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第16章 死神

4.死神

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 抗争が始まって間もなく、ウルフが本当は『弱い』事が王にバレた。
 というより、アリシアがアルフレッド王にばらしたらしい。

 ブラディたちの腕は連日の闘技でかなり上がっていたが、ウルフだけは秘密裏に特訓しても全く強くならなかった。
 組織間対立が顕著となった今、ウルフをこのまま戦地にやるのはアリシアとしてはためらわれたようだ。

 出会った当初に比べれば、彼女も随分優しくなったように思う。
 昔ならウルフが死のうが、生きようが気にも留めていなかったろう。
 ここ数年の、平和な歳月が彼女を変えていったのかもしれない。

 でも俺は、ウルフのこの件をとても理不尽だと感じていた。
 弱ければ大人でも兵役を免除されるというのか。
 子供であるリオンは『最前線』で戦っているというのに。

 リオンがウルフぐらい弱ければ、きっと戦場に行くこともなかっただろう。
 ただの子供のままで居られただろう。

 俺はそうであって欲しかったのに。

 弱いということがバレたウルフは別に首になるでもなく、親衛隊付きの雑務官に任命された。
 今は当たり前のように、俺たちと共に働いている。

 普通なら降格されてもおかしくないのに、アリシアの口添えもあってか一介の城詰め兵士よりもむしろ良い待遇だ。
 俺はそれを生暖かい目で見ていた。

 アリシア自身は色々な技能や情報処理能力を買われ、親衛隊からは抜けて王付きの特別秘書となっている。
 俺は腕を認められて親衛隊長に昇格し、主にブラディやアッサム、数人の新入りと共に王城周辺を守っている。

 俺や大人たちがそうやって命の危険の少ない仕事をこなしている一方、リオンはその戦闘力ゆえに最も落としにくい敵地を任され続けた。

 こんな理不尽なことがあるだろうか?

 そんなこんなでモヤモヤしていた頃、俺は王から暗殺隊の後詰を命じられた。
 普段は違う部隊が後詰に入るのだが、やっかいな相手の時だけはそういう命令が下る。

 はぁ、またか。
 俺の心臓は持つのだろうか……。

 後方でリオンの心配をしながら待つ時間は本当に長く、生きた心地がしない。
 せめて一緒に戦えれば良かったのだが、リオンも王も、それを絶対に認めなかった。

 今、俺とリオンは任地に向かうため目立たない馬車に乗っている。

 最近俺たちは生活時間帯がずれていて、ゆっくりと二人で過ごせることは稀だ。
 だから王が二人きりで過ごせるよう、気を利かせてくれたのかもしれない。
 他のメンバーたちは、少しずつ時間をずらしながら同じような方法で今日の目的地に向かっている。

 リオンは『暗殺隊の隊長』を任される前、王の居室で他の隊員たちを半殺しにした事がある。
 そのためか、他の隊員たちとはかなり微妙な間柄らしい。
 だからあいつらとではなく、俺と共に馬車に乗って任地に行けるのは相当嬉しいらしく、ずっと俺のほうを見てニコニコとしている。

 ああ、こんな些細な事ですらそんなに嬉しいのか……なんて不憫な。
 俺が不甲斐ないばかりに、リオンにはつらい思いばかりさせてしまう。

 でも、こんなのはいくら王の命令だとておかしい。
 いっそ、このまま二人で逃げてしまおうか?
 リオンなら……俺さえ一緒なら、きっとついてきてくれる。

 俺はもう15歳を過ぎた。
 この地に縛られずとも、どこでだって生きていける。

 でもこのままこの地を捨てれば『ガルーダ領域』は、エルシオン王国のように他組織に蹂躙されるだろう。

 故国の城の皆や家族の無残な最後が頭をかすめた。
 その姿は、俺の脳内で王やアリシアたちの姿へと変化した。

 ダメだ。
 見捨てていくには俺たちはもう、この組織に深入りしすぎた。
 もし離れるのなら、リオンが人を殺すその前に決断しなくてはならなかったのだ。

 しかし他の暗殺隊員たちの心の狭さには恐れ入る。
 リオンは皆を守るために今、頑張っているのに。

 こんなちっちゃい、かわゆい子の過失の1つや2つ、快く許し……せめて快適な環境を提供してやればいいのに。
 なんて冷たいんだ。

 あんな奴らは一生モテないまま寂しく老後を迎え、孤独死してしまえ。
 バーカ、バーカ!!

 ムカムカしているうちに、いつの間にか目的地についた。

「兄さん、行ってまいります」

 リオンの澄んだ瞳が俺を見上げる。

「気をつけるんだぞ……」

 暖かい小さな体をぎゅっと1回抱きしめて、身を離した。

 リオンは名残惜しそうに何度も何度も振り返りながら闇に消えていった。

 弟に俺が今してやれることは、ただ無事を神に祈る事だけだった。 
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