261 / 437
リオン編 分かれ道
リオン編 分かれ道8
しおりを挟む
「…………兄様、ごめんなさい」
しばらく間をおいて出たのは、その言葉だけだった。
とっさに出たのは昔なじんでいた『兄様』という言葉で、それさえももうよくわからないぐらい頭が真っ白になっていた。
兄を除く暗殺隊メンバーは、すべて怪我を負ったはず。
地図だって、僕が持ち出した。
まさか兄が……こんなところまで追って来るとは思わなかった。
どうしよう。
兄は、僕が人を殺すことを凄く嫌がる。
魔力を使うことも。
前に大勢のアレス兵を殺したときには『化け物』と言われてしまった。
あの時に酷似した状況に、身がすくむ。
確かあの時も、僕は血まみれで、瞳は紅かった。
戻らなくちゃ。
早く『リオン』に戻らなくちゃ。
「……今、血の魔縛呪を描いているから……もう少しで戻るから……待っていて下さい」
震える指を血に浸し、僕は紋様を書き続けた。
「……化け物……」
ブラディが小さく呟く。
僕の心臓が、ドクンとはねた。
やはりそう見えるのだ。
僕自身が『化け物』に見えるのだ。
「違う!!」
兄様が大声をあげた。
「俺の弟だ!! 化け物なんかじゃない!!」
しかし、兄の叫びにブラディたちは目をそらし、黙り込んだ。
「いいのですよ……」
どうしようもなく涙がこぼれたけれど、それでも僕は微笑んだ。
兄様は、ちゃんと『僕』のことをわかっていて下さった。
だからもういいのだ。
紋様を描き終えた僕は、立ち上がった。
瞳の色は、もう戻っているはず。
兄に向かって歩を進める僕に、ブラディたちが後ずさる。とても怯えた表情で。
でも兄様だけは、その場を動かなかった。
「誰に化け物と思われても……本当に化け物になってしまったとしても、僕は兄様を守りたい」
今度は精一杯手を伸ばし、恐る恐る兄様の体に触れさせる。
それでもやはり、兄様は僕の手を振り払ったりはなさらなかった。
「僕は守りたい。兄様を守りたい……兄様を……」
声が段々と嗚咽に変わっていく。
兄様は僕を拒絶しなかった。受け入れて下さったのだ。
嬉しくて、もう言葉にならない。
たとえ人から化け物のように見られるとしても、大好きな兄がちゃんと『俺の弟だ』と言って下さった。
その身に触れても、忌むこともしない。
だから、もう『これ以上』を望まなくたっていいのだ。
「……大丈夫。俺は世界で一番、お前のことを愛しているよ」
ささやく声は、耳に甘く響いた。
そして兄様は手を伸ばし、強く……とても強く僕を抱きしめて下さった。
『愛している』って『凄く大好き』って意味だったよね?
昔、シリウスと言う国にすこしだけ居た頃、兄様が僕にそう教えて下さった。
兄様は、心も体もなんて温かいのだろう。
僕は、これからもこの人のためにだけに生きていく。
世界中のすべての人に『化け物』だと言われることになったとしても、兄だけを愛し、大切に守っていくのだ。
しばらく間をおいて出たのは、その言葉だけだった。
とっさに出たのは昔なじんでいた『兄様』という言葉で、それさえももうよくわからないぐらい頭が真っ白になっていた。
兄を除く暗殺隊メンバーは、すべて怪我を負ったはず。
地図だって、僕が持ち出した。
まさか兄が……こんなところまで追って来るとは思わなかった。
どうしよう。
兄は、僕が人を殺すことを凄く嫌がる。
魔力を使うことも。
前に大勢のアレス兵を殺したときには『化け物』と言われてしまった。
あの時に酷似した状況に、身がすくむ。
確かあの時も、僕は血まみれで、瞳は紅かった。
戻らなくちゃ。
早く『リオン』に戻らなくちゃ。
「……今、血の魔縛呪を描いているから……もう少しで戻るから……待っていて下さい」
震える指を血に浸し、僕は紋様を書き続けた。
「……化け物……」
ブラディが小さく呟く。
僕の心臓が、ドクンとはねた。
やはりそう見えるのだ。
僕自身が『化け物』に見えるのだ。
「違う!!」
兄様が大声をあげた。
「俺の弟だ!! 化け物なんかじゃない!!」
しかし、兄の叫びにブラディたちは目をそらし、黙り込んだ。
「いいのですよ……」
どうしようもなく涙がこぼれたけれど、それでも僕は微笑んだ。
兄様は、ちゃんと『僕』のことをわかっていて下さった。
だからもういいのだ。
紋様を描き終えた僕は、立ち上がった。
瞳の色は、もう戻っているはず。
兄に向かって歩を進める僕に、ブラディたちが後ずさる。とても怯えた表情で。
でも兄様だけは、その場を動かなかった。
「誰に化け物と思われても……本当に化け物になってしまったとしても、僕は兄様を守りたい」
今度は精一杯手を伸ばし、恐る恐る兄様の体に触れさせる。
それでもやはり、兄様は僕の手を振り払ったりはなさらなかった。
「僕は守りたい。兄様を守りたい……兄様を……」
声が段々と嗚咽に変わっていく。
兄様は僕を拒絶しなかった。受け入れて下さったのだ。
嬉しくて、もう言葉にならない。
たとえ人から化け物のように見られるとしても、大好きな兄がちゃんと『俺の弟だ』と言って下さった。
その身に触れても、忌むこともしない。
だから、もう『これ以上』を望まなくたっていいのだ。
「……大丈夫。俺は世界で一番、お前のことを愛しているよ」
ささやく声は、耳に甘く響いた。
そして兄様は手を伸ばし、強く……とても強く僕を抱きしめて下さった。
『愛している』って『凄く大好き』って意味だったよね?
昔、シリウスと言う国にすこしだけ居た頃、兄様が僕にそう教えて下さった。
兄様は、心も体もなんて温かいのだろう。
僕は、これからもこの人のためにだけに生きていく。
世界中のすべての人に『化け物』だと言われることになったとしても、兄だけを愛し、大切に守っていくのだ。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
子悪党令息の息子として生まれました
菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!?
ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。
「お父様とお母様本当に仲がいいね」
「良すぎて目の毒だ」
ーーーーーーーーーーー
「僕達の子ども達本当に可愛い!!」
「ゆっくりと見守って上げよう」
偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた。
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエルがなんだかんだあって、兄達や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑でハチャメチャな毎日に奮闘するノエル君の物語です。
若干のR表現の際には※をつけさせて頂きます。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、改稿が終わり次第後の展開を書き始める可能性があります。長い目で見ていただけると幸いです。2024/11/12
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる