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リオン編   その日

リオン編   その日1

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 気がつくと闇。

 どれほどの間、僕は暗闇の中を漂っていたのだろう。

 戒められた体は、指一本動かせなかった。
 先程までは意識も奪われていて、何がなんだかわからない。

 せめて兄を呼んでみたいのに、声すらも出せなかった。

 そんな僕の世界に、ふいに一筋の光が差した。
 体が軽くなり、それは封印が一つ解けるたびに感じるモノと同じだった。

 ……兄様?

 まだ夢を見ているように体がふわふわしている。
 けれど、外の世界に兄様が見えた。

 また背が高くなっているね、兄様。
 僕が意識を失っている間に、きっと数年の月日が流れていたに違いない。

 もう髪は染めてないんだ。
 昔大好きだったあの金の髪が光にきらめいていて、とっても綺麗。
 顔立ちも大人びて、随分変わっている。

 でも、毎日目隠しをして育ってきた僕だ。
 たとえ姿が変わろうとも、兄の気配を間違えたりはしない。

 兄は今、優しく微笑んでいる。
 とても嬉しそうに、幸せそうに微笑んでいる。

 誰に?

 僕にだよね。

 兄様を守って死ぬまで戦い抜いた、僕にだよね?

 あれ……違うみたい。もうひとり誰かいる。他にも数人。

 隣に居るのは誰?
 僕はここだよ。

 優美な白いドレスを着て、姫君のように兄様の隣にいるのは、いったい誰だろう?

 兄様を囲むように集っている人々は、いったい誰だろう?

 うっすらと庭園が見える。僕の知らない場所。
 だけど、色とりどりのハイドロレンジアが見事に咲き誇っていて美しい。

 あれは、僕が大好きだった花。
 兄様と一緒に摘んだこともあった。

 国を出て初めての誕生日には、兄様があの花で作った花束を僕に下さったりもしたのだ。

 兄様はドレス姿の女性の手を取って、庭園の真ん中に引かれた赤い絨毯の上を歩いている。
 その先にはアルフレッド王と……髪や瞳の色が亡き妹に似た、知らない姫君。
 王と共に、その少女も穏やかに微笑んでいる。

 白いドレスの女性は、兄に手を取られ、王の前に進み出た。
 ベールが兄の手により上げられ、幸せに輝くその女性の顔が見えた。

 ああ。あの白いドレスの女性は『アリシア』だ。

 髪を結い上げ、純白のベールをかぶり……ところどころにハイドロレンジアの花をさして微笑む彼女は、僕の知る彼女とは雰囲気も顔立ちも全く変わって見えた。

 でも間違いない。
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