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王子と魔獣・if(外伝)

王子と魔獣・if(外伝)4

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 次に王。

 王もいつも僕に優しかった。
 どんなに忙しくても、お茶を吹きながらでも、僕の馬鹿馬鹿しい話をいつも穏やかに聞いて下さった。

 あの頃の僕は兄様以外の人間に心許すことは出来なかったけれど、それでも王は僕を大切にして下さっていたように思う。

 僕が『戻った』事に気がつかなかったのは、単に結婚式の司会で忙しかったからだ。

 だから拗ねてないで……気づいてもらえなかったのなら、そもそも僕の方からちゃんと言えば良かったのだ。

 そう気づいたときも、夢は形を大きく変えた。

 何ということだろう。
 自分からは何一つ言わず、なのに気づいてもらえなかっただけであそこまで逆切れするとは……。
 顔から火が出るほど恥ずかしい。

 それでも、あの場に居た優しい人たちを誰も殺していなかった事が本当に嬉しいな。

 だけど兄様は…………。

「兄様は、幸せだった?
 僕が居ない間も、幸せに暮らしていた?」

 兄様は、少し迷ってから口を開いた。

「ああ。とても。とても幸せだった」

 その言葉にやっぱり胸は痛むけれど、兄様が幸せでいてくれて良かったという思いの方が強い。

 兄様に幸せを感じさせてくれたのは、きっとアリシアさん。
 そして、その子供たちなのだろう。

 すぐに泣いちゃう兄様が幸せであったのなら、僕は彼女やその子供たちに一生感謝できる。
 素直にそう思った。

「でも俺は、一度たりともお前を忘れたことは無い。
 お前がとても大事だという想いも、今も昔も変わらない。」

 兄様が、真剣なまなざしで僕を見る。

「はい。わかっていますよ」

 そう言うと、兄様は嬉しそうに笑った。
 とても、綺麗な笑顔だった。

「それでも俺は、かつてお前を殺した。
 俺を許せないのなら、今度はお前が俺を好きなようにすればいい。
 気の済むまで、何度でもお前に殺されてやるから」

 穏やかな瞳で語りかける兄様に嘘はない。
 たとえ僕が兄様を切り刻んだとしても、兄様は幸せそうに微笑んだままそれを受け入れることだろう。

 でも、今では僕もちゃんとわかっている。
 兄様が僕を刺したのは、僕が不要になったからではない。

 僕を罪から守るためだ。

 国の罪無き人々を一方的に虐殺するという、大罪を犯させないためだ。

 それでも兄様が、何でも僕の好きにさせてくれるというのなら…………やってみたいことがある。

「それではしばらくの間、目をつぶっていてください」

 言われて兄様は目を閉じる。


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