上 下
429 / 437
再会小話4・リオンのトホホ外伝 

再会小話4・リオンのトホホ外伝 5

しおりを挟む
「兄様はね、『じゃあ、昔の約束通り……俺と結婚する?』と僕にプロポーズして下さったのですっ!!」

 その言葉を受けて、エルがずいと進み出る。

「いや~。やっぱり運命って言うのかなぁ?
 俺とリオンは、どんな障害があっても共に歩み続ける運命だったんだよ。
 兄として見守っていこうと決心してたけど、運命なら仕方ないよな。あはは~!」

 仕方ないと言いつつ、やけに嬉しそうにエルが笑う。

 途中まではそれなりの兄だったようだが、愛しの弟に女をあてがうストレスは、毎日洗面器いっぱいの血を吐くほどのものだったろう。
 その反動で、想い叶った今は、以前を更に上回る強烈なアホになったのだろうか……?

「それに後になって気がついたけど、リオンって年の取り方が明らかにゆっくりなんだよな~。
 聞いてみたらクロスⅥやⅦ、代々の神官たちもそうだったみたいだし、いつまでも少女みたいでさ。
 だからそもそもリオンが普通の女性と付き合い続ける事は不可能だったんだ。
 容姿があんまり変わらないから、一箇所に5年以上住むことも出来ないし」

「ええ、でも僕は兄様さえ一緒に居てくだされば、どこに住んでも幸せです。
 女の子達に振られたときも、よく考えたらちっとも悲しくなかったし、兄様と一緒が一番ですっ!!」

 その後奴らは2時間も部屋に居座った挙句、ラブラブと帰っていった。

 え~っと。やつ等の用事は何だったっけ?

 確かワタシに『謝りたい』とか言ってなかったかァ?
 結局ノロケだけ聞かせて帰りやがって。

 そう思ってふと見ると、可愛らしくラッピングされた焼き菓子が、お詫びのメッセージとともに置かれていた。
 開けて食ってみると、舌がとろけそうな美味さだった。
 なるほど。
 カノジョたちの顔色も悪くなろうと言うものだ。女子力高過ぎにも程がある。

 でもリオンはきっと、相手に喜んで欲しくて一生懸命作ったのだろうなァ。

 そういえば、アリシアやエリスもよくワタシに手料理を作ってくれたものだった。
 かつての楽しい思い出がよみがえる。

 もし外に連れ出す事が出来ていたら、アッシャもあのようだったろうか?
 アリシアやエリス……そして、リオンのように笑い、料理を作ったりしたのだろうか?

 地下神殿の閉ざされた一室で、かくれんぼをしていた娘を思い出す。
 少ない家具の陰で、じっと隠れていた幼い娘を。

 しゃがんで、丸くなって、じっと目をつぶって……それで隠れているつもりだった可愛い娘を。

 ああ…………ワタシは娘さえ幸せであれば、他には何もいらなかったのに。

 アースラには、そんな気持ちはきっとわからない。
 ヤツは自分を慕う神官も、実の妹さえも実験に使っていた。

 親友と妹の間に出来た娘、アッシャのことだって。

 大切にすべき者たちを踏みつけてまで目指したものは、かりそめの平和。
 ワタシたちの種族からすれば、一夜の出来事のように感じられる、刹那の平穏。

 ……それでもふと、思う事がある。

 もしもあの時、アースラの願いを叶えてやったなら、何かが変わっていたのだろうか?
 すがるような、あの幼い瞳を思い出す事がある。

 ワタシには、人間の本当の苦労はわからない。

 生まれ持った力は強く、ワタシを害せる者はほとんどいない。

 老いもしないし、死にもしない。
 空を飛び、気ままに暮らす。

 アースラがワタシを捕らえたとて、時はワタシを殺さないが、アースラはそれに殺された。

 時間が無かったが故の暴走だったのかもしれない。
 アレはそれでも、ただの人間だったから。

 ――――――今、オマエが持ちたかったであろう能力をすべて備えたリオンが生き続けている。

 もしオマエがここにいたなら、問うてみたい。
 オマエの志を受け継ぎながらも自分の愛する人を大切にし、幸せをつかんだリオンに、オマエは何と声をかけるのか。

 その幸せを喜ぶのか、『私欲に走った』と貶めるのか。

 オマエがその問いに答えてくれるまで、ワタシはまだオマエという名の檻に囚われたままなのかもしれない。


 Fin


今回もありがとうございました!!
外伝もずいぶん長く書きましたが、次の外伝で最終です。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て運命の相手を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ──────────── ※感想、いいね大歓迎です!!

【完結】我が侭公爵は自分を知る事にした。

琉海
BL
 不仲な兄の代理で出席した他国のパーティーで愁玲(しゅうれ)はその国の王子であるヴァルガと出会う。弟をバカにされて怒るヴァルガを愁玲は嘲笑う。「兄が弟の事を好きなんて、そんなこと絶対にあり得ないんだよ」そう言う姿に何かを感じたヴァルガは愁玲を自分の番にすると宣言し共に暮らし始めた。自分の国から離れ一人になった愁玲は自分が何も知らない事に生まれて初めて気がついた。そんな愁玲にヴァルガは知識を与え、時には褒めてくれてそんな姿に次第と惹かれていく。  しかしヴァルガが優しくする相手は愁玲だけじゃない事に気づいてしまった。その日から二人の関係は崩れていく。急に変わった愁玲の態度に焦れたヴァルガはとうとう怒りを顕にし愁玲はそんなヴァルガに恐怖した。そんな時、愁玲にかけられていた魔法が発動し実家に戻る事となる。そこで不仲の兄、それから愁玲が無知であるように育てた母と対峙する。  迎えに来たヴァルガに連れられ再び戻った愁玲は前と同じように穏やかな時間を過ごし始める。様々な経験を経た愁玲は『知らない事をもっと知りたい』そう願い、旅に出ることを決意する。一人でもちゃんと立てることを証明したかった。そしていつかヴァルガから離れられるように―――。  異変に気づいたヴァルガが愁玲を止める。「お前は俺の番だ」そう言うヴァルガに愁玲は問う。「番って、なに?」そんな愁玲に深いため息をついたヴァルガはあやすように愁玲の頭を撫でた。

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

目覚めたそこはBLゲームの中だった。

BL
ーーパッパー!! キキーッ! …ドンッ!! 鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥ 身体が曲線を描いて宙に浮く… 全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥ 『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』 異世界だった。 否、 腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

処理中です...