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第17章 約束

5.約束

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 さすがに俺もヤバイと感じ始めた。

 廟なんて、いくら荘厳でも所詮『墓場』だ。
 そんなところに篭りたがるリオンを一人になんてしておけない。

 あんなにも頑張った弟を放ったらかしにしてしまった事を反省した俺は、王に長期休暇を願い出た。

 もちろんすんなりと認められるなんて思っちゃいない。
 こうなれば土下座でも何でもやってやる。

 ついでに目薬も用意した。
 土下座でダメなら次は泣き落しだ。
 あの王を納得させねばならないのだから、策はいくらでも必要だ。

 見苦しいと思うなら思え。
 俺にとってリオンより大切なものなどない。
 親衛隊長の代わりはいても、兄の代わりはいないのだ。
 悪いけど今度はほかの奴らが頑張ってくれ。

 意気込んで王にお目通りを願ったら、苦笑しながらも案外簡単に了承された。

 王のそばに控えていたアリシアが「このクソ忙しいのにっ!!」と恐ろしい顔で言ったが負けてはいられない。
 俺もリオンも、もう十分国に貢献したはずだ。

 アリシアとはしばらくにらみ合った。
 戦後処理が出来る人間は限られており、俺が抜ければただでさえ忙しい王は、もっと忙しくなる。
 俺だってわかってはいるが、それでもリオンを放ってはおけないのだ。

 アリシアは一つため息をついた。
 その後あきらめたのか、

「わかったわ。あなたの分は私が働くから、弟君を大切にしてあげなさいね」

 と言ってくれた。

 アリシアは俺にはとてつもなくキツイ女だが、案外リオンには甘い。

 それはリオンが『子供』であるせいなのか?
 それとも、彼女の母の魂を神官として天に送った事があるからなのか?

 アリシアの優しさにつけ込むような形になったのは申し訳ないが、それでも俺にとっては弟が一番大事。
 心の中で頭を下げる。


 地下の廟はとても静かだった。
 白く高い大理石の天井は何だかリオンと会ったばかりの頃を思い出させる。

 教育係のエドワードの目をかいくぐり、あの真っ白な地下神殿に足しげく通ったっけ。
 あの頃はまだ父母も妹も生きていて、弟はただただ可愛かった。
 良き未来があると信じて疑わなかった。

 なのに弟には災厄ばかりが降りかかった。
 今でも親しい人は俺以外おらず、こんな陽の当たらぬ地下の廟で国のために祈る……それが弟の唯一の望みであり願いだ。

 リオンに友達を作ってやりたいとは思っていたが、今の状況ではとても無理だ。
 時期を待つしかない。

 しかし二人で過ごす時間はとても穏やかで、世俗での喧騒が嘘のようだった。
 閉じた世界に篭るのも意外と悪くないのかもしれない。

 一人なら牢獄かもしれないが、二人なら『こんな墓場』でさえ聖域であるように感じられる。

 リオンは真っ白な神官服を着て日々祈りを捧げていた。
 声変わり前の澄んだ声は耳に優しく美しい。
 俺はその声にただ、耳をじっと傾けていた。

 静かで穏やかな時を過ごすうち、またリオンも心からの笑を見せるようになった。
 子供らしいその姿は俺を安心させる。

 外界からはどう見えるかわからないが、こんな幸せもいいんじゃないか……俺はそう思い始めていた。

 一方外では全てが順調に進んでいるようだ。
 これもリオンが他組織をすべて壊滅させてくれたおかげだろう。

 王は相変わらずの忙しさだったようだけど『復興に伴う労働』は職のない人たちの良い稼ぎ場となったらしい。
他組織ががっちり溜め込んでいた資金を召し上げ王はそれを国民のために有効に使っているという。
戦後ではあるが、国はすでに活気を取り戻しているようだ。

 俺たち兄弟は、途中から役たたずとなって一日のほとんどを廟で過ごしていたけれど、それでも王は的確な采配で着々と成果を上げていった。

 諸外国との貿易も軌道に乗り、人々の暮らしが豊かになるにつれ治安はさらに良くなった。
 同盟を交わす国も増え、国の未来は明るいと誰しもが信じた。

 最悪の知らせが届いたのはそんな時だった。



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