326 / 437
エリス姫外伝・願いの空
エリス姫外伝・願いの空 2
しおりを挟む
王妃とは言っても、実は私はまだ、王とは結ばれていない。
ヴァティールが、
「エリスを泣かせたらブッ殺すッ!!!
結婚しても許可できるのは『交換日記』までッ!!」
と散々脅したせいか、王は私が大人になるまで待ってくださるという。
私は王家の娘なのでそういう覚悟はあったけれど、ありがたく王の好意をお受けした。
ゴメンナサイ。アルフレッドお兄様。
もうしばらくの間だけ『優しい兄』でいてくださいね。
時々『リオン』という少年の事を思い出す。
ほんのひととき見ただけの、恐ろしい少年。
私が王宮に来たときには存在せず、誰も口にしなかった少年。
優しくて、いつもニコニコ明るいヴァティールとは全然違う。
体は同じだというのに、暗い瞳をした魔物のように恐ろしい邪悪な少年。
ためらいもなくアリシアお姉さまを傷つけ、笑っていた。
彼のために私は、親より頼りにしていたヴァティールを失った。
泣き叫びたかったけれど、先にエル様に泣かれてしまった。それも号泣。
ズルイ。
もう大人なのに。男なのに。
先に泣かれたら、私が泣けないじゃない。
それでなくても私はエル様と違って『常にあらゆることに耐え、優しく笑っていなければいけない』立場。
ブルボア王国の民を大勢殺した『敵国の姫』が不平不満を言うなんて許されない。
常に優しく無欲、慈悲深く。
そう振舞うことで、私はこの国に居場所を作ってきた。
でもそれが出来たのは、常にヴァティールが私を支えてくれたから。
だから私は折れなかった。
今は王妃となり、この国の民たちにも愛されている。
最初は冷たかった人々が、私にも優しく笑いかけてくる。
居場所は出来た。
でもヴァティールがいないことが、こんなにも淋しい。
すっかり元気をなくしてしまった私にある日、王がこんな話をして下さった。
もうとうに滅んでしまった大国の、優しい王子たちの話。
彼らは『御伽の国』みたいな素敵な国に住んでいたけれど、とある大国……おそらくはアレス帝国――――――に攻め滅ぼされ故国を失った。
そしてこの国に身分を隠して流れ着き、ここを新しい祖国とするため頑張った。
特に弟王子は、兄とブルボア王国のために尽くし抜いたらしい。
それなのに兄や皆から『忘れられた』と思い違い、それがとても悲しくてあのような狂気に走ってしまった。
でも本当はとても優しい……普段は自分のためには何一つ望まないような大人しい子だったのだそうだ。
兄であるエル王子は弟を止められなかった事を今でも深く悔やんでいる。
悔やんで悔やんで、今にも壊れそうなほど悔やんでいるのだという。
そうなの?
あの日泣いたっきり、エル様はいつも笑っている。
若いのに重鎮に登りつめ、皆に頼りにされて、いつも楽しそうに笑っている。
もう、あの日のことは彼の中では『無かったこと』になっているのかと思っていた。
だってエル様は新婚さんだし、あのアリシアお姉さまがずっとついていて下さるし、子供だって生まれた。
だからあんな悪夢は忘れてしまいたいのかと思っていた。
でも違った。
「もし弟の事を一瞬たりとも忘れずにいることが出来たなら、きっと弟は壊れなかった。リオンとヴァティールは表情も歩き方も全然違う。
もしあの時よく見ていたら……花束を持って歩いてきた弟に『お帰り、リオン』と言ってやれたなら……きっとあんな事にはならなかった」
そう言って彼は今も悔いているのだそうだ。
ヴァティールが、
「エリスを泣かせたらブッ殺すッ!!!
結婚しても許可できるのは『交換日記』までッ!!」
と散々脅したせいか、王は私が大人になるまで待ってくださるという。
私は王家の娘なのでそういう覚悟はあったけれど、ありがたく王の好意をお受けした。
ゴメンナサイ。アルフレッドお兄様。
もうしばらくの間だけ『優しい兄』でいてくださいね。
時々『リオン』という少年の事を思い出す。
ほんのひととき見ただけの、恐ろしい少年。
私が王宮に来たときには存在せず、誰も口にしなかった少年。
優しくて、いつもニコニコ明るいヴァティールとは全然違う。
体は同じだというのに、暗い瞳をした魔物のように恐ろしい邪悪な少年。
ためらいもなくアリシアお姉さまを傷つけ、笑っていた。
彼のために私は、親より頼りにしていたヴァティールを失った。
泣き叫びたかったけれど、先にエル様に泣かれてしまった。それも号泣。
ズルイ。
もう大人なのに。男なのに。
先に泣かれたら、私が泣けないじゃない。
それでなくても私はエル様と違って『常にあらゆることに耐え、優しく笑っていなければいけない』立場。
ブルボア王国の民を大勢殺した『敵国の姫』が不平不満を言うなんて許されない。
常に優しく無欲、慈悲深く。
そう振舞うことで、私はこの国に居場所を作ってきた。
でもそれが出来たのは、常にヴァティールが私を支えてくれたから。
だから私は折れなかった。
今は王妃となり、この国の民たちにも愛されている。
最初は冷たかった人々が、私にも優しく笑いかけてくる。
居場所は出来た。
でもヴァティールがいないことが、こんなにも淋しい。
すっかり元気をなくしてしまった私にある日、王がこんな話をして下さった。
もうとうに滅んでしまった大国の、優しい王子たちの話。
彼らは『御伽の国』みたいな素敵な国に住んでいたけれど、とある大国……おそらくはアレス帝国――――――に攻め滅ぼされ故国を失った。
そしてこの国に身分を隠して流れ着き、ここを新しい祖国とするため頑張った。
特に弟王子は、兄とブルボア王国のために尽くし抜いたらしい。
それなのに兄や皆から『忘れられた』と思い違い、それがとても悲しくてあのような狂気に走ってしまった。
でも本当はとても優しい……普段は自分のためには何一つ望まないような大人しい子だったのだそうだ。
兄であるエル王子は弟を止められなかった事を今でも深く悔やんでいる。
悔やんで悔やんで、今にも壊れそうなほど悔やんでいるのだという。
そうなの?
あの日泣いたっきり、エル様はいつも笑っている。
若いのに重鎮に登りつめ、皆に頼りにされて、いつも楽しそうに笑っている。
もう、あの日のことは彼の中では『無かったこと』になっているのかと思っていた。
だってエル様は新婚さんだし、あのアリシアお姉さまがずっとついていて下さるし、子供だって生まれた。
だからあんな悪夢は忘れてしまいたいのかと思っていた。
でも違った。
「もし弟の事を一瞬たりとも忘れずにいることが出来たなら、きっと弟は壊れなかった。リオンとヴァティールは表情も歩き方も全然違う。
もしあの時よく見ていたら……花束を持って歩いてきた弟に『お帰り、リオン』と言ってやれたなら……きっとあんな事にはならなかった」
そう言って彼は今も悔いているのだそうだ。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
子悪党令息の息子として生まれました
菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!?
ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。
「お父様とお母様本当に仲がいいね」
「良すぎて目の毒だ」
ーーーーーーーーーーー
「僕達の子ども達本当に可愛い!!」
「ゆっくりと見守って上げよう」
偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる