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第14章 明日を歩く
1.明日を歩く
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『ガルーダ』については、知れば知るほど全うな組織だった。
商人的にアコギな手段を用いる事は多々あるが、王は死人が出るような悪党的汚れ仕事はやらないし、やらせない。
ならず者崩れも相当いる割には、麻薬などの売買もやらない。
女性や奴隷を使った商売もしない。
そんなことをさせたら、将来王国を築いた時『名』に傷がつくとアルフレッド王は言っていた。
俺もそれは賢明な判断だと思う。
俺たちが大人になっても、きっと汚れ仕事はないままだろう。
これなら、リオンと一緒に一生ここにいるのもいい。
俺には国の再建など夢のまた夢だが、アルフレッド王を手伝って新ブルボア王国を創る事ならできるかもしれない。
ここで頑張ることが出来たなら、ほんの少しでも故国や領民に対する罪滅しになるだろうか?
胸の痛みを抱えつつ、それでも俺は前を向いた。
更に1ヶ月後、俺やアリシア・ブラディたちは『見習い』を卒業し、正式な親衛隊員となった。
年の足りないリオンだけが見習い組に残り、数人の美少年が新たに見習いとして補充された。
彼らは親衛隊管轄下に置かれている。
兄が親衛隊員であるリオンに悪さをすれば、査定に響く。
なので、新入りたちはリオンをいじめたりはしないだろうが、俺をすっとばして必要以上に弟と仲良くなる者が出やしないか?
内心ヤキモキする。
王の身辺警備の合間には、弟の様子を見に行かなくては!
しかし、ささやかなお披露目が終わったと同時に、親衛隊員は何故か全員、闘技場に行かされた。
王は別の用事があるようで来ない。
……初仕事は闘技場の警備といったところか?
親衛隊というのは『王の警護専門職』だと思っていたが、常に人手不足の『ガルーダ』なら親衛隊だろうが何だろうが、使えるものは使ってしまえというのは十分ありえる。
王はそういう人だ。
警備程度なら見習いの連中でも事足りそうな気もするが、闘技場ともなれば荒っぽい者も多いだろう。
腕の立つ俺たちが行くのが良いのかもしれない。
リオンを向かわせるのなんかは論外だしな。
まあヤバイ仕事でさえなければ全く不服はない。
俺は王命に素直に従い、簡素な馬車に乗せられて連れて行かれた場所でおとなしく降りた。
ぐるりと辺りを見渡すと、驚いたことに建物らしきものは全くない。
街からはいくらも離れていないはずだが、だだっ広い草地が広がっているだけだ。
……もしかして、また騙された!?
ラフレイムに来るまで散々騙された俺が、まずそう思うのも無理はない。
闘技場なんて、どこにも無いのだから。
まずい。リオンはまだ候補生なので城に置いてきた。
いくら強いと言ってもリオンも人間なので、薬で眠らせるなどして人質に取られたら動きようがない。
アリシアもグルなのだろうか?
有能なアリシアは王に気に入られて、よく個人的に呼ばれていた。
俺は彼女のことを仲間だと思っていたが、彼女は俺のことを『商品』ぐらいにしか思っていなかったのだろうか?
呆然と突っ立ってたら、
「ほらよ!」
ブラディが馬車の荷台に積んであった大きな箱から何かを取り出した。
クワだ。
故郷の城を出てすぐ、俺とリオンは畑を作ったことがあった。
それとソックリ同じ。これはクワで間違いない。
そのクワをブラディは俺に渡す。
「なに突っ立ってんだよ?
さっさと耕さないと日がくれちまうぞ。
あ、アリシア姐さんは馬車で座っていて下さいね!
全部俺たちでやりますから~!」
ブラディは、自身もクワを握ってアリシアにデレデレと手を振る。
いったい何がどうなっているのだ。
「え……と。意味がわからないのですけれど……」
ブラディも労働に参加するようなので、売られたわけではないと思うが、本当に意味が分からない。
「あァ? 言ってなかったっけ?
これから闘技場を作るんだよ。ほら働け!!」
ブラディはアッサムにもクワを渡した。
いったいクワでどうやって作るのだ。
エルシオンにも闘技場はあったが、設計図を作るだけで3年かかったと聞いている。
素人の俺たちがクワを握って何とかなるものではない。
「ん~、確かに説明が足りなかったかなぁ?
ほら、王から渡された図面だ。この通りやってくれ」
なるほど、図面はもうとうに用意されていたようだ。
それなら……
って、何なんだコレは!!
それは図面ではなく、ただの落書きだった。
「あの……図面はこれで間違いないのですかっ!?」
「ああ。最初は口頭での指示だったんだけど、間違いがあってはいけないからお願いして書いていただいたんだ」
書いていただいた……ってことは、つまり。
「王お手製の図面だ。光栄に思って働け!」
奴はニンマリ笑ってそう言ったが、どう見ても落書き以上には見えない。
呆然とする俺をよそに、ブラディとアッサムはもう作業に取り掛かっている。
仕方がないので俺も剣の代わりにクワを振るい、土地をならし、草を引いていった。
そうして1週間後、王立とは思えない、とてもみすぼらしい闘技場が完成したのだった。
商人的にアコギな手段を用いる事は多々あるが、王は死人が出るような悪党的汚れ仕事はやらないし、やらせない。
ならず者崩れも相当いる割には、麻薬などの売買もやらない。
女性や奴隷を使った商売もしない。
そんなことをさせたら、将来王国を築いた時『名』に傷がつくとアルフレッド王は言っていた。
俺もそれは賢明な判断だと思う。
俺たちが大人になっても、きっと汚れ仕事はないままだろう。
これなら、リオンと一緒に一生ここにいるのもいい。
俺には国の再建など夢のまた夢だが、アルフレッド王を手伝って新ブルボア王国を創る事ならできるかもしれない。
ここで頑張ることが出来たなら、ほんの少しでも故国や領民に対する罪滅しになるだろうか?
胸の痛みを抱えつつ、それでも俺は前を向いた。
更に1ヶ月後、俺やアリシア・ブラディたちは『見習い』を卒業し、正式な親衛隊員となった。
年の足りないリオンだけが見習い組に残り、数人の美少年が新たに見習いとして補充された。
彼らは親衛隊管轄下に置かれている。
兄が親衛隊員であるリオンに悪さをすれば、査定に響く。
なので、新入りたちはリオンをいじめたりはしないだろうが、俺をすっとばして必要以上に弟と仲良くなる者が出やしないか?
内心ヤキモキする。
王の身辺警備の合間には、弟の様子を見に行かなくては!
しかし、ささやかなお披露目が終わったと同時に、親衛隊員は何故か全員、闘技場に行かされた。
王は別の用事があるようで来ない。
……初仕事は闘技場の警備といったところか?
親衛隊というのは『王の警護専門職』だと思っていたが、常に人手不足の『ガルーダ』なら親衛隊だろうが何だろうが、使えるものは使ってしまえというのは十分ありえる。
王はそういう人だ。
警備程度なら見習いの連中でも事足りそうな気もするが、闘技場ともなれば荒っぽい者も多いだろう。
腕の立つ俺たちが行くのが良いのかもしれない。
リオンを向かわせるのなんかは論外だしな。
まあヤバイ仕事でさえなければ全く不服はない。
俺は王命に素直に従い、簡素な馬車に乗せられて連れて行かれた場所でおとなしく降りた。
ぐるりと辺りを見渡すと、驚いたことに建物らしきものは全くない。
街からはいくらも離れていないはずだが、だだっ広い草地が広がっているだけだ。
……もしかして、また騙された!?
ラフレイムに来るまで散々騙された俺が、まずそう思うのも無理はない。
闘技場なんて、どこにも無いのだから。
まずい。リオンはまだ候補生なので城に置いてきた。
いくら強いと言ってもリオンも人間なので、薬で眠らせるなどして人質に取られたら動きようがない。
アリシアもグルなのだろうか?
有能なアリシアは王に気に入られて、よく個人的に呼ばれていた。
俺は彼女のことを仲間だと思っていたが、彼女は俺のことを『商品』ぐらいにしか思っていなかったのだろうか?
呆然と突っ立ってたら、
「ほらよ!」
ブラディが馬車の荷台に積んであった大きな箱から何かを取り出した。
クワだ。
故郷の城を出てすぐ、俺とリオンは畑を作ったことがあった。
それとソックリ同じ。これはクワで間違いない。
そのクワをブラディは俺に渡す。
「なに突っ立ってんだよ?
さっさと耕さないと日がくれちまうぞ。
あ、アリシア姐さんは馬車で座っていて下さいね!
全部俺たちでやりますから~!」
ブラディは、自身もクワを握ってアリシアにデレデレと手を振る。
いったい何がどうなっているのだ。
「え……と。意味がわからないのですけれど……」
ブラディも労働に参加するようなので、売られたわけではないと思うが、本当に意味が分からない。
「あァ? 言ってなかったっけ?
これから闘技場を作るんだよ。ほら働け!!」
ブラディはアッサムにもクワを渡した。
いったいクワでどうやって作るのだ。
エルシオンにも闘技場はあったが、設計図を作るだけで3年かかったと聞いている。
素人の俺たちがクワを握って何とかなるものではない。
「ん~、確かに説明が足りなかったかなぁ?
ほら、王から渡された図面だ。この通りやってくれ」
なるほど、図面はもうとうに用意されていたようだ。
それなら……
って、何なんだコレは!!
それは図面ではなく、ただの落書きだった。
「あの……図面はこれで間違いないのですかっ!?」
「ああ。最初は口頭での指示だったんだけど、間違いがあってはいけないからお願いして書いていただいたんだ」
書いていただいた……ってことは、つまり。
「王お手製の図面だ。光栄に思って働け!」
奴はニンマリ笑ってそう言ったが、どう見ても落書き以上には見えない。
呆然とする俺をよそに、ブラディとアッサムはもう作業に取り掛かっている。
仕方がないので俺も剣の代わりにクワを振るい、土地をならし、草を引いていった。
そうして1週間後、王立とは思えない、とてもみすぼらしい闘技場が完成したのだった。
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