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リオン編   その日

リオン編   その日5

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 僕は、恨めしく思いながら兄様を見上げた。

「また僕を騙すのですね……。
 わかりました。僕が甘かったのです。
 こいつらは、僕の手で全員殺します……!!!」

 掲げた手には、煉獄の魔炎が宿っていた。

 剣なんか取り上げたって無駄なんだよ、兄様。
 僕にはまだ、魔術がある

 あの日失敗した……ヴァティールの名を織り込んだ、僕の最大最強の技。
 今なら、あれほど難しく思った技ですら、苦も無く扱える。

 剣でアリシアたちを殺すだけならともかく、この奥義を放ったのなら、この国自体、ただではすまない。

 だけど僕はもう、この国の人々を守護したりはしない。
 かつて必死に守ってきたブルボア王国は、火の海に包まれるだろう。

 領民を守るとか、王に従うとか、力を自分の欲のために使ってはいけないとか……色々教わってきたけれど、もう無理だ。
 だって、どれだけ尽くしても、僕には僕を『大切に想ってくれる人』が一人もいない。

「僕が20歳の誕生日を迎え、正式にクロスⅧとなった時……アースラ様から受け継いだすべての能力の封印が解けます。
 ヴァティールは僕を完全に押さえ込んだと思っていたみたいですけれど、偉大なるアースラ様の祝福が、僕を目覚めさせてくれました。
 これからは、あの下賎な魔獣のすべての力が僕のものです。
 逆らう奴はすべて殺すし、こいつらも城も……何もかも破壊して、僕は兄様を取り戻します!!!」

 僕が世界に望んだのは、たった一つ。

 兄様に愛され、大切にされること。

 アリシアの母がそうだったように、『世界中の全てを敵に回してでも愛する』という、僕だけに向けられる特別な愛が欲しかった。

 でも、それはもう叶わない。

 ならば、兄以外の人間を殺してしまおう。

 そうすれば、兄は『僕』だけを見て下さるはずだ。

 そのために、この強大な力を一度使うぐらいは……僕の望みを叶えるために、たった一度使う事ぐらいは、許されるはずだ。













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