376 / 437
アリシア外伝2 掴む手
アリシア外伝2 掴む手 12
しおりを挟む
エリス姫の時には散々泣いたヴァティール様は、私の結婚式では泣かなかった。
口数少なく、ただ微笑んでらっしゃるだけだ。
手には白いバラの花。
「当日手渡すのは、オマエにふさわしい花だ。
楽しみにしておけよ」
ヴァティール様が式の前日におっしゃったのは、そんな言葉。
……私の手は、赤く汚れている。
それはすでにご存知のはずだったのに、ヴァティール様が選んだのは、白だけで占められた花束だった。
ヴァティール様が近づいてくる。
エルに愛を誓った私を祝福するために。
彼は相変わらず黙ったままで、花束を持ったまま私を見上げて止まった。
その瞬間、気がついた。
違う。ヴァティール様ではない。これはリオンだ。
どうして今、彼が蘇ったのか私にはわからない。
でも微笑をたたえ、花束を渡そうとしているのは彼なのだ。
もしかしてこれは、ヴァティール様からのエルに対するプレゼント?
そんな話は聞いてないけれど、優しい彼なら、一時体を返すぐらいの事はやりそうだ。
良かったねエル。良かったねリオン。
リオンの代わりに連れてきた縫いぐるみは、もう戻してしまおう。
だって本人が私たちを祝いに来てくれたのだもの。
ああでも、今日はリオンの誕生日。
リオンの生還パーティーと、誕生日祝いをまず優先しなくちゃね。
結婚式の続きより、そっちの方が重要に決まっている。
『お帰り』と、笑顔でそう言おうとした時――――――冷たい言葉が放たれた。
「おめでとう……兄様」
それは、祝福の言葉などではなかった。
凍てつくような『呪いの言葉』だ。
鋭い痛みが胸をえぐる。
血がほとばしり、真っ白だった花束は、赤く染まった。
まるで、私の罪を映したかのように。
ああ、私は馬鹿だった。
祝福されると思っていた。
許されると思っていた。
だって私は、私なりに頑張った。
奴隷に落とされ、初恋も諦めて、でも幸せになろうと……誰かを幸せにしようと頑張った。
リオンの大切なエルだってほら、また笑えるようになったのよ?
エルには期待させてから失望させないよう黙っていたけれど、ヴァティール様は王に、自分の『本体』を探るよう頼んでいらした。
何年かかるかなんてわからない。
でもいつか、ヴァティール様が『自分の本体』を見つけて今の体をリオンに返したら、その時はリオンが大好きだった、太陽のように明るい彼を返してあげられる。
…………そのはずだったのに。
口数少なく、ただ微笑んでらっしゃるだけだ。
手には白いバラの花。
「当日手渡すのは、オマエにふさわしい花だ。
楽しみにしておけよ」
ヴァティール様が式の前日におっしゃったのは、そんな言葉。
……私の手は、赤く汚れている。
それはすでにご存知のはずだったのに、ヴァティール様が選んだのは、白だけで占められた花束だった。
ヴァティール様が近づいてくる。
エルに愛を誓った私を祝福するために。
彼は相変わらず黙ったままで、花束を持ったまま私を見上げて止まった。
その瞬間、気がついた。
違う。ヴァティール様ではない。これはリオンだ。
どうして今、彼が蘇ったのか私にはわからない。
でも微笑をたたえ、花束を渡そうとしているのは彼なのだ。
もしかしてこれは、ヴァティール様からのエルに対するプレゼント?
そんな話は聞いてないけれど、優しい彼なら、一時体を返すぐらいの事はやりそうだ。
良かったねエル。良かったねリオン。
リオンの代わりに連れてきた縫いぐるみは、もう戻してしまおう。
だって本人が私たちを祝いに来てくれたのだもの。
ああでも、今日はリオンの誕生日。
リオンの生還パーティーと、誕生日祝いをまず優先しなくちゃね。
結婚式の続きより、そっちの方が重要に決まっている。
『お帰り』と、笑顔でそう言おうとした時――――――冷たい言葉が放たれた。
「おめでとう……兄様」
それは、祝福の言葉などではなかった。
凍てつくような『呪いの言葉』だ。
鋭い痛みが胸をえぐる。
血がほとばしり、真っ白だった花束は、赤く染まった。
まるで、私の罪を映したかのように。
ああ、私は馬鹿だった。
祝福されると思っていた。
許されると思っていた。
だって私は、私なりに頑張った。
奴隷に落とされ、初恋も諦めて、でも幸せになろうと……誰かを幸せにしようと頑張った。
リオンの大切なエルだってほら、また笑えるようになったのよ?
エルには期待させてから失望させないよう黙っていたけれど、ヴァティール様は王に、自分の『本体』を探るよう頼んでいらした。
何年かかるかなんてわからない。
でもいつか、ヴァティール様が『自分の本体』を見つけて今の体をリオンに返したら、その時はリオンが大好きだった、太陽のように明るい彼を返してあげられる。
…………そのはずだったのに。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
子悪党令息の息子として生まれました
菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!?
ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。
「お父様とお母様本当に仲がいいね」
「良すぎて目の毒だ」
ーーーーーーーーーーー
「僕達の子ども達本当に可愛い!!」
「ゆっくりと見守って上げよう」
偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる