130 / 437
第16章 死神
7.死神
しおりを挟む
俺たちはいろんな国を後にした。
でも、どこに行っても、安住の地など無かった。
王やアリシアたちを見捨ててここを逃げ出したとて、多分同じこと。
故国を捨てたときの『惨劇』がまたこの地で繰り返されるだけだ。
だったら必死で頑張り、良き国を造り出すのが正しい道なのだろう。
リオンが平和な国を望み、そのために戦うというのなら……俺はそれを応援してやらねばならない。
そう思うのに、作り笑いすら出来ない俺は、本当に情けない兄だと思う。
「……僕、この国が平和になったらご褒美が欲しいです」
普段、何一つねだることがないリオンがぽつりと言った。
「何だい?
今の俺なら相当高価な物でも買ってやれる。遠慮せずに言ってごらん?」
少しかがんで目線を合わせてやると、リオンは戸惑ったように口を開いた。
「物なんか……でも僕、この頃よく、昔の夢を見るのです。
夢の中の僕は今よりずっと小さくて、神官服を着ていて、訓練は毎日とても厳しくて……。
だけど兄さんがあの扉を開けて、毎日僕に会いに来てくれるのです。
僕はそれがすごく嬉しくて、とても幸せな気持ちになります」
リオンが本当に幸せそうな微笑を浮かべる。
当時の気持ちを思い出したのだろう。
「あの頃の僕は外の世界を何も知りませんでした。
だから『人を殺すと兄さんが悲しむ』という事も知りませんでした。
今はそれをよく知っているけれど、兄さんを守るためにはこの国を安全な場所にする必要があります。
だから僕は戦わねばなりません。
でも念願叶ってこの国を平和にする事が出来たなら、僕はこの国の神官になりたいのです。神官となって兄さんとこの国のために日々祈りを捧げたい……ダメでしょうか?」
リオンの言葉に俺は、ちょっと困ったような曖昧な笑を浮かべた。
まさかリオンの望みが『神官になること』だったなんて……。
それは現実的に考えると、とても難しい。
黙り込む俺に、リオンは言った。
「もちろん血塗れた僕が正式な神官職につけるとは思っていません。
あの頃のように地下かどこかに、兄さんにだけわかる隠し部屋を作っていただいて、そこで僕は静かに祈り続けたいのです。
そうしたら、もう僕は……『死神』と呼ばれる事は無くなるし、兄さんもそんな悲しい顔をしなくてもすみますよね?」
リオンは心臓を押さえるようにして目を伏せた。
この弟は、皆から『死神』と呼ばれている。
『死神の姿を見たものは全て死ぬのだ』という伝説を作るほどの敵をリオンは殺してきた。
それだけではない。今の世界でとうに廃れた強い戦闘魔術を使うこの弟は、城の内外でも奇異の目で見られる事が多い。
でもそれはリオンのせいじゃない。
あえて言うなら、俺のせいだ。無力な兄である俺のせいだ。
「……リオンは『死神』なんかじゃ無いよ。とっても優しい良い子だよ。
俺がこの世で最も大切に思っている、自慢の弟だ」
そう言ってふわふわの髪を撫でてやると、リオンははかなく微笑んだ。
それが益々俺の胸を締め付ける。
リオンの願いだけは、どんなにせがまれようと絶対に叶えない。
地下神殿に再び閉じ込めて祈らせるなんて、ありえない。
国が平和になったなら、今度こそ俺とリオンは当たり前の兄弟として平凡に幸せに暮らしていくのだ。
それはきっと、そんなに遠い未来ではない。
でも、どこに行っても、安住の地など無かった。
王やアリシアたちを見捨ててここを逃げ出したとて、多分同じこと。
故国を捨てたときの『惨劇』がまたこの地で繰り返されるだけだ。
だったら必死で頑張り、良き国を造り出すのが正しい道なのだろう。
リオンが平和な国を望み、そのために戦うというのなら……俺はそれを応援してやらねばならない。
そう思うのに、作り笑いすら出来ない俺は、本当に情けない兄だと思う。
「……僕、この国が平和になったらご褒美が欲しいです」
普段、何一つねだることがないリオンがぽつりと言った。
「何だい?
今の俺なら相当高価な物でも買ってやれる。遠慮せずに言ってごらん?」
少しかがんで目線を合わせてやると、リオンは戸惑ったように口を開いた。
「物なんか……でも僕、この頃よく、昔の夢を見るのです。
夢の中の僕は今よりずっと小さくて、神官服を着ていて、訓練は毎日とても厳しくて……。
だけど兄さんがあの扉を開けて、毎日僕に会いに来てくれるのです。
僕はそれがすごく嬉しくて、とても幸せな気持ちになります」
リオンが本当に幸せそうな微笑を浮かべる。
当時の気持ちを思い出したのだろう。
「あの頃の僕は外の世界を何も知りませんでした。
だから『人を殺すと兄さんが悲しむ』という事も知りませんでした。
今はそれをよく知っているけれど、兄さんを守るためにはこの国を安全な場所にする必要があります。
だから僕は戦わねばなりません。
でも念願叶ってこの国を平和にする事が出来たなら、僕はこの国の神官になりたいのです。神官となって兄さんとこの国のために日々祈りを捧げたい……ダメでしょうか?」
リオンの言葉に俺は、ちょっと困ったような曖昧な笑を浮かべた。
まさかリオンの望みが『神官になること』だったなんて……。
それは現実的に考えると、とても難しい。
黙り込む俺に、リオンは言った。
「もちろん血塗れた僕が正式な神官職につけるとは思っていません。
あの頃のように地下かどこかに、兄さんにだけわかる隠し部屋を作っていただいて、そこで僕は静かに祈り続けたいのです。
そうしたら、もう僕は……『死神』と呼ばれる事は無くなるし、兄さんもそんな悲しい顔をしなくてもすみますよね?」
リオンは心臓を押さえるようにして目を伏せた。
この弟は、皆から『死神』と呼ばれている。
『死神の姿を見たものは全て死ぬのだ』という伝説を作るほどの敵をリオンは殺してきた。
それだけではない。今の世界でとうに廃れた強い戦闘魔術を使うこの弟は、城の内外でも奇異の目で見られる事が多い。
でもそれはリオンのせいじゃない。
あえて言うなら、俺のせいだ。無力な兄である俺のせいだ。
「……リオンは『死神』なんかじゃ無いよ。とっても優しい良い子だよ。
俺がこの世で最も大切に思っている、自慢の弟だ」
そう言ってふわふわの髪を撫でてやると、リオンははかなく微笑んだ。
それが益々俺の胸を締め付ける。
リオンの願いだけは、どんなにせがまれようと絶対に叶えない。
地下神殿に再び閉じ込めて祈らせるなんて、ありえない。
国が平和になったなら、今度こそ俺とリオンは当たり前の兄弟として平凡に幸せに暮らしていくのだ。
それはきっと、そんなに遠い未来ではない。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
子悪党令息の息子として生まれました
菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!?
ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。
「お父様とお母様本当に仲がいいね」
「良すぎて目の毒だ」
ーーーーーーーーーーー
「僕達の子ども達本当に可愛い!!」
「ゆっくりと見守って上げよう」
偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる