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アリシア外伝2  掴む手

アリシア外伝2  掴む手 11

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 そんな日々を送るうちに、いつしか人々は、ヴァティール様とリオンを『別物』として認識するようになっていった。

 怒らせると怖いけど、陽気で楽しいヴァティール様。
 彼が『優しい』ということは、私が言うまでもなく人々も気付いていった。

 出歩けば、誰かが声をかける。
 ヴァティール様も、それに気軽に応える。

 いつしか彼は、城の皆の人気者となっていた。
 そして私とエリス姫の事を、嬉しそうに『娘』と公言するのだ。

 私は父親を知らない。

 だからお父さんが出来たようで嬉しかったし、元々父親と触れ合う機会が少なく、捨てるようにわが国に追いやられたエリス姫も、無邪気にヴァティール様の言葉に喜んでいた。

 この頃にはヴァティール様の事を悪く言う人はほとんど居なくて、私たちはとても幸せだった。

 でも、エルは?

 彼には弟の死を悲しんでくれる人も、ヴァティール様を悪く言ってくれる人も、居なくなった。
 昔は太陽のように明るい子だったのに、口数も少なくなり、皆に合わせて笑うことはあっても、目だけはどこか冷めたままだ。

 そんな兄の悲しい姿は、きっとリオンだって望んでいない。
 あの子は『兄の笑顔』が大好きだったのだから。


 悩み多きまま時はたち、エルはいつのまにか大人の男となっていた。
 そうして私はなぜか、彼と結婚することになっていた。

 以前私が高熱を出したとき、ヴァティール様は白湯やリンゴのすりおろしを勧めて下さったけど……エルはでっかいステーキを焼いて持ってきた。

 その瞬間、

『コイツ、どんなに顔が良くとも女には逃げられる』

 と確信していたのだが、そんな彼からのプロポーズを私は受けた。

 最初に会った頃の彼はホンノ子供で、こんなことになるとは思ってもみなかった。
 背だって私よりずっと低くて、生意気な小僧だったのに。

 彼に寄り添ったのは、同情からだったかもしれない。
 可哀想で、見ていられなかっただけかもしれない。
 リオンの代わりに、守ってあげたかっただけなのかもしれない。

 でも、一番の理由は多分ヴァティール様だ。

 彼は私の父親代わりとなって下さったけど、私は、そんな優しいヴァティール様をいつの間にか愛してしまった。

 永遠に『小さな少年』である魔物のヴァティール様を想ったところで、報われはしない。
 それが苦しくて、他の誰かを愛してみたかったのかもしれない。

 エルは私と同類だ。
 今でこそすっかり落ち着き、国にとってなくてはならない存在となっているが、とても罪深い過去を持ち、その両手は血にまみれている。

 そんな私たちは、お互いに愛を誓いながらも、私は心の奥底で一番にヴァティール様を想い、エルは亡き弟リオンを想う。

 人に知られたなら、なんと酷い関係なのだ―――と言うだろう。

 それでも私達は互いに深く愛し合い、支えあった。
 これから幸せにだってなれるはずだ。

 一人ずつでは決して得られない『安息』を得られるはずなのだ。


 
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