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第10章 シリウスという国
4.シリウスという国
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いろいろあったが、結局教会には引き取ってもらえなかった。
この国の教会は孤児の面倒など見ないらしく、俺たちのみすぼらしい格好を見た神官は、うるさそうに追い出した。
なんという奴らだ。
それなりに収入の入る婚儀などは喜んで引き受けても、貧乏人の世話などまっぴらごめんということらしい。
エセ神官たちめ。
俺の国だったら、こんな事は絶対にないのに。
夜になり、宿のベットに入る。しかし、疲れている割には眠れずにいた。
行く末を思うと、不安ばかりがつのる。
教会だったら、たとえ俺たちがエルシオンの王子でも、そ知らぬふりでかくまってくれると思っていたのに。
喜んで手を差し伸べてくれると思っていたのに。
国の中で一番慈悲深いはずの神官たちでさえも、慈悲の欠片さえなかった。
一般の民ならなおさら無いことだろう。
手持ちのお金が尽きたら、俺たちはどうなってしまうのだろう?
悶々と悩んでいたら、部屋をノックする音がした。
音に気づいたリオンもムクリと起き上がり、警戒の色を浮かべる。
「あたしだよ。開けておくれ」
聞き覚えのあるその声は、昼間少ししゃべったこの宿の女主人のものだった。
ドアをあけると、例のおばさんがすまなさそうに立っていた。
「昼間は冷たい事言ってごめんよ。
でも、あたしもあれから色々考えたんだ。
この国は15才未満の子供の労働は、認められてない。
けれど、親や親族の店を手伝うことだけは許されているんだ。
もし、本当に身寄りがないのだったら、おばさんの子供になって働かないかい?
私には娘が一人いたんだけど、なくしちまってね。あんたたちみたいな可愛い子供ができたら、あたしも寂しくなくなるような気がするよ。
まぁウチは見てのとおり貧乏宿屋だから、贅沢はさせてあげられない。
けれど、あんたたちを食べさせていくことぐらいなら、出来ると思うよ?」
俺とリオンは、いきなりのことにびっくりして、すぐには口も利けなかった。
「まあ、すぐに返事なんて出来ないだろうから、ゆっくり考えといておくれ。
そうそう、ウチみたいな安宿に来るぐらだから、お金、あんまりないんだろ?
屋根裏部屋でよかったらタダで泊めてあげるから、とりあえず明日からあっちに移りな。
それから養子の件はともかく、ウチの仕事をこっそり手伝ってくれたらご飯は3食つけてあげる。
あんたたちは子供だし、外聞が悪いから人目につかない裏方仕事しかさせてやれない。多分それなりにきついけど……どうするかい?」
養子の話にはさすがに考え込んだ。
いろいろな事があったとはいえ、俺の父母はやっぱりあの二人だけだ。
それに変装しているとはいえ、故国に近いこの国に長くとどまること自体、とても危険なことなのだ。
しかし『こっそりと人目につかない場所で働かせてもらう』という条件なら願ってもない。
色々考えると、素性を隠すためにもっと故郷の国から離れたかったが、それにしても年が足りない。お金も。
でもあと1年でもここで隠れて働くことができれば、俺は14歳を過ぎ、背だってもっとずっと高くなる。
年齢をごまかして、ここより離れた遠い異国で働く事だって出来るだろう。
俺はおばさんの親切に甘えることとした。
それから1週間、俺とリオンは洗濯掃除に明け暮れた。
仕事はきついといえばきつかったが、おばさんは親切だし、食事はお腹いっぱい食べられる。
今までの過酷さを思えば何でもなかった。
たまに『大国の王子が安宿の洗濯係か……』などということが頭をよぎるが、なるべく考えないことにした。
リオンは意外と楽しそうだった。
こんな苦労をかけて本当に可哀想だったが、本人は苦とも思っていない様子だ。
「洗濯・掃除は得意です!」
と、むしろ張り切っていた。
そしておばさんに仕事の出来を褒められたり、頭をなでてもらったりして、とても嬉しそうだ。
弟の頭を撫でて良いのは俺だけなんだが……と、ちょっとモヤモヤしなくもないが、そこは我慢だ。
こんなに良くしてくれるおばさんに焼きもちを焼くなんて、どう考えてもみっともない。
でも、こんなにも不安な気持ちになるのは『もしリオンの心が俺から離れてしまったら』ということを考えてしまうからなのだろう。
リオンを可愛がってくれる人は、俺以外にもいっぱい居るはずだ。
可憐な容姿に、幼い心。
故国の里の人たちだって、あれほど人見知りなリオンに良くしてくれた。
最後にはリオンだって里の数人に、けっこう懐いていたじゃないか。
リオンが俺から離れていってしまったら、どうしよう。
里の人たちは、それでもいっしょに暮らしていたわけではないから、リオンを取られる心配などはしたことがなかった。
むしろ、弟に良くしてくれてありがたいと思っていた。
でも、今回は違う。
あのおばさんの子供となって、俺と別れてでもここにずっと居たいと言いだしたらどうしよう。
もう俺には、リオンしかいないのに……。
この国の教会は孤児の面倒など見ないらしく、俺たちのみすぼらしい格好を見た神官は、うるさそうに追い出した。
なんという奴らだ。
それなりに収入の入る婚儀などは喜んで引き受けても、貧乏人の世話などまっぴらごめんということらしい。
エセ神官たちめ。
俺の国だったら、こんな事は絶対にないのに。
夜になり、宿のベットに入る。しかし、疲れている割には眠れずにいた。
行く末を思うと、不安ばかりがつのる。
教会だったら、たとえ俺たちがエルシオンの王子でも、そ知らぬふりでかくまってくれると思っていたのに。
喜んで手を差し伸べてくれると思っていたのに。
国の中で一番慈悲深いはずの神官たちでさえも、慈悲の欠片さえなかった。
一般の民ならなおさら無いことだろう。
手持ちのお金が尽きたら、俺たちはどうなってしまうのだろう?
悶々と悩んでいたら、部屋をノックする音がした。
音に気づいたリオンもムクリと起き上がり、警戒の色を浮かべる。
「あたしだよ。開けておくれ」
聞き覚えのあるその声は、昼間少ししゃべったこの宿の女主人のものだった。
ドアをあけると、例のおばさんがすまなさそうに立っていた。
「昼間は冷たい事言ってごめんよ。
でも、あたしもあれから色々考えたんだ。
この国は15才未満の子供の労働は、認められてない。
けれど、親や親族の店を手伝うことだけは許されているんだ。
もし、本当に身寄りがないのだったら、おばさんの子供になって働かないかい?
私には娘が一人いたんだけど、なくしちまってね。あんたたちみたいな可愛い子供ができたら、あたしも寂しくなくなるような気がするよ。
まぁウチは見てのとおり貧乏宿屋だから、贅沢はさせてあげられない。
けれど、あんたたちを食べさせていくことぐらいなら、出来ると思うよ?」
俺とリオンは、いきなりのことにびっくりして、すぐには口も利けなかった。
「まあ、すぐに返事なんて出来ないだろうから、ゆっくり考えといておくれ。
そうそう、ウチみたいな安宿に来るぐらだから、お金、あんまりないんだろ?
屋根裏部屋でよかったらタダで泊めてあげるから、とりあえず明日からあっちに移りな。
それから養子の件はともかく、ウチの仕事をこっそり手伝ってくれたらご飯は3食つけてあげる。
あんたたちは子供だし、外聞が悪いから人目につかない裏方仕事しかさせてやれない。多分それなりにきついけど……どうするかい?」
養子の話にはさすがに考え込んだ。
いろいろな事があったとはいえ、俺の父母はやっぱりあの二人だけだ。
それに変装しているとはいえ、故国に近いこの国に長くとどまること自体、とても危険なことなのだ。
しかし『こっそりと人目につかない場所で働かせてもらう』という条件なら願ってもない。
色々考えると、素性を隠すためにもっと故郷の国から離れたかったが、それにしても年が足りない。お金も。
でもあと1年でもここで隠れて働くことができれば、俺は14歳を過ぎ、背だってもっとずっと高くなる。
年齢をごまかして、ここより離れた遠い異国で働く事だって出来るだろう。
俺はおばさんの親切に甘えることとした。
それから1週間、俺とリオンは洗濯掃除に明け暮れた。
仕事はきついといえばきつかったが、おばさんは親切だし、食事はお腹いっぱい食べられる。
今までの過酷さを思えば何でもなかった。
たまに『大国の王子が安宿の洗濯係か……』などということが頭をよぎるが、なるべく考えないことにした。
リオンは意外と楽しそうだった。
こんな苦労をかけて本当に可哀想だったが、本人は苦とも思っていない様子だ。
「洗濯・掃除は得意です!」
と、むしろ張り切っていた。
そしておばさんに仕事の出来を褒められたり、頭をなでてもらったりして、とても嬉しそうだ。
弟の頭を撫でて良いのは俺だけなんだが……と、ちょっとモヤモヤしなくもないが、そこは我慢だ。
こんなに良くしてくれるおばさんに焼きもちを焼くなんて、どう考えてもみっともない。
でも、こんなにも不安な気持ちになるのは『もしリオンの心が俺から離れてしまったら』ということを考えてしまうからなのだろう。
リオンを可愛がってくれる人は、俺以外にもいっぱい居るはずだ。
可憐な容姿に、幼い心。
故国の里の人たちだって、あれほど人見知りなリオンに良くしてくれた。
最後にはリオンだって里の数人に、けっこう懐いていたじゃないか。
リオンが俺から離れていってしまったら、どうしよう。
里の人たちは、それでもいっしょに暮らしていたわけではないから、リオンを取られる心配などはしたことがなかった。
むしろ、弟に良くしてくれてありがたいと思っていた。
でも、今回は違う。
あのおばさんの子供となって、俺と別れてでもここにずっと居たいと言いだしたらどうしよう。
もう俺には、リオンしかいないのに……。
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