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第4章 鳥篭の外へ

5.鳥篭の外へ

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 次の日の早朝、俺は用意していた下働きの少年用の服を持ってリオンの所に行った。

 本当は『正当な王子』として仕立ての良い立派な服を選んでやりたかったが、目立ってしまうのでそうもいかない。

 リオンはずっと、存在を隠されて育ってきた。
 王でさえ、その姿を目にしたことは無いという。

 ならば、下働きの少年の格好をさせてうつむかせ、密かに連れ出せば、いぶかしむ者はいないはず。


「え、これを僕に……?」

 渡された服を触ったリオンは、驚きの声を上げた。

「ああ。もうお前をいじめるクロスⅦはいない。早くこの服を着てみてくれ」

「……は、はい、兄様。神官服以外のお衣装、初めて着るので緊張します」

 そう言って弟は、おずおずと神官服を脱ぎ始めた。

 俺たちは兄弟だし、別に着替えの場に同席していてもいいはず。
 だからそのまま何となく見ていたのだが……服を脱いでも、リオンはまるで女の子みたいだった。

 肌の色はとても白く、透き通るよう。
 それなのに所々ほのかに色づいていて、何だかドキドキさせられる。 

 どうしたんだ俺!!
 リオンは弟っ!!

 何で赤面しなきゃならないんだよ!!
 ありえないだろっ!!

 心の中で自分に突っ込みを入れながら、目をギュッと瞑って顔を背ける。

 アレは弟! 弟! 弟!
 心の中で百回ぐらい呟いてみる。
 それでもドキドキが止まらない。

 おまけに性別を除けば、今まで夢見ていた『俺の理想の相手』の条件にバッチリ当てはまることにまで気がついてしまった。

 でも――――――それでもアレは、弟なのだ。

 心を落ち着かせるために、別のことを考える。
 昨日の夕食は、魚料理が美味しかった。
 近隣を流れるレグルス川は魚の宝庫で、様々な魚料理が考案されては食卓に乗る。

 昼食は、旬の山菜をつかったエスクレプ風の盛合わせが目にも鮮やかで美味かった。
 友人の中には野菜嫌いの奴もいたが、俺は野菜はむしろ好きな方。
 もちろん、肉や魚だって大好きだが。

 朝食は……えっと、特に珍しいものは出てこなかったな。

 おとといの夕食は……という具合に、一生懸命ここ10日ほどのメニューを思い出していく。

 その途中、

「……兄様」

 弱々しく呼ばれて思わず振り、また赤くなる。

 これはマズイ。
 何だかマズイ。

 渡した服を下着姿のまま抱えた弟は、なんかとてつもなくドキドキさせる風情で、俺はどうして良いのかわからなくなる。

「あの兄様……お恥ずかしいのですが、いただいた服の着方がわかりません。
 どのようにしたら良いのでしょうか…………?」

 こんな基礎的なことも知らなかった事が余程恥ずかしかったのか、リオンは真っ赤になって立ち尽くしている。

 えっと…………この場合は、手伝うのが正解なんだよな…………?
 でも、どうしよう。

 なるべく弟の肌を見ないよう、注意して着せていくが、ドキドキが止まらない。

 教育係エドワードの、

「実の弟の下着姿を見て、ドキドキするような変態に育てた覚えはありません」

 という、冷たい空耳が聞こえたような気がした。

 うわ~ん、誤解だっ。
 誤解なんだってば!!

 それでも服を着せてしまうと、動悸は徐々に静まってきた。
 ホッとして改めて弟を見る。

 結論から言おう。
 リオンに手渡した服は、リオンには全く似合わなかった。

 城の少年たちがよく着る、一般的なものを選んだつもりだったけど、どう見ても女の子が男装してるようにしか見えない。

 せめて肌の色がもう少し黒ければ…いや、腰まであるふわふわの長い髪が悪いんだろうな、きっと。

 思いきって、髪を短くしてしまうか!?
 でも切るには惜しい、綺麗な髪だ。

「あの……兄様?」

 黙りこくった俺に、不穏なものを感じたのだろう。
 リオンがおずおずと口を開いた。

「……やっぱり……おかしかったでしょうか?
 クロスⅦは『兄様はとても美しい方』だとおっしゃっていました。でも僕は、きっと醜いのでしょうね。
 ごめんなさい。醜い弟で……」

 そう言うとリオンは、悲しげにシクシクと泣き出した。
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