334 / 437
外伝・アルフレッド王編・夢の国の果て
アルフレッド王編・夢の国の果て 7
しおりを挟む
エルシオン王国で暮らすうちに、僕はよく笑うようになった。
明るくもなった。
そして考え方は根底からひっくり返った。
どの人も親切で、心はいつも安らか。
時々皇太子様たちと城を抜け出し町に遊びに行くこともあったが、庶民たちは皆ニコニコと寄ってくる。
危険な目にあったことなど一度も無い。
護衛もつけていないのに。
豊かで美しくて、まさに理想の国。この世の楽園だ。
人の手によってここまでの国が造れるのなら、僕の国だっていつかはそうなれるかも。
ああ、僕の祖国もこのような優しい国となって欲しい……。
エルシオンに来て一年がたったころ、僕は父上に頼み込んで継承権を廃していただいた。
父王は中々応じてくださらなかったが、そうするのがきっと一番いい。
エルシオン王国レベルで仲良くというのは無理としても、これ以上祖国の皆に争って欲しくはない。
正妃様は、元々は優しい方だった。
そして父の女好きは、最近ほぼ収まってきているという。
後は僕が恨みを捨て、自らの『低き血統』をわきまえて継承権を放棄すれば、正妃様もきっと落ち着かれる。
祖国の妾妃たちも少しは目が覚めて、自分の立場を自覚なさるだろう。
一番の問題は、僕の代わりに世継ぎの座に再び着く『正妃様のお子』のこと。
しかし彼は、他はともかく『性格だけ』は良い。
大きくなるにつれ周りから色々学び、成長するだろうし、優秀な補佐をつければそれなりに世継ぎとしてやっていけるに違いない。
確かにあの子は、僕が故国にいる頃には極めて愚かに見えた。
でもエルシオン王国にいるうちに僕は考えを変えた。
病気の召使の仕事を代わってあげた心優しき王妃様のような事を……そうだ、あの子は最初からしていたではないか。
……慈善団体に(勝手に)寄付をしたり。(後に悪徳団体と判明)
……持病のある侍女の母のために極めて高価な薬を求めたり。(偽薬をつかまされた事が後に判明)
……城外見回りのときに見つけた浮浪者に同情して、分不相応な地位を与えたり。(元々の臣下たちに大不評だったが、正妃様の力でごり押し)
他にも諸々、全く懲りずにやったけど……。
でも優しさに付け込む悪者どもが悪いだけであって、あの子が悪いわけではない。
そうだ、あの子は『地上の楽園エルシオン』に最も近い清らかな心の持ち主。
あの子が王になるのが一番なのだ。
争うなんて馬鹿馬鹿しい。
僕はそう考え、父王に頼み込んで皇太子の地位を廃していただいた。
我侭を聞いてもらう代わりに国に帰らねばならなくなったが、王宮から遠く離れた辺境の土地を頂いたので、そこで無難に過ごせればいい。
ああ、もっと早くにそうすれば良かった。
国に居た頃にその考えに至っていれば、きっと母を失う事だって無かったはずなのに。
明るくもなった。
そして考え方は根底からひっくり返った。
どの人も親切で、心はいつも安らか。
時々皇太子様たちと城を抜け出し町に遊びに行くこともあったが、庶民たちは皆ニコニコと寄ってくる。
危険な目にあったことなど一度も無い。
護衛もつけていないのに。
豊かで美しくて、まさに理想の国。この世の楽園だ。
人の手によってここまでの国が造れるのなら、僕の国だっていつかはそうなれるかも。
ああ、僕の祖国もこのような優しい国となって欲しい……。
エルシオンに来て一年がたったころ、僕は父上に頼み込んで継承権を廃していただいた。
父王は中々応じてくださらなかったが、そうするのがきっと一番いい。
エルシオン王国レベルで仲良くというのは無理としても、これ以上祖国の皆に争って欲しくはない。
正妃様は、元々は優しい方だった。
そして父の女好きは、最近ほぼ収まってきているという。
後は僕が恨みを捨て、自らの『低き血統』をわきまえて継承権を放棄すれば、正妃様もきっと落ち着かれる。
祖国の妾妃たちも少しは目が覚めて、自分の立場を自覚なさるだろう。
一番の問題は、僕の代わりに世継ぎの座に再び着く『正妃様のお子』のこと。
しかし彼は、他はともかく『性格だけ』は良い。
大きくなるにつれ周りから色々学び、成長するだろうし、優秀な補佐をつければそれなりに世継ぎとしてやっていけるに違いない。
確かにあの子は、僕が故国にいる頃には極めて愚かに見えた。
でもエルシオン王国にいるうちに僕は考えを変えた。
病気の召使の仕事を代わってあげた心優しき王妃様のような事を……そうだ、あの子は最初からしていたではないか。
……慈善団体に(勝手に)寄付をしたり。(後に悪徳団体と判明)
……持病のある侍女の母のために極めて高価な薬を求めたり。(偽薬をつかまされた事が後に判明)
……城外見回りのときに見つけた浮浪者に同情して、分不相応な地位を与えたり。(元々の臣下たちに大不評だったが、正妃様の力でごり押し)
他にも諸々、全く懲りずにやったけど……。
でも優しさに付け込む悪者どもが悪いだけであって、あの子が悪いわけではない。
そうだ、あの子は『地上の楽園エルシオン』に最も近い清らかな心の持ち主。
あの子が王になるのが一番なのだ。
争うなんて馬鹿馬鹿しい。
僕はそう考え、父王に頼み込んで皇太子の地位を廃していただいた。
我侭を聞いてもらう代わりに国に帰らねばならなくなったが、王宮から遠く離れた辺境の土地を頂いたので、そこで無難に過ごせればいい。
ああ、もっと早くにそうすれば良かった。
国に居た頃にその考えに至っていれば、きっと母を失う事だって無かったはずなのに。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
子悪党令息の息子として生まれました
菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!?
ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。
「お父様とお母様本当に仲がいいね」
「良すぎて目の毒だ」
ーーーーーーーーーーー
「僕達の子ども達本当に可愛い!!」
「ゆっくりと見守って上げよう」
偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
とある隠密の受難
nionea
BL
普通に仕事してたら突然訳の解らない魔法で王子の前に引きずり出された隠密が、必死に自分の貞操を守ろうとするお話。
銀髪碧眼の美丈夫な絶倫王子 と 彼を観察するのが仕事の中肉中背平凡顔の隠密
果たして隠密は無事貞操を守れるのか。
頑張れ隠密。
負けるな隠密。
読者さんは解らないが作者はお前を応援しているぞ。たぶん。
※プロローグだけ隠密一人称ですが、本文は三人称です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる