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リオン編 戦火再び
リオン編 戦火再び3
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城門を固く閉じていても、いずれこじ開けられ、城が落ちるのは時間の問題だった。
僕らは城壁の上から長弓で応戦したけれど、敵の数はいっこうに減らない。
かといって、ここから火炎術を放っても、距離の問題からたいした威力にはならないだろう。
むしろ城内の動揺のほうが心配されるので、魔術は極力控えるようにと王から命令を受けていた。
そうこうするうち、敵はとうとう巨大でへんてこな道具まで運んできた。
兄に聞けば、あれは『破城槌』と言って、城を落とすときに使う道具なのだそうだ。
『破城槌』の設置が終わると、敵は火矢を使いだした。
火矢は城壁を越えて、どんどん城内に飛び込んでくる。
自然界の炎は温度が低い。だから水をかけた程度でも消すことは出来る。
狙いが定められていないので、城内の人間に当たることも稀だ。
でも、城内にパニックを起こさせるには十分だった。
王はすぐに指示を出し、城内に避難していた民衆に目標を与えた。
女性や子供までもが必死で消火活動をしている。
でも、篭城に必要な水さえもうすぐ尽きるであろうことは、僕にでもわかった。
兄さんや僕、ブラディやアッサム、更には女性のアリシアや王までが身を晒し、最後の足掻きとして城壁の上から弓で敵に応戦した。
それでも状況は何も変わらない。
兵の数が、違いすぎる。
城門を破られたら、もう終わりだ。
取り囲んでいる兵は十数万人にもおよび、少々の火炎で焼いたところで、僕の体力が尽きるほうが早い。
それは、城攻めの定石を学習したことのない僕にも明らかだった。
奴隷商人が言った言葉をふいに思い出す。
負ければ他人の靴を舐める……そんな未来が待っている。
いつも優しい最愛の兄が、誰かの奴隷となって屈辱的な扱いを受けるだなんて。
そんな事は我慢ならない。
それにアルフレッド王の弟のように酷い目に合って殺されることも、十分に考えられた。
兄がそんな目に合うぐらいなら、僕の命など、どうだってよい。
王命など聞いて、おとなしくしているわけにはいかないのだ。
「兄さん、僕が参ります」
僕はアレス兵に向けて放っていた弓を投げ捨て、魔剣エラジーを抜いた。
「何を言っているんだっ!! こんな高さから飛び降りたら死んでしまう!!
それにあの数が見えないのか。お前一人でどうしようと言うんだ!!」
飛び降りようとする僕を、兄さんは抱きとめて引き戻した。
急いで振り切らねばならないのに、どうしてもすぐには出来なかった。
兄さんに抱きしめていただくのは、きっとこれで最後。
命をかけねば、この窮地を脱することは出来ない。
そして死んでしまえば、僕の体はあの汚き魔獣に取られるだろう。
二度目ともなれば、魔獣は僕の復活にあらゆる対策を打ってくる。
魂を砕かれてしまうことだって、ありうるのだ。
兄の腕の中で、懸命にこれからの可能性を考える。
しかし僕が生き残れる可能性は、限りなく低かった。
戻ったところで、これから使うのは最大の禁呪。
僕の居場所はもうなくなる。
大勢の人間の生き血を、皆の前で使わねば発動できない呪文なのだから。
だから一時だけ現実を忘れて、兄の腕の暖かさに浸る。
やっぱり、兄さんは暖かいなぁ……。
大好きだよ、兄さん。
このままこの腕の中に、いつまでもいたいけど、それは出来ない。
もう、兄さんのその気持ちだけで、僕は十分幸せ。
「どうにもならないかもしれません。でも行かせて下さい。
僕は兄さんを守りたいのです」
腕の中の暖かさに涙が出そうになるけれど、僕はちゃんと笑って言えた。
「……兄様。どうか僕の事、いつまでも覚えていてくださいね」
その言葉とともに、僕は最愛の兄を突き飛ばした。
僕らは城壁の上から長弓で応戦したけれど、敵の数はいっこうに減らない。
かといって、ここから火炎術を放っても、距離の問題からたいした威力にはならないだろう。
むしろ城内の動揺のほうが心配されるので、魔術は極力控えるようにと王から命令を受けていた。
そうこうするうち、敵はとうとう巨大でへんてこな道具まで運んできた。
兄に聞けば、あれは『破城槌』と言って、城を落とすときに使う道具なのだそうだ。
『破城槌』の設置が終わると、敵は火矢を使いだした。
火矢は城壁を越えて、どんどん城内に飛び込んでくる。
自然界の炎は温度が低い。だから水をかけた程度でも消すことは出来る。
狙いが定められていないので、城内の人間に当たることも稀だ。
でも、城内にパニックを起こさせるには十分だった。
王はすぐに指示を出し、城内に避難していた民衆に目標を与えた。
女性や子供までもが必死で消火活動をしている。
でも、篭城に必要な水さえもうすぐ尽きるであろうことは、僕にでもわかった。
兄さんや僕、ブラディやアッサム、更には女性のアリシアや王までが身を晒し、最後の足掻きとして城壁の上から弓で敵に応戦した。
それでも状況は何も変わらない。
兵の数が、違いすぎる。
城門を破られたら、もう終わりだ。
取り囲んでいる兵は十数万人にもおよび、少々の火炎で焼いたところで、僕の体力が尽きるほうが早い。
それは、城攻めの定石を学習したことのない僕にも明らかだった。
奴隷商人が言った言葉をふいに思い出す。
負ければ他人の靴を舐める……そんな未来が待っている。
いつも優しい最愛の兄が、誰かの奴隷となって屈辱的な扱いを受けるだなんて。
そんな事は我慢ならない。
それにアルフレッド王の弟のように酷い目に合って殺されることも、十分に考えられた。
兄がそんな目に合うぐらいなら、僕の命など、どうだってよい。
王命など聞いて、おとなしくしているわけにはいかないのだ。
「兄さん、僕が参ります」
僕はアレス兵に向けて放っていた弓を投げ捨て、魔剣エラジーを抜いた。
「何を言っているんだっ!! こんな高さから飛び降りたら死んでしまう!!
それにあの数が見えないのか。お前一人でどうしようと言うんだ!!」
飛び降りようとする僕を、兄さんは抱きとめて引き戻した。
急いで振り切らねばならないのに、どうしてもすぐには出来なかった。
兄さんに抱きしめていただくのは、きっとこれで最後。
命をかけねば、この窮地を脱することは出来ない。
そして死んでしまえば、僕の体はあの汚き魔獣に取られるだろう。
二度目ともなれば、魔獣は僕の復活にあらゆる対策を打ってくる。
魂を砕かれてしまうことだって、ありうるのだ。
兄の腕の中で、懸命にこれからの可能性を考える。
しかし僕が生き残れる可能性は、限りなく低かった。
戻ったところで、これから使うのは最大の禁呪。
僕の居場所はもうなくなる。
大勢の人間の生き血を、皆の前で使わねば発動できない呪文なのだから。
だから一時だけ現実を忘れて、兄の腕の暖かさに浸る。
やっぱり、兄さんは暖かいなぁ……。
大好きだよ、兄さん。
このままこの腕の中に、いつまでもいたいけど、それは出来ない。
もう、兄さんのその気持ちだけで、僕は十分幸せ。
「どうにもならないかもしれません。でも行かせて下さい。
僕は兄さんを守りたいのです」
腕の中の暖かさに涙が出そうになるけれど、僕はちゃんと笑って言えた。
「……兄様。どうか僕の事、いつまでも覚えていてくださいね」
その言葉とともに、僕は最愛の兄を突き飛ばした。
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