳さえ整えた。
 髪を伸ばすことも許し、共に琵琶を弾き、娘同様に思って目をかけてやったのに、その伽羅の夫を寝取ったのだ。
 激怒するのも無理はない。

 ところが宮女たちからの報告を聞いてみると、裏切ったのは夫のみであった。
 熾繁しょくはんの意思ではなく、皇帝としての威をかざしての寵愛であったらしい。

「やはりそうでありましたか……」

 結果を知った伽羅は、落胆して肩を落とした。
 言われてみれば確かにそうであった。伽羅も、ちらとその可能性を考えたからこそ宮女たちに調べさせたのだ。

「陛下は熾繁しょくはんの父母、祖父、一族すべてを死地に追いやった張本人。
 熾繁の方から陛下を求めることはありますまい。
 第一熾繁は――――」

 そう、宣帝(悪皇帝贇)のせいで、麗華同様すっかり男嫌いとなっていたのだ。

 生来の気弱さと長年の尼寺暮らしも加わって、宦官でさえ口もきけぬほどに恐れるというのに、今になって皇帝におもねって、若い体を差し出したいと思うはずもなかった。

「支度をなさい。尉遅うっち氏の部屋にまいります。
 彼女と直接話をしたく思います」

「ですが皇后さま、お体の事もございます。
 皇后さま自らお出ましになられるなど……。
 それでしたら、人をやって尉遅氏をこちらに呼びつけましょう」

 宮女が心配して進言するも、伽羅は首を振った。

「まずは様子を見てみたく思います。
 熱も下がりましたので、心配は無用です」

 皇后がひとたび言い出せば、ちょっとやそっとでは曲げぬことを宮女たちはよく知っていた。
 ここで逆らっても却って病床の皇后の体力を落とすだけであろう。

 そこで仕方なく支度にかかったのである。









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