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葬送(ヴァティール視点外伝)

葬送(ヴァティール視点外伝)10

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 しかし、そうはならなかった。

 エルの体は氷結されたまま、ごく少数の者に弔われただけだった。
 その後はすぐに、飾り気の無い質素な木棺に入れられる。

 そうして、大聖堂の地下に安置された。

 ワタシは意識を飛ばし、しばらくそれを見守っていた。
 しかし下手糞な魔道士がかけた魔法は数日で解け、エルは若い姿で元気良く蘇った。

 どうするのかなとこっそり野次馬していたら、予想通り――――――奴はリオンの棺に滑り込んだ。

 相変わらずのブラコン野郎だ。
 それは、死んでも変わらないらしい。

 でも……それでもエルは、アリシアを『心から』愛してはいたのだろう。

 次世はリオンの元へと決めていたとしても、心はアリシアを深く求め、アリシアと共に過ごし、歴史を刻んだその体を捨てがたかったのだろう。

 そんな事を思いながら、ワタシはふと大鏡に映った自分の姿に目を凝らした。

 アリシアは美しい娘だった。
 長いつややかな栗色の巻き毛。肌は白く、陶磁器のようにきめ細かい。
 唇はばら色で、城のどんな女より美しかった。

 鏡に映る愛娘の姿に、もうその面影はない。

 整えられてはいるものの、髪はパサパサとした白髪。
 黒ずんだしみがいくつも浮き出た肌に、土気色の唇。
 腰もややまがり、この姿を綺麗だと言う者は、世界中探したってもうどこにも居ないだろう。

「……それでもオマエは美しいなァ」

 ワタシは、エルがいつもしていたように愛娘の頬を撫でた。

 こんな姿になっても娘は可愛い。
 可愛くてたまらない。

 きっと、夫であるエルも同じ思いだったのだろう。

 でも今、エルはもう、あの弟のものだ。
 執念ともいえる凄まじい愛情で、兄をとうとう手に入れた―――――あの弟の。

「アリシアを返してもらうぞ。
 そして…………ワタシの愛しい娘を大切にしてくれてありがとう」

 呟いたワタシは、もう二度と振り向かなかった。

 Fin




今回も読んで下さってありがとうございます。
基本コメディーなのですが、ラストだけはしんみりでした。

普段は勘違い野郎のエルですが、それでも今回はアリシアとヴァティールを見分けていたようです。
実はけっこう初期からわかっていたりします。
ヴァティールはバレて無いつもりでしょうが、けっこう不信な点もあったでしょうし。試すような事も何度もしています。
以前はリオンとヴァティールを何度も間違えたエルですが、少しは成長したかもですね。
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