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アースラ編・花園の神(アースラ視点番外編)
アースラ編・花園の神(アースラ視点番外編) 3
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……なんだコイツ。
妖魔というより変質者だ。
『コドモが好き』というのはそういう意味だったのかっ!?
首輪でもつけて、いかがわしいことでもするつもりなのだな。このド変態。
他国にはそういう『危ない人』が居るから、可愛いアースラちゃんは特に気をつけなさい……って隣のじいさんが何度も言っていたが、まさか妖魔にも似たような変態がいようとは。
だいたい『前の子供』って何だ……?
『うっかり死なせた』って何だ……?
「あはは。やだなぁ、ヴァティール。可愛がってくれようとしてるのはありがたいけど『飼う』とか言っちゃ駄目だよ。ちゃんと人間の言葉を覚えないとっ。
こういう時は『育てる』って言うんだよ?」
目の前の変態妖魔の対処に真っ青になりながら悩んでいると、天然な従兄弟が無邪気に言った。
お前はアホかっ!!
馬鹿の上にアホなんだなっっ!!!
そうなんだなっ!!!
相手は変態妖魔。
なのに、何でココまで危機感が無いんだよッ!!!
しかし青ざめているのは私だけで、変態妖魔もシヴァも相変わらずニコニコと笑っている。
「……そ~かっ! なるほど、これはワタシが悪かったなァ。ははは。ところでオマエはあのクソ餓鬼と違って性格も可愛いなぁ!!」
「よく言われるよヴァティール。でもアースラもあれで可愛いとこあるんだよっ! 6歳まで『ケモケモさん』を信じてたり」
「うっ、うるさいっ!!」
なんでこいつらはこう能天気なんだ。そして私は幼い頃より超現実派だったから『ケモケモさん』なんか信じていない。
ちょっと学術的に研究してみようかな~と思って、文献をあさっていた時期があっただけだっ!!
結果、やっぱり神なんかではなくて、単なる自然現象だった。そのことにガッカリなんてしてないからな。本当だからな!!
大体今はそんな昔のことを持ち出して笑ってる場合じゃない。
「シヴァ!! 国が滅びそうなのにお前って奴は……」
言ったとたん、シヴァはうつむいて涙をぼろぼろこぼしはじめた。
そうして声を上げて泣き始める。
う。どうしよう。ちょっとばかし言い過ぎたか……。
「うわ。……泣ぁあ~かしたっ、泣ぁ~かしたっ!!
まったくオマエは底意地が悪いなァ。起きるなりギャンギャン泣いてたこの子を色々なだめて、やっと笑えるようにしたというのにヒデェ奴だ。
ワタシは子供は好きだが、オマエのようなクソ餓鬼は嫌いだな」
目の前の変態妖魔はいきなり私を指差し悪者にしやがった。
何で私が悪者になっているのだ。絶対におかしい。
シヴァは魔物によしよしされて、魔物の衣服を掴んですがるように泣いている。
そんな馬鹿な。
私のどこがいけないというのだ。
こんなに正しい私なのに。
魔物は私を冷たい目で見ながら言った。
「おいクソ餓鬼。お前らの親戚縁者はどこかにいないのか?
居るならどこにでも送り届けてやる。
子供を飼っ……いやその、育ててはみたかったがこんなに泣くのなら仕方ない。泣き過ぎてまた死なれちゃ寝覚めが悪いからな。
私の魔力ならどんなに離れた場所でも送り届けることは可能だから、縁者の居る場所を言ってみろ。
さ、シヴァ、オマエももう泣くな。ちゃんと安全な国に連れて行って親戚に会わせてやるからな」
魔物はシヴァの頭を優しく撫でながら言った。
うわっ!
こいつ、子供殺しの変態の癖に、なに善人ぶっているのだ。むかつく。
でも私は思い出した。
私たちを襲っていた狼の群れを、息一つ乱さず、威圧だけで引き下がらせたコイツの力を。
……そうだ、仮にもこいつは『神』と呼ばれたこともある妖魔。
それの正体が強力な力を持つ悪魔だったとしても、もうかまわない。
「お、お願いします!! あなたの力で国の皆を助けて下さいっ」
私は即座に態度をひるがえし、深々と頭を下げた。
こんな変態妖魔に頭を下げるなんて屈辱だが仕方ない。
両親は燃え盛る神殿で最後まで神に国民の救済を求めて祈り続けた。
私はあの両親の息子で、将来の大神官として育てられた身。
祈る対象は違えど、強大な力を持つこいつの情けを請うことで国の皆が助かるなら、私のプライドなんて石ころほどの価値も無い。
「お、お願いします。お願い……魂でも何でも、私が持っているものは何でも差し上げますから……」
涙が伝うのは悔しいからじゃない。私も両親も……わが国を守護して下さるリノス神を繋ぎ止められなかった。
あの妖魔が言う通り、もう10年も前からわが国の守護神リノス様は、神官や巫女がいくら呼びかけても応えては下さらない。
理由はあの妖魔が言ったような『でたらめ』ではないに違いないが、神はわが国を滅びから救ってはくれなかった。もう祖国に神は居ない。
それだけは確かなのだ。
この妖魔にリノス神ほどの力があるのなら、たとえ今までの信仰を捨てることとなっても、この妖魔にすがらなくては私の国は助からない。
「どうか……どうかわが国をお救い下さい! わが国の『神』となって下さいっっ!!」
「ええっ!?」
妖魔は額を押さえて心底困ったように唸った。
「それは…………ちょっと無理だなァ。我らは人間同士の争いには加担しない。
例えば虫同士が喧嘩していて片方が喰われそうになったとして……その喰われる虫に同情していちいち助けたり、強い方の虫の巣を調べて焼き払ったりなんて、人間だってしないだろ?
せいぜい、綺麗な蝶が蜘蛛の巣でもがいているのを偶然見かけたら助けてやる…………そんな程度なんじゃないのかなァ?」
妖魔は額を押さえたまま、一生懸命考えたらしい言葉を口にした。
でもその例えは私を打ちのめすものだった。
そうか。
この妖魔にとっては『人間』も虫ケラみたいなものなのか。
わが国の民たちも、敵国の兵士も……今ここに居る私やシヴァさえも。
私たちを助けたのはほんの気まぐれからで、人間同士の戦争など眼中にもない。
人間に近い姿をしていても大切な人々、そして祖国を蹂躙される人間の苦しみなど欠片もわからないのだ。
「リノっちも罪な事をしたよなァ。弱い人間を手なずけて『神』が居なきゃ生きていけないように堕落させ、あげくの果てに放り投げて逃げ出して。
飼うなら責任をもてる数だけを飼えば良かったんだ。それなら嫁も怒るまいに。
私はあいつのような無責任なことはしない。やるつもりもない。だから駄目だ」
「……それでも……お願いしますっ……!」
頼んでも無駄なのだろうと、頭ではわかっていた。
でも私は将来は大神官にもと望まれた身。
神官は『神』を繋ぎとめ、国民を守ってもらう事がその主たる役目。
王や父から託され、生かされた私がこの役目を果たさずに、おめおめと引き下がることは出来ない。。
今ならまだ、残された国民だけでも救う事ができる。
もしかしたら、王や王妃様だって生きていらっしゃるかもしれない。妹だって……。。
私の行動しだいで国に残された皆の命の行方が決まるのだ。
「妹がアレス帝国の奴らに捕らわれてしまったのです!! 友達も、修行仲間もまだ大勢城に残っていますっ!!!
国の人たちは、何も悪いことをしていないのにっ!! ただ平和に生きていただけだったのにっ!!」
妖魔は私の叫びには何も答えず、つい、と目を反らした。
でも、あきらめる気にはなれなかった。
「言いなりになるペットが贄として欲しいなら、私が犬となって仕えますっ! どんな事でも致します!!
だから皆を……私の国の皆を助けて下さいっ!!」
地面に身を投げ出して土下座した。
皆を助けられるなら、私はどうなってもいい。
だから、国の皆をどうか助け……。
「無理だ」
無慈悲な声が頭上から降ってきた。
「私は――私の手に余る数の人間を助けるつもりは無い。『神様ごっこ』は一族の中では禁忌とされている」
「禁忌……」
「そう、禁忌だ。破れば一族からどのような目で見られ、忌まれても文句は言えない」
妖魔はそれだけを呟いて私に背を向けた。
妖魔というより変質者だ。
『コドモが好き』というのはそういう意味だったのかっ!?
首輪でもつけて、いかがわしいことでもするつもりなのだな。このド変態。
他国にはそういう『危ない人』が居るから、可愛いアースラちゃんは特に気をつけなさい……って隣のじいさんが何度も言っていたが、まさか妖魔にも似たような変態がいようとは。
だいたい『前の子供』って何だ……?
『うっかり死なせた』って何だ……?
「あはは。やだなぁ、ヴァティール。可愛がってくれようとしてるのはありがたいけど『飼う』とか言っちゃ駄目だよ。ちゃんと人間の言葉を覚えないとっ。
こういう時は『育てる』って言うんだよ?」
目の前の変態妖魔の対処に真っ青になりながら悩んでいると、天然な従兄弟が無邪気に言った。
お前はアホかっ!!
馬鹿の上にアホなんだなっっ!!!
そうなんだなっ!!!
相手は変態妖魔。
なのに、何でココまで危機感が無いんだよッ!!!
しかし青ざめているのは私だけで、変態妖魔もシヴァも相変わらずニコニコと笑っている。
「……そ~かっ! なるほど、これはワタシが悪かったなァ。ははは。ところでオマエはあのクソ餓鬼と違って性格も可愛いなぁ!!」
「よく言われるよヴァティール。でもアースラもあれで可愛いとこあるんだよっ! 6歳まで『ケモケモさん』を信じてたり」
「うっ、うるさいっ!!」
なんでこいつらはこう能天気なんだ。そして私は幼い頃より超現実派だったから『ケモケモさん』なんか信じていない。
ちょっと学術的に研究してみようかな~と思って、文献をあさっていた時期があっただけだっ!!
結果、やっぱり神なんかではなくて、単なる自然現象だった。そのことにガッカリなんてしてないからな。本当だからな!!
大体今はそんな昔のことを持ち出して笑ってる場合じゃない。
「シヴァ!! 国が滅びそうなのにお前って奴は……」
言ったとたん、シヴァはうつむいて涙をぼろぼろこぼしはじめた。
そうして声を上げて泣き始める。
う。どうしよう。ちょっとばかし言い過ぎたか……。
「うわ。……泣ぁあ~かしたっ、泣ぁ~かしたっ!!
まったくオマエは底意地が悪いなァ。起きるなりギャンギャン泣いてたこの子を色々なだめて、やっと笑えるようにしたというのにヒデェ奴だ。
ワタシは子供は好きだが、オマエのようなクソ餓鬼は嫌いだな」
目の前の変態妖魔はいきなり私を指差し悪者にしやがった。
何で私が悪者になっているのだ。絶対におかしい。
シヴァは魔物によしよしされて、魔物の衣服を掴んですがるように泣いている。
そんな馬鹿な。
私のどこがいけないというのだ。
こんなに正しい私なのに。
魔物は私を冷たい目で見ながら言った。
「おいクソ餓鬼。お前らの親戚縁者はどこかにいないのか?
居るならどこにでも送り届けてやる。
子供を飼っ……いやその、育ててはみたかったがこんなに泣くのなら仕方ない。泣き過ぎてまた死なれちゃ寝覚めが悪いからな。
私の魔力ならどんなに離れた場所でも送り届けることは可能だから、縁者の居る場所を言ってみろ。
さ、シヴァ、オマエももう泣くな。ちゃんと安全な国に連れて行って親戚に会わせてやるからな」
魔物はシヴァの頭を優しく撫でながら言った。
うわっ!
こいつ、子供殺しの変態の癖に、なに善人ぶっているのだ。むかつく。
でも私は思い出した。
私たちを襲っていた狼の群れを、息一つ乱さず、威圧だけで引き下がらせたコイツの力を。
……そうだ、仮にもこいつは『神』と呼ばれたこともある妖魔。
それの正体が強力な力を持つ悪魔だったとしても、もうかまわない。
「お、お願いします!! あなたの力で国の皆を助けて下さいっ」
私は即座に態度をひるがえし、深々と頭を下げた。
こんな変態妖魔に頭を下げるなんて屈辱だが仕方ない。
両親は燃え盛る神殿で最後まで神に国民の救済を求めて祈り続けた。
私はあの両親の息子で、将来の大神官として育てられた身。
祈る対象は違えど、強大な力を持つこいつの情けを請うことで国の皆が助かるなら、私のプライドなんて石ころほどの価値も無い。
「お、お願いします。お願い……魂でも何でも、私が持っているものは何でも差し上げますから……」
涙が伝うのは悔しいからじゃない。私も両親も……わが国を守護して下さるリノス神を繋ぎ止められなかった。
あの妖魔が言う通り、もう10年も前からわが国の守護神リノス様は、神官や巫女がいくら呼びかけても応えては下さらない。
理由はあの妖魔が言ったような『でたらめ』ではないに違いないが、神はわが国を滅びから救ってはくれなかった。もう祖国に神は居ない。
それだけは確かなのだ。
この妖魔にリノス神ほどの力があるのなら、たとえ今までの信仰を捨てることとなっても、この妖魔にすがらなくては私の国は助からない。
「どうか……どうかわが国をお救い下さい! わが国の『神』となって下さいっっ!!」
「ええっ!?」
妖魔は額を押さえて心底困ったように唸った。
「それは…………ちょっと無理だなァ。我らは人間同士の争いには加担しない。
例えば虫同士が喧嘩していて片方が喰われそうになったとして……その喰われる虫に同情していちいち助けたり、強い方の虫の巣を調べて焼き払ったりなんて、人間だってしないだろ?
せいぜい、綺麗な蝶が蜘蛛の巣でもがいているのを偶然見かけたら助けてやる…………そんな程度なんじゃないのかなァ?」
妖魔は額を押さえたまま、一生懸命考えたらしい言葉を口にした。
でもその例えは私を打ちのめすものだった。
そうか。
この妖魔にとっては『人間』も虫ケラみたいなものなのか。
わが国の民たちも、敵国の兵士も……今ここに居る私やシヴァさえも。
私たちを助けたのはほんの気まぐれからで、人間同士の戦争など眼中にもない。
人間に近い姿をしていても大切な人々、そして祖国を蹂躙される人間の苦しみなど欠片もわからないのだ。
「リノっちも罪な事をしたよなァ。弱い人間を手なずけて『神』が居なきゃ生きていけないように堕落させ、あげくの果てに放り投げて逃げ出して。
飼うなら責任をもてる数だけを飼えば良かったんだ。それなら嫁も怒るまいに。
私はあいつのような無責任なことはしない。やるつもりもない。だから駄目だ」
「……それでも……お願いしますっ……!」
頼んでも無駄なのだろうと、頭ではわかっていた。
でも私は将来は大神官にもと望まれた身。
神官は『神』を繋ぎとめ、国民を守ってもらう事がその主たる役目。
王や父から託され、生かされた私がこの役目を果たさずに、おめおめと引き下がることは出来ない。。
今ならまだ、残された国民だけでも救う事ができる。
もしかしたら、王や王妃様だって生きていらっしゃるかもしれない。妹だって……。。
私の行動しだいで国に残された皆の命の行方が決まるのだ。
「妹がアレス帝国の奴らに捕らわれてしまったのです!! 友達も、修行仲間もまだ大勢城に残っていますっ!!!
国の人たちは、何も悪いことをしていないのにっ!! ただ平和に生きていただけだったのにっ!!」
妖魔は私の叫びには何も答えず、つい、と目を反らした。
でも、あきらめる気にはなれなかった。
「言いなりになるペットが贄として欲しいなら、私が犬となって仕えますっ! どんな事でも致します!!
だから皆を……私の国の皆を助けて下さいっ!!」
地面に身を投げ出して土下座した。
皆を助けられるなら、私はどうなってもいい。
だから、国の皆をどうか助け……。
「無理だ」
無慈悲な声が頭上から降ってきた。
「私は――私の手に余る数の人間を助けるつもりは無い。『神様ごっこ』は一族の中では禁忌とされている」
「禁忌……」
「そう、禁忌だ。破れば一族からどのような目で見られ、忌まれても文句は言えない」
妖魔はそれだけを呟いて私に背を向けた。
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