338 / 437
外伝・アルフレッド王編・夢の国の果て
アルフレッド王編・夢の国の果て 11
しおりを挟む
そうして月日が経ち、私は『新ブルボア王国』を立ち上げることに成功した。
いざとなったら切り捨てても良いと考えていたエル王子は、予想を遥かに上回る優秀さであった。
流石に大国の王子として教育されてきただけはある。
ブルボア王国設立のために、たいした貢献を果たしてくれた。
もちろん、国を立ち上げるまでには様々な困難があった。
それをエル王子たちと共にくぐり抜け、今は全領土を奪還し、試行錯誤しながら治めている。
しかし、ふとしたときによぎるのは過去の幻影。
領土を取り戻しても、もう……この地には父母も弟たちもいない。
正妃様もいない。
名は残したものの、全然別の国になってしまった。
あの時『国のために何も出来なかった』私が残るのみだ。
エルは出世し親衛隊長となったが正体はいまだアレス帝国にバレてはいない。
髪は初期から染めさせ、年齢は偽装し、写真集を出すときに出身地や身分なども全部こちらの都合の良いように改変させておいた。
そして『ブラコンを極めた美形の兄』『美しき女戦士アリシアのいとこ』として華やかに売り出したことが功を奏したようだ。
下手に隠すより、この方が良いのだ。
アレス王国より遠く離れた、地味な地方勢力である我が領地。
探索隊はここにもやって来たが、予想通り、彼らは末端構成員であった。
年少の王子がひっそりと隠れ住めそうなところをしらみつぶしに探した後、次の任地にさっさと移っていった。
そうしてまた時はたち、エルは今、休職して弟リオンと二人、地下神殿で穏やかに暮らしている。
国が成立して間もない今は人手が足りない。
エルはブラコン過ぎて一見そうは見えないが、重要な仕事を任せても素早く正確にこなす。
リオンは幼い外見に反して桁外れの戦闘力を持っている。
遊ばせておくのは資源の無駄使い。そう考えた部下たちから相当の反対があったが、私は二人を休ませてやりたかった。
……特にリオンを。
ただし、リオンが何者なのかはいまだにわからない。
初期には『姉』だと名乗っていたアリシアの方の素性は調べがついたが、エルたちとはエルシオンが滅んだ後に出会っただけらしい。
影で調べたことは本人たちには明かしていないが、アリシアは某国公爵の奴隷侍女として凄惨な人生を送ってきたとのこと。
異様に肝が据わっているうえ有能なのは、どうやらそのせいのようだ。
でもリオンの素性だけは、どの線から調べても欠片さえ出てこない。
あれだけの容姿なら、さぞや目立つ存在であったろうに。
正体は不明だったが、二人は確かに兄弟だった。
お互いを強く想い合い、幼い頃は結婚の約束までしていたという話だから、本当の兄弟ではなくとも近しい存在であることだけは間違いないだろう。
そんなリオンを見て思い出すのは、亡くなった我が弟。
かばってやる事も想ってやることも出来ず、恐怖と苦痛のうちにさらし者となって死んでいったあの弟のことだ。
リオンは弟とは違う方面ではあるが、かなり抜けたところがある。
その幼さはどうしても弟を思い起こさせる。
しかしながら彼は、見た目とはかけ離れた戦い方をするため皆に恐れられ忌まれていた。
でも私は、リオンが本当は心優しいことを知っている。
『優しさ』というのは『争わない』と言うことと同義であるだろうか?
いや、違う。
腕のある剣士だと皆に知られていたとしても、あの幼さであれば『リオンが戦場に行かぬこと』に誰もが納得しただろう。
安全な城中から兄の武運を祈り、綺麗に過ごすことも出来たはず。
なのに、あの子はそうしなかった。
常に最前線に出て、どんな危険も厭わずに戦った。
兄の安寧を勝ち取るために。
私は『優しさ』というものは、こういう事を言うのだと思う。
危険の及ばぬところで優しげに微笑んでさえいれば、彼は誰にも悪くは言われなかっただろう。
『死神』という悪名をとどろかせる事も無かった。
そう、争うことが嫌で辺境に隠れ住んだ私が『優しい無欲な領主』という評判を得たように。
だが、覚悟があるのなら別だ。存分にやれば良い。
後になって悔やむぐらいなら『出来る事をやるべき時に』存分にするべきなのだ。
彼にはそれだけの能力があるのだから。
いざとなったら切り捨てても良いと考えていたエル王子は、予想を遥かに上回る優秀さであった。
流石に大国の王子として教育されてきただけはある。
ブルボア王国設立のために、たいした貢献を果たしてくれた。
もちろん、国を立ち上げるまでには様々な困難があった。
それをエル王子たちと共にくぐり抜け、今は全領土を奪還し、試行錯誤しながら治めている。
しかし、ふとしたときによぎるのは過去の幻影。
領土を取り戻しても、もう……この地には父母も弟たちもいない。
正妃様もいない。
名は残したものの、全然別の国になってしまった。
あの時『国のために何も出来なかった』私が残るのみだ。
エルは出世し親衛隊長となったが正体はいまだアレス帝国にバレてはいない。
髪は初期から染めさせ、年齢は偽装し、写真集を出すときに出身地や身分なども全部こちらの都合の良いように改変させておいた。
そして『ブラコンを極めた美形の兄』『美しき女戦士アリシアのいとこ』として華やかに売り出したことが功を奏したようだ。
下手に隠すより、この方が良いのだ。
アレス王国より遠く離れた、地味な地方勢力である我が領地。
探索隊はここにもやって来たが、予想通り、彼らは末端構成員であった。
年少の王子がひっそりと隠れ住めそうなところをしらみつぶしに探した後、次の任地にさっさと移っていった。
そうしてまた時はたち、エルは今、休職して弟リオンと二人、地下神殿で穏やかに暮らしている。
国が成立して間もない今は人手が足りない。
エルはブラコン過ぎて一見そうは見えないが、重要な仕事を任せても素早く正確にこなす。
リオンは幼い外見に反して桁外れの戦闘力を持っている。
遊ばせておくのは資源の無駄使い。そう考えた部下たちから相当の反対があったが、私は二人を休ませてやりたかった。
……特にリオンを。
ただし、リオンが何者なのかはいまだにわからない。
初期には『姉』だと名乗っていたアリシアの方の素性は調べがついたが、エルたちとはエルシオンが滅んだ後に出会っただけらしい。
影で調べたことは本人たちには明かしていないが、アリシアは某国公爵の奴隷侍女として凄惨な人生を送ってきたとのこと。
異様に肝が据わっているうえ有能なのは、どうやらそのせいのようだ。
でもリオンの素性だけは、どの線から調べても欠片さえ出てこない。
あれだけの容姿なら、さぞや目立つ存在であったろうに。
正体は不明だったが、二人は確かに兄弟だった。
お互いを強く想い合い、幼い頃は結婚の約束までしていたという話だから、本当の兄弟ではなくとも近しい存在であることだけは間違いないだろう。
そんなリオンを見て思い出すのは、亡くなった我が弟。
かばってやる事も想ってやることも出来ず、恐怖と苦痛のうちにさらし者となって死んでいったあの弟のことだ。
リオンは弟とは違う方面ではあるが、かなり抜けたところがある。
その幼さはどうしても弟を思い起こさせる。
しかしながら彼は、見た目とはかけ離れた戦い方をするため皆に恐れられ忌まれていた。
でも私は、リオンが本当は心優しいことを知っている。
『優しさ』というのは『争わない』と言うことと同義であるだろうか?
いや、違う。
腕のある剣士だと皆に知られていたとしても、あの幼さであれば『リオンが戦場に行かぬこと』に誰もが納得しただろう。
安全な城中から兄の武運を祈り、綺麗に過ごすことも出来たはず。
なのに、あの子はそうしなかった。
常に最前線に出て、どんな危険も厭わずに戦った。
兄の安寧を勝ち取るために。
私は『優しさ』というものは、こういう事を言うのだと思う。
危険の及ばぬところで優しげに微笑んでさえいれば、彼は誰にも悪くは言われなかっただろう。
『死神』という悪名をとどろかせる事も無かった。
そう、争うことが嫌で辺境に隠れ住んだ私が『優しい無欲な領主』という評判を得たように。
だが、覚悟があるのなら別だ。存分にやれば良い。
後になって悔やむぐらいなら『出来る事をやるべき時に』存分にするべきなのだ。
彼にはそれだけの能力があるのだから。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…
攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました
白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。
攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。
なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!?
ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。
遠回りのしあわせ〜You're my only〜
水無瀬 蒼
BL
新羽悠(にいはゆう) 26歳 可愛い系ゲイ
瀬名立樹(せなたつき)28歳 イケメンノンケ
◇◇◇◇◇◇
ある日、悠は職場の女性にセクハラだと騒ぎ立てられ、上司のパワハラにあう。 そして、ふらりと立ち寄ったバーで立樹に一目惚れする。 2人は毎週一緒に呑むほどに仲良くなり、アルコールが入るとキスをするようになるが、立樹は付き合っている彼女にせっつかれて結婚してしまうーー
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
伸ばしたこの手を掴むのは〜愛されない俺は番の道具〜
にゃーつ
BL
大きなお屋敷の蔵の中。
そこが俺の全て。
聞こえてくる子供の声、楽しそうな家族の音。
そんな音を聞きながら、今日も一日中をこのベッドの上で過ごすんだろう。
11年前、進路の決まっていなかった俺はこの柊家本家の長男である柊結弦さんから縁談の話が来た。由緒正しい家からの縁談に驚いたが、俺が18年を過ごした児童養護施設ひまわり園への寄付の話もあったので高校卒業してすぐに柊さんの家へと足を踏み入れた。
だが実際は縁談なんて話は嘘で、不妊の奥さんの代わりに子どもを産むためにΩである俺が連れてこられたのだった。
逃げないように番契約をされ、3人の子供を産んだ俺は番欠乏で1人で起き上がることもできなくなっていた。そんなある日、見たこともない人が蔵を訪ねてきた。
彼は、柊さんの弟だという。俺をここから救い出したいとそう言ってくれたが俺は・・・・・・
黒い春 本編完結 (BL)
Oj
BL
幼馴染BLです。
ハッピーエンドですがそこまでがとても暗いです。受けが不憫です。
DVやネグレクトなど出てきますので、苦手な方はご注意下さい。
幼い頃からずっと一緒の二人が社会人になるまでをそれぞれの視点で追っていきます。
※暴力表現がありますが攻めから受けへの暴力はないです。攻めから他者への暴力や、ややグロテスクなシーンがあります。
執着攻め✕臆病受け
藤野佳奈多…フジノカナタ。
受け。
怖がりで臆病な性格。大人しくて自己主張が少ない。
学校でいじめられないよう、幼い頃から仲の良い大翔を頼り、そのせいで大翔からの好意を強く拒否できないでいる。
母が父からDV受けている。
松本(佐藤)大翔…マツモト(サトウ)ヒロト。
攻め。
母子家庭だったが幼い頃に母を亡くす。身寄りがなくなり銀行頭取の父に引き取られる。しかし母は愛人であったため、住居と金銭を与えられて愛情を受けずに育つ。
母を失った恐怖から、大切な人を失いたくないと佳奈多に執着している。
追記
誕生日と身長はこんなイメージです。
高校生時点で
佳奈多 誕生日4/12 身長158センチ
大翔 誕生日9/22 身長185センチ
佳奈多は小学生の頃から平均−10センチ、大翔は平均+5〜10センチくらいの身長で推移しています。
社会人になったら+2〜3センチです。
幼稚園児時代は佳奈多のほうが少し身長が高いです。
狂わせたのは君なのに
白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる