60 / 437
第8章 奴隷奪還
3.奴隷奪還
しおりを挟む
装備を整え、里を出発した俺たちは、エルシオンの民たちを救い出すために街道へと急いだ。
俺は護身用の短剣しか持っていなかったので、死んだ敵兵が残した剣の中から良さそうな物を選んで腰につけている。
それとは別に、数本の剣を用意して入念に手入れをしておいた。
血まみれの剣は、そのままでは切れ味が悪く、使い物になりはしない。
手入れをしながら『これで人を殺すのか』と気が重くなったが、手加減などしている余裕は無い。殺らなければ殺られるだけだ。
もう、俺に逃げ道は無い。
魔獣ヴァティールは、そのままリオンの魔剣エラジーを引きついだ。
特に手入れをしているようには見えなかったが、魔剣というのは普通の剣とは大きく異なるらしい。
そうこうするうちに、昼はとっくに過ぎた。
森側から街道に近づき、まずは携帯食を食みながら少し休む。
それからヴァティールと共に『ある作業』を済ます。
あとは、民たちがここを通るのをただひたすら待つだけだ。
ヴァティールは目だけでなく耳も人間のものより良いらしく、神経を集中させれば、半径20キロル以内の音を捉えることが出来るという。
監視の役目は、この魔獣に任せれば大丈夫と判断した。
しかし一行はまだ近辺には居ないようで、時々鳥や動物の声が聞こえるのみだ。
青々とした木々は体や武器を隠すのにちょうど良いが、特にすることもなく待つ……というのも、これはこれで疲れるものだ。
「ちょっと行ってくる」
魔獣ヴァティールが待ち疲れたのか、立ち上がった。
「ああ、じゃあ俺も」
何気なくそう言って後に続こうとすると、魔獣は赤い瞳で俺を睨みつけた。
「何が悲しくて人間なんかと連れションしなければならないのだ。
ついてくるな、しっしっ!!」
まるで野良犬か何かを追い払うような仕草でうっとうしげに俺をあしらうと、ヴァティールはすたすたと森の奥に行ってしまった。
俺はがっくりとうなだれた。
あの上品で可憐な俺の弟が……。
鈴の音のような声ではにかみながら喋る、天使のような弟が……。
中身は別とわかっていても、あの顔で、あの声で言われると本当に落ち込む。
今、リオンはあの体の中で眠り続けているという。
目覚めるのは、いつの日なのだろう?
早く目覚めて欲しい。
あの日のことを心からわびて、そして思いっきり抱きしめてやるのだ。
そんな事をぼんやりと考えている間に、随分と時が経ってしまった。
ヴァティールはまだ戻ってこない。
どうしたのだろう。
まさか大の方なのか?
いや、それにしても遅すぎる。
俺は護身用の短剣しか持っていなかったので、死んだ敵兵が残した剣の中から良さそうな物を選んで腰につけている。
それとは別に、数本の剣を用意して入念に手入れをしておいた。
血まみれの剣は、そのままでは切れ味が悪く、使い物になりはしない。
手入れをしながら『これで人を殺すのか』と気が重くなったが、手加減などしている余裕は無い。殺らなければ殺られるだけだ。
もう、俺に逃げ道は無い。
魔獣ヴァティールは、そのままリオンの魔剣エラジーを引きついだ。
特に手入れをしているようには見えなかったが、魔剣というのは普通の剣とは大きく異なるらしい。
そうこうするうちに、昼はとっくに過ぎた。
森側から街道に近づき、まずは携帯食を食みながら少し休む。
それからヴァティールと共に『ある作業』を済ます。
あとは、民たちがここを通るのをただひたすら待つだけだ。
ヴァティールは目だけでなく耳も人間のものより良いらしく、神経を集中させれば、半径20キロル以内の音を捉えることが出来るという。
監視の役目は、この魔獣に任せれば大丈夫と判断した。
しかし一行はまだ近辺には居ないようで、時々鳥や動物の声が聞こえるのみだ。
青々とした木々は体や武器を隠すのにちょうど良いが、特にすることもなく待つ……というのも、これはこれで疲れるものだ。
「ちょっと行ってくる」
魔獣ヴァティールが待ち疲れたのか、立ち上がった。
「ああ、じゃあ俺も」
何気なくそう言って後に続こうとすると、魔獣は赤い瞳で俺を睨みつけた。
「何が悲しくて人間なんかと連れションしなければならないのだ。
ついてくるな、しっしっ!!」
まるで野良犬か何かを追い払うような仕草でうっとうしげに俺をあしらうと、ヴァティールはすたすたと森の奥に行ってしまった。
俺はがっくりとうなだれた。
あの上品で可憐な俺の弟が……。
鈴の音のような声ではにかみながら喋る、天使のような弟が……。
中身は別とわかっていても、あの顔で、あの声で言われると本当に落ち込む。
今、リオンはあの体の中で眠り続けているという。
目覚めるのは、いつの日なのだろう?
早く目覚めて欲しい。
あの日のことを心からわびて、そして思いっきり抱きしめてやるのだ。
そんな事をぼんやりと考えている間に、随分と時が経ってしまった。
ヴァティールはまだ戻ってこない。
どうしたのだろう。
まさか大の方なのか?
いや、それにしても遅すぎる。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
子悪党令息の息子として生まれました
菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!?
ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。
「お父様とお母様本当に仲がいいね」
「良すぎて目の毒だ」
ーーーーーーーーーーー
「僕達の子ども達本当に可愛い!!」
「ゆっくりと見守って上げよう」
偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる