上 下
203 / 437
リオン編   異変

リオン編   異変4

しおりを挟む
 そのまま兄様は目覚めなかった。
 呼吸を確かめ、脈を取る。異常はない。外傷も無い。

 揺さぶってみたが、反応は返らなかった。
 名前を呼んでもやはり同じ。

 いったいどうしたらいいのかもわからず、ただ兄様を抱きしめて泣いていた。
 それでも兄様は目覚めない。

 いつものように、優しく頭を撫でてほしいのに。
 あの温かい瞳で僕を見て欲しいのに。

 僕は治癒魔法は使えない。
 魔獣の力を使って術を展開するクロス神官は、基本魔獣と相性の良い術しか教わらないし、使えない。

 使えたとしても、兄様に外傷は全くない。

 どうしたら兄が目覚めるのかなんて、僕にはわからなかった。


 そうして途方にくれているうちに、一人の『すかあと』をはいた人が声をかけてくれた。
 野菜の育て方を教えてくれた、僕と仲良しの優しい花屋のお姉さんだ。

 お姉さんも泣いていた。
 泣きながら僕を抱きしめてくれた。

「可哀想に」って。

 お姉さんの傍にいたお兄さんが、黙って僕の兄様を背負ってくれた。

 ついて行った先の家に入ると、部屋の隅でお互いをかばうように折り重なって死んでいる親子四人の亡骸が目に入った。

 子供二人は僕と兄様ぐらいの年だ。

「私のお母さんとお父さん。それに弟たちよ。皆殺されちゃった……。
 だから服もベットも使って。だってもう……」

 お姉さんは泣き崩れた。
 その時、家の外で大きな物音がした。

 お兄さんは剣を持って、僕らにここに隠れているよういい含めて飛び出していった。
 でもそのまま帰ってこなかった。

 お兄さんの様子を見に行ったお姉さんも、帰っては来なかった。
 魔力を使い、耳を澄ませていれば、お兄さんの様子もお姉さんの様子も知ることが出来たはずなのに、心が乱れて上手く術を使うことが出来なかった。

 僕たちは捨てられてしまったのだろうか?
 それとも、二人ともどこかで殺されてしまったのだろうか?

 どちらにせよ、ここで戦えるのは僕一人。僕が兄様を守らなくては。

 僕は眠ることもなく、ずっと兄様の傍らで守り続けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

子悪党令息の息子として生まれました

菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!? ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。 「お父様とお母様本当に仲がいいね」 「良すぎて目の毒だ」 ーーーーーーーーーーー 「僕達の子ども達本当に可愛い!!」 「ゆっくりと見守って上げよう」 偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

友達が僕の股間を枕にしてくるので困る

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
僕の股間枕、キンタマクラ。なんか人をダメにする枕で気持ちいいらしい。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...