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リオン編 鳥籠の外
リオン編 鳥籠の外2
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それから数日後、僕らはいよいよ城を脱出することになった。
夜中なのに「ちゅうぼう」に女の人が残っていたり、兵士に見つかったり、色々と想定外の出来事はあったけど、兄様は賢いのでどうとでもなるみたい。
すごいなぁ。
兄様が「ちゅうぼう」の女の人に僕を『他人』として紹介したのだけは涙が出そうなほど悲しかったけど、非常事態なのだから、もちろん耐えた。
そうして見事ピンチを逃れた僕らは『バシャ』という不思議な物体に乗り、無事『カクレガ』へと到着したのだった。
そこは、お城とはずいぶん違っていた。
とても小さくて、外から見ると、大きな三角をポンと乗せたような形だった。
建造するための材料だって違う。
僕は石造りの地下神殿にずっと住んでいたし、兄様の部屋も石造りだった。
けれど、この家は木で出来ている。
そのことを兄様に言うと、
「お前、この壁が木で出来ているなんて、よくわかったなぁ」
なんて失礼なことをさらりとおっしゃった。
けど、僕だって木ぐらいは知っている。
たしか生贄にする狼を押し込めておく箱や……訓練に使う模造刀の材料になったりする物体だよね?
え~っとそれから……あとは残念ながら思い浮かばない。
アルティナ山の中腹にあるというカクレガは、城からかなり離れているけれど高台にある。
なのでそこから、豆粒のようにだが城が見えた。
僕らはよく外に出て、懐かしい元居た場所を眺めた。
晴れた空は澄んでいて、風が気持ちよく吹き渡る。
あの城にいた頃、僕は城の外観を知らなかった。
地下にある、あの神殿内だけが僕の世界のすべて。
でも外に出てみれば、巨大であったはずのお城がとても小さなものに思われる。
兄様とこういう風に出会わなければ、僕は今でもあの『小さなお城の地下』で何も知らず暮らしていたことだろう。
あの世界は嫌いじゃなかったし、それなりに幸せもあった。
けれど……こうして眺めながら風を感じていると、やはり今の幸せに感謝せずにはいられない。
ここでの生活は、本当に楽しいものだった。
クロスⅦは『外の世界は恐ろしい』とおっしゃっていたけれど、僕は『外』で恐ろしい目に合ったことなど一度もない。
きっとこれが、代々の『王』と『クロス神官』が頑張ってきた成果なのだろう。
とても誇らしい。
ただ、他国はこのようではないと兄様が言ってらしたから、クロスⅦの言う『外の世界』というのは『外国』の事を指していたのかもしれない。
きっとそうだ。
僕らの隠れ家の近くには、小さな『サト』があった。
初めてその『サト』に兄様と行ったときは、すごく驚いた。
人をこんなにたくさん見たのは、初めてだったから。
僕が知っているのは兄様とクロスⅦと妹姫。
それに、城から脱出するときに思いがけなく会ってしまったほんの数人だけ。
あとは、ずっと馬車の中に隠れていたからよくわからない。
兄様は小さいサトだとおっしゃっていたけれど、僕にはすごく大きく見えた。
子供も居たし、大人もいた。
『すかぁと』をはいた人も『ずぼん』をはいた人も。
それから、なぜかしわしわで腰の曲がった人も。
あれは年をとった人で、僕らもいつかそうなるのだと聞いてビックリした。
僕は神書に描かれたアースラ様や、背が高く美しかったクロスⅦのようになるつもりだったからだ。
でも、しわしわの人たちは皆僕に優しかったので、年を取ったら僕もしわしわになってもいいや、と思った。
僕は外の世界の事をよく知らない。
だから、あれやこれやとすぐに聞いた。
こんな無知な弟を連れてサトに行くのは、兄様は本当は恥ずかしかったのじゃないかと思う。
だって僕は……サトの小さな子供ですら知っているような事も、何も知らなかったのだから。
でも兄様は、いつも優しかった。
サトの人たちも優しかった。
決して冷笑したりはせず、皆ニコニコしながら教えてくれた。
だから僕は、安心してなんでも聞いた。
色々な思い込みや勘違いもあったけど、僕は段々と普通に暮らす外の人々になじんでいった。
夜中なのに「ちゅうぼう」に女の人が残っていたり、兵士に見つかったり、色々と想定外の出来事はあったけど、兄様は賢いのでどうとでもなるみたい。
すごいなぁ。
兄様が「ちゅうぼう」の女の人に僕を『他人』として紹介したのだけは涙が出そうなほど悲しかったけど、非常事態なのだから、もちろん耐えた。
そうして見事ピンチを逃れた僕らは『バシャ』という不思議な物体に乗り、無事『カクレガ』へと到着したのだった。
そこは、お城とはずいぶん違っていた。
とても小さくて、外から見ると、大きな三角をポンと乗せたような形だった。
建造するための材料だって違う。
僕は石造りの地下神殿にずっと住んでいたし、兄様の部屋も石造りだった。
けれど、この家は木で出来ている。
そのことを兄様に言うと、
「お前、この壁が木で出来ているなんて、よくわかったなぁ」
なんて失礼なことをさらりとおっしゃった。
けど、僕だって木ぐらいは知っている。
たしか生贄にする狼を押し込めておく箱や……訓練に使う模造刀の材料になったりする物体だよね?
え~っとそれから……あとは残念ながら思い浮かばない。
アルティナ山の中腹にあるというカクレガは、城からかなり離れているけれど高台にある。
なのでそこから、豆粒のようにだが城が見えた。
僕らはよく外に出て、懐かしい元居た場所を眺めた。
晴れた空は澄んでいて、風が気持ちよく吹き渡る。
あの城にいた頃、僕は城の外観を知らなかった。
地下にある、あの神殿内だけが僕の世界のすべて。
でも外に出てみれば、巨大であったはずのお城がとても小さなものに思われる。
兄様とこういう風に出会わなければ、僕は今でもあの『小さなお城の地下』で何も知らず暮らしていたことだろう。
あの世界は嫌いじゃなかったし、それなりに幸せもあった。
けれど……こうして眺めながら風を感じていると、やはり今の幸せに感謝せずにはいられない。
ここでの生活は、本当に楽しいものだった。
クロスⅦは『外の世界は恐ろしい』とおっしゃっていたけれど、僕は『外』で恐ろしい目に合ったことなど一度もない。
きっとこれが、代々の『王』と『クロス神官』が頑張ってきた成果なのだろう。
とても誇らしい。
ただ、他国はこのようではないと兄様が言ってらしたから、クロスⅦの言う『外の世界』というのは『外国』の事を指していたのかもしれない。
きっとそうだ。
僕らの隠れ家の近くには、小さな『サト』があった。
初めてその『サト』に兄様と行ったときは、すごく驚いた。
人をこんなにたくさん見たのは、初めてだったから。
僕が知っているのは兄様とクロスⅦと妹姫。
それに、城から脱出するときに思いがけなく会ってしまったほんの数人だけ。
あとは、ずっと馬車の中に隠れていたからよくわからない。
兄様は小さいサトだとおっしゃっていたけれど、僕にはすごく大きく見えた。
子供も居たし、大人もいた。
『すかぁと』をはいた人も『ずぼん』をはいた人も。
それから、なぜかしわしわで腰の曲がった人も。
あれは年をとった人で、僕らもいつかそうなるのだと聞いてビックリした。
僕は神書に描かれたアースラ様や、背が高く美しかったクロスⅦのようになるつもりだったからだ。
でも、しわしわの人たちは皆僕に優しかったので、年を取ったら僕もしわしわになってもいいや、と思った。
僕は外の世界の事をよく知らない。
だから、あれやこれやとすぐに聞いた。
こんな無知な弟を連れてサトに行くのは、兄様は本当は恥ずかしかったのじゃないかと思う。
だって僕は……サトの小さな子供ですら知っているような事も、何も知らなかったのだから。
でも兄様は、いつも優しかった。
サトの人たちも優しかった。
決して冷笑したりはせず、皆ニコニコしながら教えてくれた。
だから僕は、安心してなんでも聞いた。
色々な思い込みや勘違いもあったけど、僕は段々と普通に暮らす外の人々になじんでいった。
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