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第11章 暗転
6.暗転★
しおりを挟む女性の年は、多分20歳ぐらい。
服装はとても質素だが、長い栗色の髪と魅惑的なスタイルが印象的な、たいした美人だ。
鎖の美女を連れた男は、俺を見ると言った。
「おい小僧。この宿の主人を呼んできてくれ。
待ち望んだ商品が到着したと伝えれば、わかるはずだ」
俺は直感した。
この美しい人は、この安宿に売られてきたのだと。
他国には美しい女を使って、特別の方法で客をもてなす宿があると聞いたことがある。
あのクソ婆は、こんなか弱い女性すら商品にして稼ごうと企んでいたのだろう。
「……宿の主人は今日は不在なのです。俺が預かっている代金をお支払いしますので、その方をこちらにお渡し下さい」
俺がそう言うと、男はどうしたものかと戸惑いを見せた。
その間に、側に控えたリオンが音も無くエラジーを引き抜く。
俺はそれを止めるでもなく、ただ目の端に留めていた。
どうせこの男だって人買。
生きてたって、世の迷惑になるだけだ。
「ぐ……あぁ……」
一撃で殺すのが得意なリオンの手により、男はさして騒ぎもせずに絶命した。
女性の方に騒がれると少々まずいと思っていたが、女性はまったく騒がなかった。
「あら……? お金が貯まったと聞いたのだけど、足りなかったのかしら?」
女性は血まみれの男をちらっと見ただけで俺たちのほうに視線を戻し、落ち着いた様子でにっこりと微笑んだ。
何だか、これはこれでやりずらい。
「ああ、申し遅れましたが私はアリシアと申します。
とりあえず、手錠をはずしてくださいませんこと?」
アリシアと名乗った女性は、優雅に手を持ち上げた。
死んだ男のポケットから見つけ出した鍵で束縛を解いてやると、アリシアは少し赤くなった手首をさすりながら俺たちに言った。
「それで母さんはどこに出かけたのかしら?
やっと娘を買い戻せたのに、居ないって変よねえ?」
え……。
「母さんよ。ミランダ・シャーレット。この宿の女主人。あなた達新人?
まあこの辺では知れ渡っているでしょうけど、母さんは行く当ての無い孤児を拾って働かせてあげたばっかりに、タカリ屋に搾り取られて私を借金のカタに取られたの。
だけど『やっとお金が貯まったから一刻も早く買い戻したい』って連絡があったんで、売られていった先のお屋敷から連れて来られたのよ。
さ、主人の娘に道を開けなさい」
奴隷娘とも思われぬ堂々とした立ち振る舞いに、俺は思わず一歩下がった。
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